【本編完結】マリーの憂鬱

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7章

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「……………ん………?」

広いベッド………あぁそうか、昨日はユーリの部屋に泊まったんだ……。
けれどユーリの姿はどこにも見えない。ソロソロとベッドから降りて寝室を出ると、そこにはまだ寝間着のままのユーリの姿が。

「ユーリ…おはよう。」

そう言うと私の方へ来て抱き締めてくれる。

「……ユーリ?」

「おはようマリー。さっきレーブンの所からクリストフが帰ってきたと知らせがきた。朝食を取り次第集まるよ。」

ついにクリストフ様が帰ってきた!

「わかった。なるべく早く支度するね。」

私は急いで身支度に取りかかった。






「クリストフ様!!」

「あっ!マリー様だ!久し振りー!!」

良かった。いつもの笑顔だ………けど

「何て挨拶の仕方だこのバカ息子!!!」

レーブン様から派手にげんこつ食らってる……。
頑張った息子さんをもう少し労ってやって下さいレーブン様!

部屋には既に前回と同じメンバーが集まっていた。

「すみません遅くなってしまって……。」

「いいのよマリーちゃん、急な知らせだったし。それに昨夜はユリシスが寝かせてあげなかったんでしょう?ごめんなさいね。」

王妃様はいつも優しい。チクリと嫌味を言われた息子はやはりしれーっとしているが。


「さて、じゃあみんな揃った事だし聞かせて貰おうかなクリストフ?」

陛下の言葉に皆背筋が伸びる。

「はい。ではまずこちらを………」

クリストフ様はテーブルの上に数枚の紙を差し出した。
そこには例の薬の製造に携わっていた人物及び同時期に勤務していた人物の名前・性別・生年月日・出身地が記載されていた。

「既に亡くなられた方は名前の横に✕印をしてあります。」

ホントだ。何名かに印がつけられている。

「それを除いても結構な数だな……」

ユーリは難しい顔をする。

「はい。フランシス殿下とも話したのですが、これを全員当たるにはかなりの時間と労力がかかります。とてもリンシア王女が帰るまでには間に合わない。なのでこの中から疑わしい者を特定するため、その人物の人柄や思想といったところに焦点を絞ってみました。」

皆の目がクリストフ様へと向く。

「まず研究内容。例えば毒だとか人に危害を加える事のできる薬の研究をしてるとかっていう奴ね。そして危険思想の持ち主かどうか。あとは出身地!原料の栽培に適した土地が必要だからね。それらを総合的に判断して怪しいと思える奴が一人いた。リンシア王女、ダレンシア国王から離れない怪しい医者の特徴を教えてくれる?」

「え?特徴?………えーっと、頭は禿げてて背は小さくて……超猫背って感じかしら……あっ!!あとね、右手にすごい火傷の痕があるわ!!」

リンシア王女が教えてくれた医師の特徴を聞いてクリストフ様の顔つきが険しくなる。

「間違いない。こいつだ。」

クリストフ様が指差したのはリストの中の一つ。そこには【ギヨーム・ヘルマン】と書いてあった。

「ヘルマン!?ヘルマンって?」

皆が驚いている。当たり前だ。マーヴェル家に関わりのある人物だと決めてかかっていた節があるからだ。しかしリンシア様が口を開く。

「待って。確かに名前はギヨームだけど、姓が違うわ。名前はギヨーム・セルバン。セルバンよ。」

「セルバンはヘルマンの親戚筋の姓だ。間違いない。ダレンシア国王に張り付いてる医者はその男だ。クリストフ、叔父上はなぜその男だと断定したんだ?」

「はい殿下。フランシス殿下によるとギヨームは昔から国に内密で薬の人体実験を繰り返していたそうです。」

人体実験………?

「種類は様々。すぐに効く致死性の高い毒や遅延性でジワジワ効かせてバレにくい毒。人の神経に作用して幻覚を見せるようなもの……とにかく人に危害を加えるものなら片っ端から実験していたらしい。」

「そんなことしてたのになんでバレなかったの!?」

リンシア王女の疑問ももっともだ。死人だって当然出ただろうに………。

「ヘルマン姓の持ち主だ。人格は持たなくても金だけは持ってる。日々の食事に困るような貧しい家の者達を金の力でうまく騙して実験し、死んだら口封じにまた金をばらまく。そんなこんなで長年隠し続けて来れたらしい。右手の火傷は研究中に起こった事故のせいだと聞いた。かなり目立つ傷なんだってね。」

そんな………マチルド様といいヘルマン一族は一体どうなっているのだ。

「しかしなぜそんな男がダレンシア国王に近付く事が出来たのだ………?誰かの手引きがなければ無理だろう。それもかなりの有力者でなければ………。」

陛下は首を捻る。

しかしユーリは何かひっかかっているようだ。
さっきから黙ったまま考え込んでいる。

「それはギヨーム本人の口から聞くのが一番でしょう。任せて下さい!僕が必ずこの国へ連れて帰って来ます!」

クリストフ様の言う通りだ。これ以上はもう本人の口から聞くしか手はないだろう。しかし本当にクリストフ様は大丈夫だろうか………。

「リンシア王女。ダレンシア国内で信用のおける人物は誰かいますか?できれば有力者で。」

お父様?

「兄と……父に昔から仕えてくれている将軍がいます。今回の事で父を諌めようとした結果今は遠ざけられてしまっているけれど、その人なら信用出来る。」

「ではクリストフ様とダレンシアへ帰国したら、まず一番にその方達に協力を仰ぎましょう。成功の見返りはガーランドからの分厚い支援です。それで民の飢えはすぐに解消できるでしょう。」

「お父様………!」

「マリー。君の夫になる方の能力は凄いんだよ?ユリシス殿下がこの数年でガーランドにもたらした富はダレンシアを救ってもまだ余りある。将来お父上を超える良き王になる事間違いなしだ。」

「おいシモン!!!たとえ真実でも言うんじゃない!!」

「はいはい。言われたくなかったら王妃様の周りばかりうろついてないでもう少し真面目に仕事して下さいよ…。

さてリンシア王女………。私は思うのです。ダレンシアは確かに諸外国との争いが多い国だった。しかしあなたのお父上は力を正しく使うことの出来る人だ。やがて来るユリシス殿下の御世をダレンシアが共に歩いてくれるなら、これ以上心強い事はありません。そしてその未来のためにはあなたのお父上の力がまだまだ必要なのです。しかしこの作戦を成功させるためにはリンシア王女にも頑張って貰わねばなりません。出来ますか?」

リンシア王女は手を強く握り締める。

「………やります!必ず父を…ダレンシアを救ってみせる!そして………そして必ずレーブン公爵の元にお返しします。大切な息子さんを……!」

リンシア王女の瞳から涙が一雫こぼれ落ちた。




「よし!!じゃあ細かい事はまた後でつめるとして、とりあえず………じゃじゃーん!!フランシス様から頂いてきたワインで景気づけしましょう!!」

クリストフ様は部屋の角からワインの箱を出してきた。しかしそれがレーブン様の導火線に再び火をつけてしまう。

「いい加減にせんかーーー!!!酔っ払っとる場合か!!この一大事に!!」

「何でだよ!?僕だって不眠不休で帰って来たんだからちょっとくらい良いでしょ!?グイッと飲んでスカッと寝た後の方が良い考えも浮かぶってもんでしょうが!!」

確かに。ずーっと馬で走りっぱなしで疲れただろうに。

「レーブン、許してやれ。でも少しだけだぞ。成功を祈って皆で一杯ずつ飲もう。」

「陛下まで………。」

思わぬ陛下の加勢にレーブン様は肩を落として諦めた。



皆の前に美しいワイングラスが並ぶ。昼間からお酒って、何とも言えない背徳感がある。


「では………ガーランドとダレンシアの未来、そしてリンシア王女とクリストフの無事を祈って………乾杯!」


皆がグラスに口をつけ、ワインの美味しさに舌鼓を打つ。でも………


………なんだろう……気持ち悪い……。
寝不足でお酒を飲んだからかな………。

胃の奥からこみ上げるようなものを感じる。
そして視界が目まぐるしく揺れる。


「マリー!!!」



言うことを聞かない身体と意識。

ユーリが私を呼ぶ声が、遠くに聞こえた。



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