19 / 59
18
しおりを挟むユーインは講堂に入るでもなく、明らかにリーリアの方を見ていた。
もしかしたら、昨日のことで色々物申したいことがあるのかもしれない。
当たり前だ。逆の立場なら、リーリアだってそうするだろう。
──よし、女は度胸よ……!!
ユーインとイゾルデの事はもう気にしない。
いつものように自分から、笑顔で挨拶をしよう。
そう決めたリーリアは、ユーインのところへ向かう短い間、一生懸命自分の心に言い聞かせた。
「おはようございます、ユーイン様。昨日はご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
ユーインは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「……おはようございます、殿下。お身体は大丈夫ですか?」
「身体……ですか?ええ、何ともありませんけど……」
──何で身体の心配???
もしかして、クレイグに変な魔法でもかけられたのではないかと疑っているのだろうか。
恐るべしクレイグ・シズリー。
いったい何をどれくらいやらかしたら、これほどまでに団長たちの頭を悩ませる事ができるのか。
「殿下。本日の講義の後、少しお話させていただきたい事があるのですが……お時間をいただくことは可能でしょうか?」
話とは何だろう。
昨日の事と何か関係があるのだろうか。
リーリアはとても気になったが、ちょうど始まりのベルが鳴ってしまい、「はい」とだけ返事をして頷いた。
*
アカデミーで講義を担当する魔道師には、それぞれ専用の個室が割り当てられている。
長い廊下にずらりと並ぶ扉。
その向こう側にはそれはそれは個性的な講師たちが控えているため、誰に言われた訳ではないのだが、自然と忍び足になってしまう。
「ユーイン様のお部屋は……あった、ここだわ」
ユーインの名が書かれた銀のドアプレートを見つけ、リーリアは胸に手を当てて深呼吸をした。
トントン、トントンと四回ノックをすると、一拍おいて中から「どうぞ」と返事が返ってきた。
「失礼いたします」
ドアを開けた瞬間、ユーインの香りが優しくリーリアの鼻腔をくすぐった。
どうやら仕事をしていたらしいユーインは、すぐさま手に持っていた書類を机の上に置き、立ち上がってリーリアを迎えた。
「お手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。どうぞこちらへ」
促され、部屋の中央に置いてある応接用のソファに腰掛ける。
しかし、てっきり向かい側に座ると思っていたユーインは、今しがたリーリアが腰掛けたソファの横に立ったままだ。
そして、力ない表情でリーリアを見つめている。
「あの、ユーイン様……?それで、お話とは何でしょうか」
「……………………」
「ユーイン様?」
「………………………………」
黙り込むユーイン。
その不可解な様子を訝しんだリーリアの眉間に皺が寄った。
41
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】
日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。
それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。
ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。
「このままでは、あなたは後宮から追い出される」
実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。
迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。
けれど、彼には誰も知らない秘密があった。
冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。
初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。
ぱっつんぱつお
恋愛
辺境の漁師町で育った伯爵令嬢。
大海原と同じく性格荒めのエマは誰もが羨む(らしい)次期侯爵であるジョセフと結婚した。
だが彼には婚約する前から恋人が居て……?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる