侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

19 破廉恥アドラー捕獲大作戦④

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 「うわぁ……!」

 さすが公爵家の邸宅と言うべきか。アドラー公爵邸の敷地は広大で建物もそれは立派な造りだった。
 
 「何だか男の人の声が……」

 「あぁ、いざって時にすぐ動けるくらいの人数は駐在してるんですよ。」

 「いざって時って?」

 「急ないざこざですね。今ここに駐在してる人数で軽い暴動くらいは抑えられます。」

 暴動に軽いも重いもあるのか。アマリールはまた一つ勉強したと思った。

 「とにかく開けて貰わないと……」

 「大丈夫です。話は通してありますんで。」

 「そうなの!?」

 昨日の今日でこの手際。
 サンは意外にやり手なのかもしれない。
 (さっきはバカとか言ってごめんサン)
 門番も心得ておりますと言わんばかりに頭を下げる。

 「エクセル様は庭で鍛錬中です。」

 そう教えて貰いそのままサンと庭へ向かう。
 おそらくさっきの声が聞こえて来た方にいるはずだ。
 (いた!!)
 普通にしてる姿は久し振りに見る。
 やはり破廉恥な行為は皇宮でだけというのは本当のようだ。

 「アドラー公子!」

 「アマリール様?どうしたんですいきなり。お、サンも久し振りだな。」

 顔見知りだったのかサンはペコリと頭を下げた。

 「突然すみません。どうしても公子にお話したい事があって……」

 「話?俺に?」

 アマリールは激しく首を振る。
 そしてサンも援護した。

 「早目にお願いします。でないとゲイル様が殿下にとんでもない目に遭わされます。」

 「何だそれ。とにかくわかった。アマリール様もこちらへ。」

 こうして私達は公爵邸の中へと案内された。


 「で、話って?」

 「クロエ様にローランの第一王子との縁談が来たのはお聞きになりましたか。」

 「あぁ……」

 エクセルの顔が曇ったのをアマリールは見逃さなかった。
 (やっぱり……公子はクロエ様の事……!)

 「お願いです公子。どうかこの縁談を止めて下さい。クロエ様はローランへ嫁ぐ事を望んではいません。だから……!」

 しかしエクセルから返ってきた答えは予想もしないものだった。

 「なぜそんな事を俺に?」

 (……え……?)

 「なぜって……公子はクロエ様の事……」

 (愛してるんじゃないの……?)

 「俺にどうしろって言うんだ。決めるのはクロエ様だろう?」

 「そんな……」

 「クロエ様が決めた事に俺が口を挟む権利なんてない。」

 なんで……なんでそんな冷たい言い方するの?
 あなたクロエ様とどれだけ長い時間を過ごして来たのよ。私と殿下よりももっとずっと長い時間を共にして……愛して来たんでしょう?
 アマリールの中で言い知れない怒りが湧き上がる。

 「話はそれだけですか?それならもう皇宮へ戻って下さい。殿下も心配している事でしょう。」

 そしてこの一言をきっかけにアマリールの理性の糸は切れた。
 
 「クロエ様が決めた?そんなの……決めるしかないじゃない……!」

 「ちょ、お嬢!?」

 アマリールはサンが止めるのも聞かず、エクセルを睨みつけるようにして立ち上がった。 

 「クロエ様は生まれながらに覚悟を強いられてるのよ。なぜなら皇女になんて生まれてしまったから。国のための道具になるために育てられてきたから!」

 クロエ様だけじゃない。
 女は皆道具だ。国のため政治のためお金のため。そして男のために使われるんだ。

 「でも腹立たしいけど、認めたくないけど、そんな女に自由に生きる道を与えてくれるのもまた男なの!」

 どうしてこんなに腹が立つのだろう。悔しくて悲しくて、自分の事じゃないのに涙が溢れ出て止まらない。

 「この縁談を知ってクロエ様が何て言ったと思う!?鉄を輸入出来なくなると知ってクロエ様は何て言ったと思うのよ!?鉄は騎士の命だと言ったの!それがどういう意味かくらい破廉恥な事ばっかりしてるあなただってわかるでしょう!?クロエ様はあなたのためにローランに嫁ごうとしてるのよ!惚れた女にそこまでさせてあなた恥ずかしくないの!?」

 アマリールはそこまで言うとゼエゼエと息を切らしながらサンの方を向いた。

 「サン!!」

 「はい!」

 「帰るわ!!」

 「え!?」

 「こんな……こんな男にクロエ様を託そうとした私が間違ってたわ!こんな情けない男よりローランの第一王子の方がずっとクロエ様を幸せにしてくれるわよ!」

 そうだ。結局クロエ様はローランに嫁いで王子を生んだんだ。その人生が幸せだったかは本人にしかわからないが穏やかに暮らされていたと聞く。
 クロエ様ほどの女性ならローランの王子だってきっと大事にしてくれるはずだ。
 アマリールはエクセルに挨拶もせず走ってその横を通り過ぎた。顔も見たくなかったのだ。


 それからアマリールは馬車に揺られ皇宮への帰路についた。
 空はもう赤く染まり、街からは賑やかな声が聞こえていた。
 (……結局何も出来なかったわ……)
 運命を……それも他人の運命を変えようだなんて驕った考えだったのかもしれない。
 それでも二人には幸せになって欲しかった。
 皇宮に着くとアマリールは今度は自分から大人しく麻袋に入った。

 「ごめんねサン……今日はありがと……」

 しかしサンは何も言わなかった。
 ただ少しだけアマリールに同情したような顔をしていた。

 皇太子妃宮手前の茂みで麻袋から出たアマリールはフラフラとした足取りで部屋へ向かった。
 薄暗い部屋に入るとどっと疲れが押し寄せて来る。
 (……少し横になろう……)
 しかし寝台には先客がいた。

 「殿下……」

 ルーベルは薄暗い寝室で明かりもつけずベッドに横になっていた。

 「やっと戻ったか。」

 何も言わない。何も聞かない。
 でも殿下は全部わかってる。

 「殿下ぁ……!!」

 アマリールは手を伸ばし走った。
 当たり前のように抱き締めてくれるその人の腕の中へ向かって。

 「……うっ……うぅっ……!」

 優しい腕は何度も何度も背中を擦ってくれる。

 驕ったつもりなんてなかった。
 ただこの温もりをあの二人にも知って欲しかっただけなのだ……。

 
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