王女は魔道師団長の愛に溺れる

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 「クラウスナー侯爵家の長男?ユーイン様が?じゃあクラウスナー侯爵子息の……オスカー様は……」

 「弟です。ただ、母親が違いますが」

 異母弟。
 では現在のクラウスナー侯爵夫人がオスカーの母ということだろうか。
 
 ──じゃあ、ユーイン様のお母様は……?
 
 「さぁ、ふたりともこちらへ」

 国王はユーインとリーリアに、自身の立つ壇上まで来るよう促す。

 「リーリア、行きましょう」

 優雅な所作で手を差し出すユーインは、どの貴族よりも貴族らしい。
 聞きたいことは山ほどあるが、公の場で“リーリア”と名前を呼ばれ、しかもこれから招待客にふたりで挨拶をするのだ。
 許容範囲を大幅に超える出来事が立て続けに起こり、あれこれ考えている余裕がリーリアにはなかった。
 差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
 壇上までの道のりは、まるでふわふわとした雲の上を歩いているようだった。
 
 「さあ、若いふたりの門出を祝してやってくれ!」

 国王のかけ声で、一斉に拍手が湧き起こる。
 だがリーリアは、見てしまった。
 祝福の輪の中からひとり離れ、ギラギラとした憎しみのこもった目でこちらを見るオスカーの姿を。


 *


 挨拶のあと、ユーインとリーリアはあっという間に貴族たちに囲まれた。
 そしてひとしきり事情を聞かれたあと、リーリアだけ解放されたのだ。
 解放というよりは、ユーインが自分を囮にしてリーリアを逃してくれたようなもの。
 イゾルデとユーインは、現在も研究所について貴族たちからの質問攻めにあっている。
 ようやく会えたのだから、もう少し側にいたかったが、ユーインとは夜会が終わったあと少し話そうと言われている。

 そして再びアーロンと合流したリーリアは、ひとり無心で料理を口に運ぶ黒いローブの男性を発見した。

 「クレイグ様ったら、いいのですか?」

 「ほひゃふぇんかおや殿下

 「あの、余計なお世話ですが、口に物を詰め過ぎではありませんか」

 まるで頬袋に餌を溜め込む齧歯類げっしるいのようだ。
 柔らかく伸びる頬の皮に感心する。
 クレイグはもぐもぐと高速で咀嚼し、ゴクンと飲み込んだ。

 「これは失礼しました。それで、“いいのですか”とは何がでしょう」

 「それは、ユーイン様とイゾルデ様に任せっきりで大丈夫なのですかという意味です。クレイグ様もおふたりと同じく、研究所創設についての説明役としていらっしゃったのでしょう?」

 「役目を果たそうにも誰も寄ってこないんですよ」

 「え……」

 「聞かれれば、研究所の事に限らず色々と教えて差し上げるんですけどね」

 ちなみにどんなことを色々教えてくれるのか。一瞬、聞いてみたい気持ちに駆られたが、クレイグの優しさは角度が変わっている事を学んだばかりなので、やめておいた。

 「ご結婚おめでとうございます」

 「あ、ありがとうございます」

 「いつの間にそんな話になっていたのですか?まったく白の団長も見かけによらず手が早い」

 真っ向から否定したかったのだが、鮮やかに手を出された身である。
 何と言ったらいいのか適当な言葉が見つからない。
 
 「あの……クレイグ様はご存知でしたか?ユーイン様とオスカー様のこと……」
 
 「まぁ、私も宮廷魔道師団に身を置いて長いので。長ければそれだけ余計なものも目にします。ただあの弟は……少々厄介ですね」

 「確かに……白魔道師の皆さまに対するあの言い草は、許されるものではありません」

 「白魔道師だけで済めばいいのですがね」

 「え……?クレイグ様、それは──」

 「リーリア」

 どういう意味なのか、クレイグに説明を求めようとしたその時、背後から名前を呼ばれた。

 「ユーイン様」

 大勢を相手にしてさすがに疲れたのだろう。
 ユーインの顔は疲労の色が滲んでいる。

 「クレイグお前、私とイゾルデにすべて押し付けて優雅に食事とはいい身分だな」

 「その言葉、本当にいい身分の方に言われると嫌味なことこの上ないですね。いいではありませんか。失恋の自棄食いということで許してください」

 「失恋?クレイグ様ったらどなたに失恋なさったの?」

 リーリアの無邪気な顔をジトッと睨み、クレイグはうずらの丸焼きを一口で頬張った。

 

 

 
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