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2章
14
しおりを挟む王宮からの迎えが来たとの知らせに外へ出ると、そこには王族専用の豪華な馬車が待っていた。
「ちょ、ちょっとお父様……これ、王族の方しか乗れない馬車じゃないの…?」
血統の良さを表す美しい毛並みの馬に金で縁取られる大きな車体。王家の紋章が彫られたそれを見た瞬間言葉を失ってしまった。
「マ、マリエル様…」
「ロジェさん!?」
緊張したような上擦った声で私の名前を呼んだのはいつも送迎してくれている御者のロジェさんだ。見知った顔に緊張する心が緩む。
「マリエル様、本日はユリシス殿下よりこの馬車でお連れするよう仰せつかっております。」
「ユリシス様から!?」
「はい!マリエル様はとても緊張してらっしゃるだろうから、顔見知りの俺が行けばほっとするだろうって……あの俺、ほんとすごく光栄です!かならず無事に王宮までお連れします!」
「ロジェさん…ありがとう。」
ロジェさんのそばかすが可愛い笑顔に、緊張していた身体からふっと力が抜けて涙腺が緩んでしまう。
「さぁ、皆さんどうぞご乗車下さい!」
手を貸してもらい乗車すると三人乗っても余裕なくらい中はとても広く、座席は革張りで程よい弾力が腰の負担を和らげる。
「さすがに王族専用だけあって素晴らしい作りだね。」
お父様が感心している。
そしてロジェさんの声掛けを合図に馬車は王宮へ向けて走り出した。
*************
お城へ近付くにつれて貴族のものであろう馬車がちらほらと見えるようになる。おそらく今夜の招待客だろう。
開門の時間まではまだまだあるが、我先に入らんとするものが門の前で列をなす。
「すごいわねー。まだ開門まで三時間もあるのにもう並んでるわ。一番に入場して前列を陣取ろうって魂胆ね。」
私達公爵家は身分が一番上のため前列に並ぶのが当たり前だ。けれど侯爵家以下の貴族は山ほどいるため、皆王族の目に留まろうと前列確保に必死らしい。
「見てあれ、何か揉めてるわよ。」
止めればいいのにオデットが少し窓を開くと外から男性の怒鳴り合う声が聞こえてくる。
馬車がぶつかったのを許してやるから順番を替われとか何とか……ほとんど言い掛かりに近い内容で聞くに耐えない。
しかし王家の馬車が見えた途端周りが一斉に静かになる。
私達は開門を待つ貴族達の横を通り過ぎて城門へと向かう。
ユリシス様から王妃様は夜会が始まる前に私に会う事を希望しているとの旨を聞き、こんなに早くの登城となった。その間父と姉は王宮の応接間で待たせてもらう事になっている。
「大丈夫かい?マリー。」
心配そうに父が私の顔を覗き込む。
「うぅぅ………胃が痛くなってきたけどもう逃げる訳には行かないから頑張る………。」
「息子さんから襲われまくって困ってますってちゃんと言ってきなさいよ。」
オデットの言葉に父が胸を押さえてハンカチを取り出した………。
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