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1章
9ー1 ユリシス
しおりを挟む「ねぇ、重いから早くどいてくれないかな。」
侍女としては無駄に大きい胸と臀部の持ち主が、ソファーで本を読む僕の側で躓いて覆い被さってきた。重いと言っているし実際本当に重くて早くどいてほしいのに、起き上がるフリをして僕の股間に胸を擦り付けてくる。
「ねぇ……君、名前は?」
頬に手を添えてやると上目遣いに微笑んで
「ワトキンス伯爵家のアンと申します。ユリシス様……わたくし、ユリシス様になら何をされても構いませんわ……」
そう言ってアンはねっとりとした視線をよこす。
「……臭い……。」
「えっ……!?」
「アラン!!ワトキンス伯爵令嬢を丁重に実家にお返ししろ!今後彼女は二度と王宮に足を踏み入れる事を許さん。」
護衛のアランが素早く彼女を回収しにきたが、アンと名乗ったその女は部屋を連れ出された後もギャーギャーと叫び続けていた。
「着替える。」
そう言うと古参の侍女は待ってましたとばかりに着替えを差し出した。できた侍女だ。もしかしたら僕が襲われた回数も記憶しているかもしれない。今度聞いてみよう。
新しく入る侍女達は皆一様に香水臭くて化粧が濃い。そういう者は雇わないようにと言っているのだが、この有り様だ。
「仕方ないですってユリシス様を見ちゃったら。美しすぎて同じ男の俺だって度肝を抜かれたくらいですから。」
僕が五歳の頃から仕えてくれる護衛のアランがケラケラと笑う。
「いくら僕が美しすぎるからと言って、まだ九歳の子供を襲ってどうするつもりだって言うんだよ。精通だってまだなのに。」
「自分で自分の事美しすぎるって言うの、本当スゲェ……。ていうかユリシス様、精通まだだったんですね……。」
香水の匂いが移った衣服を素早く脱ぎ捨て、真新しいシャツに袖を通す。
「臭い女は嫌いなんだ。香水の匂いも白粉の匂いも吐き気がする。義務じゃなければ夜会なんて絶対に出ない。」
憂鬱だ。せっかく着替えても、またすぐ臭くなる。
「まぁ今夜の夜会はデカいですからね。お気の毒ですが、俺はユリシス様の命はお守りできますけど、鼻までは無理です。諦めて下さい。」
アランの言葉に古参の侍女達も微笑んで同意していた。
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