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7章
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しおりを挟む「殿下!大変です!!今城門へ、城門へオデット・フォンティーヌ公爵令嬢が到着されました!!」
「何だと!?」
生きていてくれたのか……!
黙って聞いていたシモンに目をやると、いつものように穏やかに微笑んでおり、何の動揺も見て取れない。まるで生きている事がわかっていたかのように。
「それで、オデットは今どこに!?」
「はい!殿下に急ぎ渡したいものがあると今こちらへ向かっております!護衛のエリック殿も一緒です!」
「なんと!!あいつも生きていたか!!」
レーブン公爵は立ち上がり叫んだ。あの王子妃宮の凄惨な状況を見た後だ、生存は絶望的だと思っていたのだろう。
「殿下!オデット様です!!」
「早く中へ!」
扉が開くとともに入って来たオデットは、およそ公爵令嬢とは言い難い町娘のような格好をしていた。
「本っ当にここの門番たら失礼しちゃうわよ!公爵家の者だって言ってんのに“ここはお前のような者が来るところではない”の一点張りよ!?あいつら後でたっぷりと説教してやるから!」
いやその身なりじゃ…とその場にいた全員が思った。質素なワンピースに髪は洗いざらし。しかし口には出さなかった。怖いから。
そして叫んでスッキリしたのかオデットは姿勢を正し陛下に向かって礼を取った。
「ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした。オデット・フォンティーヌただいま戻りました。」
オデットは顔を上げ、チラリと父親の顔を見るが表情を変えない。彼女は今シモンの娘としてではなく、王家に仕える臣下としてここにいる。そこに甘えは一切無い。
シモンもまた同じだ。愛する娘は必ず生きているとただ一人信じて疑わなかった。そして今、娘がその役目を果たす瞬間を黙って見届けようとしている。
「よく生きていた。報せを聞いた時は正直駄目かと思っていたよ。オデット嬢、一体何があったのか聞かせてくれるかい?」
「はい陛下。その前に一つお聞きしたい事がございます。私は火事に巻き込まれたその日に王宮へ早馬を飛ばしました。それは着いておりますか?」
「早馬?いやそれは聞いていない。ユリシス、どうだ?」
ユリシスも首を横に振る。
「やはり…。陛下、ヘルマン侯爵邸は見張られていたようです。もしかしたら私を見張っていたのかもしれません。」
「何故?」
「ヘルマン侯爵の書斎と娘マチルドの部屋からこれを見付けました。」
そう言ってオデットが差し出したのはヘルマン侯爵領の地図、領地の管理者名簿、鍵の付いた分厚いノートだった。それぞれ紙の端が湿ってよれている。
「濡らさないよう気を配ったのですがこちらも逃げるのに必死で……。」
「火事からだね?大変だっただろうに。」
「火事ももちろんですが、火事を起こした暗殺者からです。」
オデットの口から出た“暗殺者”と言う言葉にその場が静まり返る。
「早馬を飛ばした直後の事でした。金色の髪の男が屋敷に火をつけた。身体に傷をつけると王宮の取り調べでバレるから、生きたまま私達を焼き殺すのだとそう言っていました。なかなかに用意周到な男で万が一にも私達を取り逃がす事の無いように屋敷の周りを取り囲んでいて…。」
「金色の髪の男!?」
クリストフは勢いよく立ち上がる。
「オデット様!今金色の髪の男って言った!?」
「言った。言ったけど…あんたレーブン公爵家の長男坊じゃない。何やってんのこんなところで。」
「あ、そうか…オデット様は僕がマリエル様の護衛になる前にヘルマン元侯爵領に行っちゃったんだもんね。」
「マリーの護衛!?なんで公爵家の長男がそんな事……っていうか護衛がいるって事はマリーも来てるの?あれ?マリーは…?」
周囲が一転して重々しい空気に変わったのを素早く察知したオデットはユリシスをきつく睨み付けた。
「殿下…マリーはどこですか?」
「……マリーは拐われた。ダレンシアに。」
その瞬間オデットの目は限界まで開いた。
「何ですって!?」
耳をつんざくような叫びが部屋に響き渡る。
「本当だ。首謀者はジョエル・マーヴェル。」
「ジョエル!?あの馬鹿息子が何で!?」
「ジョエルはマリーを愛していた。マリーを手に入れるためにずっと前からこれを計画していたんだ。守れなくてすまない……!」
悔しそうに唇を噛み締めるユリシスにオデットは食いかかった。
「ふざけるんじゃないわよ!!」
「オデット!!」
「お父様は黙ってて!!私がこの男に話があるのよ!!“ジョエルから守れなかったすまない”ですって!?ふざけるんじゃないわよ!!
無理矢理マリーを領地の外に引きずり出して、自分勝手に想いをぶつけて勝手に婚約進めて、挙げ句避妊すらさせずに縛り付けておいて拐われた!?私から見たらあんたもジョエルも何も変わらないじゃない!!私達が大切に大切に守ってきたあの子を何だと思ってるのよ!今回の事はあんたの責任よ!ジョエルのせいなんかじゃない、あんたの責任なのよ!わかってるの!?」
言いながらオデットの瞳からは涙が流れ落ちている。
「その通りだ…。オデット、君の怒りはもっともだ。だがマリーは必ず取り返して見せる!今はそのための話し合いをさせてくれ…頼む!!」
ユリシスはオデットに向かって頭を下げる。一国の王子が深く頭を下げるその様に、その場にいた全員がユリシスの悲しみの深さを見たような気がした。
「どうやって助けるって言うのよ…」
「まずはお互いの状況、そして情報を共有し合おう。話しはそこからだ。」
「…わかったわ。」
そして一旦落ち着いたオデットだったがこの後マリーの腹に子が宿ったと聞き再度発狂する事となる。
会議はまだまだ続く!
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