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6章
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しおりを挟むユーリの宮の近くは今日もたくさんの貴族がうろうろとしている。さすがに無断で立ち入る事はできないから不審がられない程度(十分不審だけど)の距離を保って。
今日はリンシア王女もお疲れのようで、王宮に用意された客室でゆったり過ごすとの事。ユーリとシャルル様もこれ幸いとばかりにマリアンヌ様の登城をやんわりと断ったそうだ。
私の姿を見付けるや否やひそひそと何か話し出した。おそらく“殿下に捨てられて可哀想”だのなんだの言っているのだろう。
「マリエル様!」
ユーリの宮の侍女エルザさんが小走りでやってくる。
「お待ちしておりました。ユリシス殿下もそれはもう………。」
エルザさんの顔には疲労の色が見える。
「エルザさん?何だかとてもお疲れのようですが………。」
「はい………その、件のご令嬢の事で殿下の機嫌がとても悪くて………。」
マリアンヌ様の事か。そうだよね。毎日やりたくもない事をやってくれているのだ。その気持ちは私もジョエル様の事でよくわかった。
「本当にご苦労様です。ユーリはお部屋に?」
「はい。朝からずっとマリエル様をお待ちです。どうぞこちらへ……。」
ユーリの顔を見てもいつも通りでいられるだろうか………。私は重い足取りでユーリの部屋へと向かった。
ユーリは窓辺に立って外を見ていた。
やっぱり彼の表情からは何を考えているのか読み取る事ができない。でも……
「ユーリ……」
名前を呼べば私を瞳に映し、優しく微笑んでくれる。迷わずに腕の中に飛び込めば大好きな大好きな彼の匂い。広い胸に顔を埋め左右に何度も顔を擦り付けるとユーリは笑う。
「私の恋人は少し会わない間に子犬になっちゃったの?」
「うん。だから我慢して?」
えいえいと顔をすりすりし続けるとユーリは大きな声を上げて笑い出す。
「あはははは!マリーやめなさい!こら!」
エルザさんが言った通り、私の居ない間ユーリは余程機嫌が悪かったのだろう。ユーリの笑い声を聞いて皆の顔が安心したような顔に変わった。
「もう…仕方ない子だなぁ。じゃあお散歩に行こう?子犬ちゃん。」
「お散歩?」
「うん。久し振りに二人で庭に出よう。」
「いいの?」
「ふふ。庭にいる暇な奴らに浮気男が恋人のご機嫌取りに一生懸命になってる姿を見せてやるさ。」
「ご機嫌取りしてくれるの?」
「それは後でのお楽しみだ。」
私達が手を繋いで宮の外へ出た途端、周りにいた暇な方々(ユーリ曰く)がざわめいた。しかしユーリは気にするでもなく薔薇園の方へと歩いて行く。
「いつ観ても本当に綺麗………。」
「もう少ししたら秋の薔薇が咲き始めるから楽しみにしていて。その頃はもう一緒に暮らしてるはずだから毎日一緒に散歩しよう。」
毎日一緒に………。
「嬉しい………。毎日手を繋いで歩いてくれるの?」
「君がまともに歩ける状態ならね。」
「???」
まともに歩ける状態…………………!!!!
「ユーリっっ!!」
「はは、マリー顔が真っ赤だよ。可愛いね。
あぁ、あそこに座ろう。」
ユーリが指差すのは薔薇に囲まれた東屋。
「ここなら人の目も気にならない。」
ユーリに手を引かれ東屋の椅子に腰掛ける。
「………昨日は何してたの?」
「昨日は………」
ユーリの目は優しい。優しいけど何もかも見透かすような目。
……嘘をつき続けられないなら最初からやらない方が良いとシャルル様に言われた。その通りだと思う。
でもユーリはきっと何もかも知ってる。
何故かはわからないがそんな気がする。知っていてこんなに優しく包んでくれるんだ。なんて強い人なんだろう。私が逆の立場なら泣いて怒って叩いて、ユーリの言い分なんて聞きもしないだろう。
「昨日はね………療養院へ行ったの。」
「うん…。」
「そしたらそこにジョエル様が来てね……。」
「………。」
「私と、ヴィクトル様とジョエル様、あとは子供達でかくれんぼしたの………。」
「……かくれんぼ?」
「そう。ジョエル様すごいのよ?あっという間に皆を見付けてしまって。ヴィクトル様なんて全身に葉っぱを被せてまで頑張ったのに……。それで………」
「それで?」
あの時嘘をつくためにジョエル様の瞳を見た。
でも嘘をつくためにユーリの瞳を見るのは絶対に嫌だ。私は本当に馬鹿だ。ユーリに嘘なんてつける訳がない。だってこんなに愛しているのだから。そんなの最初からわかっていたはずなのに。
私は真っ直ぐにユーリの瞳を見た。
「ジョエル様は私を愛してると言ったわ。許して欲しいと。私はジョエル様のその気持ちを利用しようとしたの。結局駄目だったけど…。最低よね………。」
ユーリは私の目を見つめたまま何も言わない。
呆れているのだろうか。それとも私に失望して心が離れて行ってるのだろうか。とても長い時間私達はお互いを心の奥を覗くように見つめ合った。
「………君が何も言わないのならそれでもいいと思ってた。泣き腫らした目で帰ってきた時に、おそらく何かあったんだろうと思ってね。昔の事だけじゃない何かが。」
ユーリは指先を私の頬に滑らす。
「それに………あいつの気持ちには大分前から気付いてた。」
「大分前から………?」
「君を見る目だ。同じ男だからわかる。いや、同じ女性を愛した男だからわかるんだ。」
「……怒ってる?嫌われても仕方ない事をしたわ………。」
「………おいで。」
ユーリは私を軽々と抱き、膝の上に乗せた。
ユーリの綺麗な顔が私を覗き込む。
「言ったはずだよ。私には生涯君だけだと。」
「ユーリ………。」
「君は私のものだ。だけど君の心や考えや行動は私のものじゃない君だけのもの。例え何を考えて何をしたとしても私は君を信じるだけだ。そして私の元に戻って来たその時は……」
「戻ってきたその時は………?」
「………多分とても傷付いているだろうから、愛してあげるだけだ。ただひたすらにね。」
「ユーリ………」
私は馬鹿だ……。馬鹿だ大馬鹿だ。
何をしてるんだ本当に。ユーリだって平気なはずはない。だってこんなにも私の事を………
「ユーリごめんなさい………!!」
「…泣かなくていい。ただ君はもう少し理解した方がいい。嘘も隠しておけないくらい………こんなボロボロに泣くくらいに私を愛してる事をね。」
理解した。一生この人には敵わないと。
私は自分からユーリにキスをした。
何度も何度も。
「………あっ………!」
ユーリの手がドレスの中へと入り、私の下着をなぞる。
「ユ、ユーリ………!」
上へ下へ、布越しにゆっくりと割れ目にそって何度も行き来する指に身体の芯が疼く。
「こんなところじゃいや………」
「……どうして?ここはそうは言ってないよ…」
ちゅぷっという音がして、細く長い指が私の蜜口に沈んで行くのがわかる。
「…あんっ……や………」
ユーリの首筋に顔を擦り付けてイヤイヤをするとユーリは更に指を増やす。
「やだぁ…!ユーリ、誰かに見られちゃう…」
「見せてやればいいよ」
「え……?…………んっ!」
ユーリは指を二本、三本と徐々に増やしながら私に深く口付ける。柔らかく温かい舌が私のそれを絡め取って離さない。優しくて甘くて頭がクラクラする。もうユーリの事しか考えられない私は何度も何度も縋るように彼の名を呼ぶ。
「ユーリ…ユーリ……ユーリ………」
「…愛してるよマリー…欲しい……?」
ユーリは私の手を自身の昂りへと導いて触らせる。熱く張り詰めたそれはドクドクと脈打ち収まる場所を探してる。
ほんの僅かに残る理性がここは外なのだと言っている。私は恥ずかしくて、でも彼が欲しくて彼の首に抱きついて顔を伏せた。
「ユーリ…ユーリが欲しい…。」
消え入りそうな小さな声を彼はちゃんと聞いてくれていた。
「やっっ………!!」
熱を帯びた太い杭がズンっと一気に私の奥を突いた。最初からこんなに激しくするのは怖い。ユーリに伝えようと顔を上げるとユーリの綺麗な瞳が私を見つめている。
「ユーリ………?」
ユーリは眉を下げて微笑む。
「ごめんいきなり……我慢が利かなくて…優しくするからねマリー。私の大切なマリー………。」
そう言ってユーリは私の足を抱えてゆっくりと腰を進める。
「……あ…ん……ユーリ……深い……」
「マリー……キスして?唇も繋がっていたい…」
「うん……。」
ユーリの熱で上も下も溶けちゃいそう……。
甘く痺れる身体に気を取られ私は何も気付いていなかった。
ユーリが私を愛しながらある場所を見ていた事に。
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