【本編完結】マリーの憂鬱

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5章

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「アラン、どうする?」

仮面の男性からの予想外の申し出にアランは少し困惑している。

「売られた喧嘩は即座に買う性格ですけど、さすがにお嬢さんの前じゃちょっと………。」

アラン、私が見てるから気になるのかしら。
でも見てみたい。皆が口を揃えて称賛するアランの剣技を。

「アラン、私は大丈夫よ!それに見てみたいの、アランの戦う姿を。」

この機会を逃したら、次はユーリが襲われる時になってしまう。そうなればもう観戦どころの騒ぎじゃないし、できるならそんな機会は訪れないで欲しい。

「マリーは見たいって言ってるよ?それに私も久し振りに見てみたい。駄目かい?アラン。」

アランは薄目で諦めたように遠くを見ている。

「仕方ないですね。でも責任取れませんよ。相手がどれくらいの腕前かもわかりませんし。」

そう言うとアランは立ち上がった。
訓練場がざわめく。アランの事は見たことなくても話くらいは聞いたことがあるのだろう。オットー公爵と共に戦場を駆けたアランの話を。


「光栄です。アラン様に手合わせしていただけるなんて。」

仮面の男性は胸に手を当てて言った。
心なしか少し興奮しているようにも見える。

「名前は?」

「………クリスです。」

クリスと名乗った青年の前にアランは立つ。
既に剣を抜き、構えを取るクリスとは対照的にアランは肩幅に脚を開き、目の前の状況を観察するかのように立っている。



「俺はそういう無駄な構えは好きじゃない。」



開始の合図と共にアランが言葉を放った瞬間、目の前のクリスの手から剣が飛んだ。

えっ!?



「拾え」

アランは冷たく言い放つ。
一瞬の出来事に、剣を飛ばされたクリスは身動きすら出来ず立ち尽くしている。

「拾わないなら殺すぞ」

アランはそう言って剣を一振りし、クリスの反応を待っているようだ。
クリスはアランから視線を逸らさぬよう後方に飛んだ剣を拾い上げるとゴクリと唾を飲み込み、先ほどより距離を取った。

「……行きます!」

強く踏み込んでアランに斬りかかる。
斬り返す隙を与えまいとしているのか、おそらく限界であろう速さで剣を振り、アランを押し返そうとしている。しかしそれを涼しい顔で、かけられた力を流すように受けるアランの脚がクリスの膝の横を蹴る。

「下がガラ空きだ」

骨の擦れ合うような鈍い音が響くと同時によろめいたクリスが上を仰ぎ見た瞬間、まるで死神の鎌のようにゆっくりとアランの剣が振り下ろされる。


「きゃーっっっ!!!」


首が落とされる!!
そう思った瞬間、恐ろしくて咄嗟にユーリの胸に抱きつく。


・・・・・・ん?


「マリー、大丈夫だよ。ほら見てごらん?」


優しいユーリの声に顔を上げると………そこには
クリスの首すれすれで光るアランの剣の刃が。


よ、良かった………生きてる。



「そこまで!!!」

レーブン様の声が響く。



「……本当に、何考えてるのレーブン。嫡男の首が飛んでたらどうするつもりだったの?」

え?嫡男………?

ユーリの問い掛けにレーブン様は困ったように笑う。

「申し訳ありません殿下。そしてアラン殿も。愚息がどうしてもと聞かぬもので。おいクリストフ!仮面を取りなさい!」


クリストフと呼ばれた青年は、諦めたように仮面を外し立ち上がる。


「殿下、アラン様……そしてマリエル様も、本当に申し訳ありませんでした。私はクリストフ。クリストフ・レーブンと申します。」



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