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しおりを挟むキスの仕方はまだよくわからないから、少し苦しい。
けれど唇を離したくない。
彼は話があると言っていた。だから、こんな時間にここにいる。
疲れているだろう。早く休ませてあげたいとも思う。
──でも、わかっているけど、もう少しだけ
「ユーイン様……」
もう二度と会えない訳じゃないのにひどく感傷的な気持ちになって、不意に目頭が熱くなる。
リーリアは、潤んだ瞳でユーインを見つめた。
お願い、どうか応えて。
もう少しだけ、あなたに触れたい。
すると想いが伝わったのか、ユーインは、切なげな熱い吐息をひとつ漏らし、再び唇を繋げてくれた。
長い長いキスの後、息を整えるようにユーインの広い胸の中に身を預けると、大きな手が優しく頭を撫でる。
何度も繰り返される優しい動作に、リーリアは幼子のような無防備さで、されるがままいた。
「……実は、先日陛下に呼ばれ、研究所への支援を受ける家門について、意見を聞かれました」
「びっくりしました……まさかユーイン様がクラウスナー侯爵家の方だったなんて」
クラウスナー侯爵家といえば、アルムガルドでは知らぬ者はいない名門だ。
王女の降嫁先としても何の問題もない。
「では、クラウスナー侯爵家から支援を受ける事を父に薦めたのですか?」
「いえ、私は人間性さえまともなら、どこの家門でも構わないと申し上げました」
「ですが……」
オスカーの様子を見る限り、人間性がまともかそうじゃないかというよりも──
──ふたりの間にはもっと大きくて厄介な問題がある
クラウスナー侯爵家から支援を受ける事が正しいとは到底思えない。
「……その、実はその日、リーリアとの事を陛下にお話させていただきました。そうしたら、陛下が『そうか!じゃあクラウスナー侯爵家に決めた』と」
「父上がですか?」
「はい。おそらくリーリアのためにでしょう」
「私の?」
娘のためだというのなら、尚更もっとまともな人材のいる家門にするべきなのではないだろうか。
「私の素性をああいう形で周知させる事により、横槍を入れる貴族を黙らせようとしてくれたのでしょう。王女殿下と縁を結びたい家門は山ほどいますから」
「ですが、ユーイン様は本当にそれで良かったのですか?……余計な事かもしれませんが、オスカー様とユーイン様は……」
ふたりの間には何かある。
少なくともユーインが宮廷魔道師団に入る七歳までの短い間に、今尚引きずるような大きな出来事があったに違いない。
「……少し長くなりますが、聞いていただけますか?」
リーリアは頷いた。
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