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6章
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しおりを挟む当然と言えば当然だが、その後の晩餐も気持ちの良いものではなかった。リンシア王女はユーリの隣にいる私を居ない者のように扱い、その度にユーリは私と会話をするなどして気を遣ってくれたが、これでは何のためにこの日に向けて用意をしてきたのか…全てが無駄になったような気がした。
「リンシア王女の滞在中はマリエル嬢が色々と案内してくれる事になっている。彼女はとても信頼できる人物ですよ。」
「その必要はありませんわ。マリアンヌに案内して貰いますもの。」
「しかしマリアンヌ嬢では王宮の事には不慣れだろう。」
「なら何かありましたら呼びますわ。」
陛下の言葉にもこの調子だ。私に対するまるで侍女のような扱いに、聞いていたお父様もさすがに怪訝な顔をしたが相手は王女だ。何も言える筈がない。我慢するしかないのだと悟ったその時、シャルル様がとびきり弾んだ声で言ったのだ。
「良かったねマリー!面倒な案内役しなくていいんだって!それなら明日からは僕とチェスしよう!あと美味しいお茶もあるんだよ。この前サーリーが持ってきてくれたやつ!まだ飲んでないでしょう?僕が淹れてあげるね!」
「駄目だ。マリーは私の側で政務を見学して貰う。お前と遊んでる暇はないよ。」
「兄上は夜マリーを独り占めしてるんだから、昼間くらいは僕と過ごす時間をくれてもいいでしょ!?」
「それとこれとは関係ない。マリーと結婚したらいずれ覚えて貰わなければならないんだ。早いに越したことはない。」
いつもの口喧嘩だけど、きっと私のために言ってくれているのだろう。二人の優しさがじんわりと染みて、涙腺が緩みそうになる。
「まぁ………婚約もまだなのにユリシス殿下と閨を共に?とんだ婚約者候補様ですわね。」
リンシア王女は揚げ足を取るようにして言葉を挟む。
「周りが公爵家の深窓のご令嬢などと言うからどれほど慎み深い方かと思ったら……。」
無視していたくせに、こんな時だけ話に参加してくる。いくらマリアンヌ様の事があるとはいえ、これが初めて会う人間に対する一国の王女の態度なのだろうか。
「王子の寵を得るために身体を使うなんてよくある話ですわ。まさか噂に名高いユリシス殿下がそのような方に惑わされるなんて。一体どこで閨の作法を学ばれたのですマリエル様?」
口元を歪めるようにして嗤うその顔はジョエル様の嗤った時の顔に似てる。この嗤いはダレンシアのお家芸なのだろうか。武力で解決する事を好むダレンシアは荒っぽい気性の者が多いとも聞くが、それは男性だけの話ではないようだ。そしてマリアンヌ様はリンシア王女に便乗するように割って入る。
「大人しそうな顔をされた方に限って意外に大胆だったりしますものね。恐ろしいですわ。」
と、わざとらしく眉を下げて困り顔を作る。
二人とも大勢の前でわざと聞こえるように言ってるのね…。
ざわめきに混じって酒に酔った貴族達の下卑た嘲笑も聞こえてくる。
何も言い返せない事に怒りを感じるというよりとても切なかった。ユーリとシャルル様にも申し訳なくて。
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