【本編完結】マリーの憂鬱

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4章

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「そして馬車の前には血だらけで倒れる男女がいた。お前は介抱する事はおろか医者を呼ぶ事すらしなかった。あげく“馬車の前に飛び出したお前らが悪い”とのたまったそうだな。
………可哀想に。轢かれた二人は亡くなったそうだよ。」

何て惨い事をするの……。
何の罪も無い人々を自分の欲求を満たすためだけに馬車で轢き殺すなんて。
決して許される事じゃない。たとえ貴族であっても……いえ、貴族だから尚更よ!

「ユリシス殿下!それはサラ様の作り話ですわ!!あの日確かに私はサラ様をお送りしました。けれど街になど行ってはおりません!きっとサラ様はマリエル様に脅されているのですわ!だからそんな嘘を……。
ユリシス殿下信じて下さいませ!私はそんな……そんな人道にもとる行為など決して致しませんわ!!」

「そうですぞ殿下!マチルドは確かにわがままなところはありますが、そのような卑劣な行いをする人間ではありません!
幼い頃より殿下に相応しい貴婦人となるために…未来の王妃に必要な知識・教養を身に付けるため、必死で学んできたのです。それなのに、それなのに殿下はそのような妄言を信じられるのですか!?」

ヘルマン侯爵とマチルド様の剣幕を前にしてもユリシス様の顔には寸分の動きもない。
いつだったか姉の言っていた言葉の通り“無感情の王子様”そのものだ。

「マチルド……私はね、この話をサラから聞いた時何か引っかかるものを感じたんだよ。以前まったく同じ話を聞いた事があるとね……。
だから聞いてみたんだよ。本人にね。

君、アニーという名の女性を知ってるかい?」

「……アニー?いいえ、存じ上げません……。」

「そう。君は憶えていなくても彼女は憶えていたよ。自分と母親を轢いた黒塗りの馬車の事をね。君、相当幼い頃からやってたみたいだね。鬼ごっこと言う名の平民殺しを。」

………アニー………?
嘘………私の知ってるあのアニーなの……?
本人に聞いたって……まさかユリシス様、アニーに会いに?

「ヘルマンの名で出掛ける時には今日ここへ来る時と同じ家紋の刻まれた白塗りの馬車……じゃあ黒塗りの馬車は人殺し用と言ったところか。」

「ユリシス殿下!!いくら殿下と言えど酷すぎますわ!!大体なんなのですそのアニーと言う女は!?大方マリエル様にお金でもつまれて妄言の片棒を担いでいるに違いありませんわ!!」


悔しい………!
こんな人にアランとアニーはお母さんを奪われたの………!!そしてアニーの脚までも……!!

身体中の血が煮えたぎるようだ。
許せない……!許せない!!


「マリーちゃん、悔しいのはわかる。でも今は我慢だ。今飛び出たら真実を吐かせる前にあいつらに逃げられてしまう。ユリシスを信じるんだ。」

「サーリー様………!」

強く肩を掴まれていなければ、きっとなりふり構わず飛び出していた事だろう。



「いいや、アニーの事をお前は知ってるよ。さぁ、よく思い出せ。記念すべきお前の初めての殺人だ。
羨ましかったんだろう?母娘で仲良く手を組んで歩く姿が。幸せそうな笑顔が。
お前があの日轢いた母娘は私の護衛のアランの母親と妹だ。
当時の御者を探し出し問い詰めたらあっさり吐いたよ。お前の指示でやったとな。そしてその日乗っていたのがいつもは使わない黒塗りの馬車だった。
元御者は身元がばれないようにわざわざ遠回りして帰るようお前に指示されたと言っていたよ。

サラの馬車が壊れた時はちょうど人を轢きたくてうずうずとしていたんだろうね。そしてサラは郊外に住んでいるから遠回りして帰れる。こんな好都合な事はない。ねぇマチルド?

そしてお前の狂気を恐れたサラはこの日を境にお前と距離を取るようになった。」


「……わ……わたしは………」


マチルド様は言葉にならない言葉を何度も繰り返している。


「アランの母親は死に、妹のアニーは一生歩くことの出来ない身体となった。そしてアランが一縷の望みをかけてアニーを預けたのがフォンティーヌ公爵領の療養園だ。

そしてそこで私はマリーを見つけたんだ。
お前に虐げられ続けて傷付いた彼女をね。」


「お、お待ちくださいユリシス殿下!そんなはずは、そんなはずはございません!!何かの間違いです!なぁ、マチルド!?」


「黙れ」


冷たい声が響き、ヘルマン侯爵とマチルド様の顔が歪む。


「ヘルマン。マチルドがお前に話して聞かせたマリーと自分の過去の話しは間違いではない。」

「そ、そうでございましょう!?やはり……」

「黙れと言っているのが聞こえなかったか。

話の筋は間違ってはいない。だが配役が違っている。マリーの美しい白金の髪を幽霊と罵り、周到に根回しして集団で虐めていたのはお前の娘のマチルドだ。

マチルド。サラは私に泣きながら謝ってくれたよ。お前に逆らえずマリーを虐めてしまった事を。逆らえば自分はもっと酷い目に合わされる。怖くて従うしかなかったんだとね。」

「そ、そんな………。マチルド、嘘だろう?ほら、何とか言いなさい。マチルド!!!」

ヘルマン侯爵の怒鳴る声にマチルド様の身体が大きく揺れた。




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