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7章
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しおりを挟む「ジョエル様の……側近……?」
クリストフ様の眼差しは怒りに満ちている。
「殿下、アラン様…そして皆も、絶対にそのリュカという男には手を出さないで下さい。その男は僕が殺す。たとえ何があっても。」
クリストフ様の目は本気だ。
けれどリュカの強さは尋常じゃない。そして人を殺す事に対して何の躊躇も感じられない。ニタニタといやらしい笑みを浮かべながら人の肉を斬り裂いては恍惚とするその様は、もはや狂ってるとしか思えない。
いくらクリストフ様が強いと言ってもきっとリュカには勝てない。圧倒的な強さを誇るアランですら確実に勝てるとは言えない。
「クリストフ様…ヴィクトル様を始め犠牲となった仲間の方達を思うと悔しいでしょうが、お一人でリュカと戦うのはどうかお止め下さい。あの男は狂ってる。人を殺す事を何とも思っていない。」
「わかってる。あの王子妃の部屋の遺体…そしてヴィクトルの遺体を見れば相手がどれほど恐ろしい奴なのかは。」
「それなら…「それでも!!」
「それでもやらなきゃならないんだ。ここでやれなきゃ僕にはレーブンの名を継ぐ資格なんて無い。ただの負け犬だ……!」
「…クリストフ様………。」
「…レーブン公爵家に仕える者は全員が僕の家族なんだ…。皆にとってはただの一兵士かもしれない。でもね、僕達は時に本当の家族よりも長く濃い時間を共に過ごす。そして死に物狂いで戦うんだ。一人も欠ける事なく全員で愛する人の元へと帰るために。」
全員が家族……。
「ヴィクトルが死んだのはリュカにやられたからじゃない。正々堂々と戦っていたらヴィクトルはあんな殺され方は絶対にしなかった。
ヴィクトルが死んだのは僕が…!僕が不甲斐なかったせいだ!いつまでも坊っちゃん気分でフラフラと好き勝手して…面倒事を全てヴィクトルが引き受けなければならなかったからだ!!今回の事だってそうだ!僕が自分でマリエル様の護衛に志願したのに側にいなかったから…!だからヴィクトルは…!!!」
「もうお止めなさいませ………。」
感情の制御が利かなくなったクリストフ様の肩をリンシア王女がそっと支える。
「…もしも亡くなられたのがクリストフ様だったとしたらやはりヴィクトル様は同じように苦しまれたはずです。それも我が子のように可愛がっていたクリストフ様なら尚更…親が子を奪われる苦しみは果てのない地獄です。
ねぇクリストフ様、なぜヴィクトル様はいつもクリストフ様の側にいらっしゃったと思いますか?」
「なぜヴィクトルが僕の側にずっといたか……?それは…父上が忙しかったからそれで親代わりに……」
「だとしても限度がありますわ。軍隊と言うのは凄まじい大所帯。他にだってクリストフ様の面倒を見れる者が山ほどいたでしょう?」
確かに…。皆が家族だと言うのは嘘じゃないくらいレーブン様の隊は仲も良かった。ヴィクトル様ほどの方ならずっとお守りをしている暇など無いはず。
「親の一番の喜びは子の成長を目の当たりにした時だと昔父が言ってましたわ。まぁ、うちの父も相当な戦闘バカなのでほとんど城にいなかったんですけどね。それで久々に帰ってくると目を丸くして驚いて、次に目がなくなるほど細まるんです。あれは喜んでいたんですわね。気持ち悪かったですけど。
ヴィクトル様は悔しかったと思いますわ。殺されてしまったこともそうでしょうが、何よりこれ以上クリストフ様の成長を側で見ることができない事が…。ヴィクトル様はクリストフ様がレーブン公爵家を継ぐその日までずっと側にいるおつもりだったのでしょう。だから護衛なんて事までなさったんですわ、きっと。」
きっとそうだ。誰よりも近くで見ていたかったんだ。愛しているから。
「リュカと言う男を倒す事は確かに大切な事です。けれど敵討ちにばかり気を取られ、大切な事を見失ってはいけません。」
「…大切な…事…?」
クリストフ様はリンシア王女に問う。
「もう、クリストフ様ったら!さっきご自分で仰ったでしょう?【全員で愛する人の元へ帰るんだ】って。そのためには全員が一丸となって事に当たらねば為すことは出来ません。大丈夫。必ず機は来ます。だからどうか冷静に。ね?」
クリストフ様はしばらくうつむいたまま動かなかった。リンシア王女は何度か優しくクリストフ様の背を擦って離れた。
「……わかってる。僕じゃリュカと言う男を倒せないかもしれない事。でもできる限りやりたいんだ。この手でやらなきゃならないんだ。でも…でももしそれでも駄目だったらアラン様!頼みます…僕の代わりにヴィクトルの仇を討って下さい…!!!」
目に溢れんばかりの涙を溜めてクリストフ様はアランを真っ直ぐに見た。敵討ちを他人の手に委ねるのは悔しいだろう。でも自分の悔しさよりもクリストフ様にはヴィクトル様の仇を何としても討つ事の方が大切なのだ。
そしてアランはそれを正面から受け止めて言った。
「……任せておけ。地獄からも這い上がれないようにしてやる。」
「はい!!………リンシア王女も……ありがとう………。」
照れ臭そうに言うクリストフ様に、リンシア王女は何も言わずただ微笑んだ。
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