【本編完結】マリーの憂鬱

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6章

45 薔薇の生け垣の向こうで

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『最後に真実を知ることができて本当に良かった。ありがとう……ジョエル様………。』


俺の手のひらに柔らかい唇を押し当てて、その豊かな胸に抱いてくれた。優しい彼女の体温。甘やかな香り。


この一瞬のためなら死んでもいい


そう思った







「リンシア王女がお疲れなので、今日は殿下から登城しなくていいと言われましたわ。」

「そうか………。」

別に王女が疲れていようがマリアンヌを自宮へ呼ぶのには関係ないだろうに………。
マリアンヌに来てもらっては困る理由でもあるのか?もしかして………彼女を呼ぶ気か………。

「城へ行く。」

考えるより先に身体が動いていた。

「お城へ行かれるんですの?では私も……!」

「お前はいい。」

「えっ!?」





あの日初めて彼女に触れた。身体だけじゃない。その心に。
俺は本当に愚かだった。彼女も俺の事を想っていてくれたのに……それなのに………。
彼女があの男に抱かれたのもすべて俺のせいだ。俺のせいで彼女にあんな言葉を言わせてしまった。


『こんな私ではジョエル様には相応しくない』


何でそんな切ない事を言うんだ。
君に相応しくないのは俺の方なのに。
俺の事を想い身を引こうとするなんて……なんていじらしいんだ。マリエル……君が可愛くて愛しくてたまらない。

今ならまだ間に合う。最後のカードを切らなくても君と俺は結ばれる事ができる。
今の俺にできるのは君の不安をすべて取り除いてあげる事だけ。急がなければ。ほんの少しの時間も無駄にできない。


王宮に着くとやはりマリエルはあの男の宮にいた。なんて男だ。あんなに彼女を悲しませておきながら平気な顔で部屋に呼びつけるなんて。

しばらく様子を伺っていると二人は手を繋いで部屋から出てきた。シモン様に気を遣っての事か。周りの貴族にマリアンヌと同じく彼女も大事にしているという事をアピールしているのだろう。

誰に気兼ねする事なくあの白く美しい小さな手に触れられるあいつが恨めしい。
惨めだと思いながらも足はあの二人を追うように進んで行く。

薔薇園の一角にある東屋に腰を下ろし、二人はしばらく話し込んでいた。彼女はとても真剣な顔をしている。その時彼女はあいつの膝へ乗せられ………泣き出した………。

泣いて首を横に降る彼女の身体に唇を、手を這わせて行く。
身体中の血が煮えたぎるようだ。許せない。あんなに泣いてるのに……しかもここは外だぞ?なぜ彼女の身体を人前に晒すような事をする!?

しかしいくら心の中で叫んだところで届くはずもない。彼女の身体があの男の上で艶かしく揺れる。

その時、あの男が俺を見た。
間違いない。あいつ、まさかこれを俺に見せるために…………?

男は彼女の唇を自分のそれで塞いだ。
まるで“お前には聞かせない”とでも言うように。



俺は踵を返しその場から立ち去った。


許さない。彼女は俺のものだ。
絶対に渡さない。絶対に。



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