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7章
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しおりを挟む「隠し通路って…こんな所通るの!?」
クリストフが驚くのも無理はない。助けに来たイアンが案内したのは城の奥にある井戸の中だった。
「下に降りると横に通路があります。時間がありません。参ります。」
イアンは手本を見せるようにスルスルと手の中でロープを滑らせるように降りて行く。
「迷っている暇はない。行くぞクリストフ!」
続いてユリシス、アランと降りて行った。
「道理で…何でそんなに身軽な格好なのかと思ったけど、これじゃ軽装で来るのも頷けるよ…」
はぁ、と溜め息をこぼしクリストフはロープに手を掛け、残して来たリンシア王女の宮をチラリと振り返る。
「…頼むから無事でいて…お願いだ…。」
そして次の瞬間、クリストフは勢いよく下へと滑り降りた。
ジメジメと暗い通路をひた走るがいつまで経っても出口は見えてこない。
「イアン、この通路はどこに通じているんだ?」
「はい殿下。この通路は城を出た先にある森の中、王家が管理する猟師小屋の床下へと繋がっております。小屋のすぐ側で兵士二十名が殿下の到着を待っております。」
「二十名か。逃げ切るためだけなら充分な数だ。感謝する。」
「いえ、全ては主の命にございます。」
「そうか。素晴らしい主だな。」
ユリシスの言葉にイアンは僅かに微笑んだ。
「見えました。あの灯りが出口の目印です。」
灯りの先に階段らしきものが見える。
「もう少しの辛抱です。外には馬が用意してありますので。」
「あ~!それは嬉しいかも!僕ら全員分?」
「はい。ご用意させて頂きました。リンシア殿下からの書状に皆様の人数も記されておりましたので。」
「さすがリンシア王女!やるぅ!」
クリストフはご機嫌だ。それもそのはずガーランドを出てからというもの箱の中での窮屈な生活を強いられ寝食の状況も悪すぎた。今も走りっぱなしのこの状況で馬は有り難い。
イアンが先導し階段の先の床板を押し上げる。小屋の中はやや広めで、定期的に手入れされているのだろう埃も少ない。
「さぁ、参りましょう。」
イアンは外へと続く扉へと手を掛けた。
扉が開いて外の空気が流れ込んでくる。
しかし一歩踏み出したところでイアンの足は止まった。
「どうした?」
不審に思ったユリシスが声を掛けるとイアンは剣の柄に手を掛ける。
「殿下……!!お下がり下さい!!」
イアンの視線の先に目を凝らすとそこには獣にでも襲われたかのように散らばる人の四肢が見える。
「…何だよあれ……!」
クリストフはたまらずに声を上げた。戦場でもこんな惨い遺体は見たことがない。まるで子供が無邪気に壊してしまった人形のように転がる首や胴体、そしてそこから更に切り離された腕と脚。切断面は恐ろしい程に滑らかで躊躇いがない。
「あれぇ?どこから出てきたの?」
呑気で、少年のように澄んだ声が聞こえる。イアンは険しい顔で剣を抜いた。
「そうか、隠し通路があったんだね?それは気付かなかったなぁ。でも流石ジョエル様だ。城の裏手に行けって言われた時は“何で?”って思ったけど、まさかこんなに大きな獲物が釣れるなんてね。」
頭から血を被り嗤っているその男の髪の色は金色だ。
「…あいつ………!!!!!」
その男が視界に映った瞬間クリストフの毛は逆立ち、全身の細胞が怒りに沸いたように震えた。
間違いない…!!ヴィクトルを殺したのはこいつだ!!
クリストフのただならぬ様子と目の前で嗤う男の口から出たジョエルの名で、イアンを除く者達はこの男が誰なのかを認識した。
「クリストフ…。あいつを生きて返せばリンシア王女は私達を匿った罪で殺される。」
ユリシスはクリストフに語り掛けながら自らも剣を抜いた。
「…生きてなど返しません…絶対に…!!」
クリストフは我を忘れそうなほどの怒りにギリギリと歯を噛み締めている。
「そしてアラン…リンシア王女の部屋を訪れていたマリーも同じく危ない。」
「…わかってます。誰一人欠けずに突破してみせます。」
自分に向けて剣を構えたユリシス達にリュカは鮮やかに微笑み返す。
「初めまして。私の名前はリュカ。覚えなくて結構ですよ?もう二度とお会いすることはありませんから。」
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