35 / 59
34
「クラウスナー侯爵家の長男?ユーイン様が?じゃあクラウスナー侯爵子息の……オスカー様は……」
「弟です。ただ、母親が違いますが」
異母弟。
では現在のクラウスナー侯爵夫人がオスカーの母ということだろうか。
──じゃあ、ユーイン様のお母様は……?
「さぁ、ふたりともこちらへ」
国王はユーインとリーリアに、自身の立つ壇上まで来るよう促す。
「リーリア、行きましょう」
優雅な所作で手を差し出すユーインは、どの貴族よりも貴族らしい。
聞きたいことは山ほどあるが、公の場で“リーリア”と名前を呼ばれ、しかもこれから招待客にふたりで挨拶をするのだ。
許容範囲を大幅に超える出来事が立て続けに起こり、あれこれ考えている余裕がリーリアにはなかった。
差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
壇上までの道のりは、まるでふわふわとした雲の上を歩いているようだった。
「さあ、若いふたりの門出を祝してやってくれ!」
国王のかけ声で、一斉に拍手が湧き起こる。
だがリーリアは、見てしまった。
祝福の輪の中からひとり離れ、ギラギラとした憎しみのこもった目でこちらを見るオスカーの姿を。
*
挨拶のあと、ユーインとリーリアはあっという間に貴族たちに囲まれた。
そしてひとしきり事情を聞かれたあと、リーリアだけ解放されたのだ。
解放というよりは、ユーインが自分を囮にしてリーリアを逃してくれたようなもの。
イゾルデとユーインは、現在も研究所について貴族たちからの質問攻めにあっている。
ようやく会えたのだから、もう少し側にいたかったが、ユーインとは夜会が終わったあと少し話そうと言われている。
そして再びアーロンと合流したリーリアは、ひとり無心で料理を口に運ぶ黒いローブの男性を発見した。
「クレイグ様ったら、いいのですか?」
「ほひゃふぇんか」
「あの、余計なお世話ですが、口に物を詰め過ぎではありませんか」
まるで頬袋に餌を溜め込む齧歯類のようだ。
柔らかく伸びる頬の皮に感心する。
クレイグはもぐもぐと高速で咀嚼し、ゴクンと飲み込んだ。
「これは失礼しました。それで、“いいのですか”とは何がでしょう」
「それは、ユーイン様とイゾルデ様に任せっきりで大丈夫なのですかという意味です。クレイグ様もおふたりと同じく、研究所創設についての説明役としていらっしゃったのでしょう?」
「役目を果たそうにも誰も寄ってこないんですよ」
「え……」
「聞かれれば、研究所の事に限らず色々と教えて差し上げるんですけどね」
ちなみにどんなことを色々教えてくれるのか。一瞬、聞いてみたい気持ちに駆られたが、クレイグの優しさは角度が変わっている事を学んだばかりなので、やめておいた。
「ご結婚おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「いつの間にそんな話になっていたのですか?まったく白の団長も見かけによらず手が早い」
真っ向から否定したかったのだが、鮮やかに手を出された身である。
何と言ったらいいのか適当な言葉が見つからない。
「あの……クレイグ様はご存知でしたか?ユーイン様とオスカー様のこと……」
「まぁ、私も宮廷魔道師団に身を置いて長いので。長ければそれだけ余計なものも目にします。ただあの弟は……少々厄介ですね」
「確かに……白魔道師の皆さまに対するあの言い草は、許されるものではありません」
「白魔道師だけで済めばいいのですがね」
「え……?クレイグ様、それは──」
「リーリア」
どういう意味なのか、クレイグに説明を求めようとしたその時、背後から名前を呼ばれた。
「ユーイン様」
大勢を相手にしてさすがに疲れたのだろう。
ユーインの顔は疲労の色が滲んでいる。
「クレイグお前、私とイゾルデにすべて押し付けて優雅に食事とはいい身分だな」
「その言葉、本当にいい身分の方に言われると嫌味なことこの上ないですね。いいではありませんか。失恋の自棄食いということで許してください」
「失恋?クレイグ様ったらどなたに失恋なさったの?」
リーリアの無邪気な顔をジトッと睨み、クレイグはうずらの丸焼きを一口で頬張った。
あなたにおすすめの小説
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
本当は、二番目に愛してます
唯純 楽
恋愛
元準男爵令嬢のビヴァリーは、落ちぶれた暮らしを強いられながらも、乗馬の腕前を生かして競馬で大金を稼いでいた。ところが、ある日突然、誘拐まがいに連れ去られ、引き籠りの王子妃の乗馬の相手をしてほしいと頼まれる。頼んできたのは五年前にひと夏を共に過ごした初恋の相手ハロルド。身分差から気持ちを打ち明けられずにいたビヴァリーだったが、酔ったハロルドと一夜を共にしてしまう。義務と責任感から結婚しようとするハロルドに、ビヴァリーは望まぬ結婚はすべきではないと、式の途中で逃げ出したのだが、ハロルドは今さら結婚を取りやめることはできないと、ビヴァリーを一晩中淫らに責め立てた……。ほんの小さな誤解から拗れた関係は、壊れる前に修復できるのか?白馬に乗った王子様より、白馬のほうを愛する女の子の波乱万丈な物語。【番外編も投稿しています!】
閨から始まる拗らせ公爵の初恋
ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。
何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯
明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。
目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。
流行りの転生というものなのか?
でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに!
*マークは性表現があります
■マークは20年程前の過去話です
side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。
誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
【完結】今さら執着されても困ります
リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
・全体的に暗い内容です。
・注意喚起を含む章は※を付けています。