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しおりを挟む「私は、現クラウスナー侯爵である父と、今は亡き前クラウスナー侯爵夫人である母との間に生を受けました。二人は貴族社会では珍しく、恋愛の末結ばれたそうです」
「それは素敵ですね」
「ええ。とても仲睦まじい夫婦だったそうです……私が生まれるまでは」
「ユーイン様が、生まれるまで……?」
夫人の腹に子が宿った時、クラウスナー侯爵の喜びようは相当だったそうだ。
毎朝昼晩、まだぺたんこな腹をさすりながら話しかけ、夫人に呆れられていたらしい。
「しかし、生まれてきたのは白髪の赤子。今でこそ瞳の色は父と同じ藍色ですが、生まれた当時は目の色すら無くて……父は色なしの私を気持ち悪いとすぐに拒絶したそうです。どうやら母の浮気も疑ったようで……」
「そんな……!!」
「母は心を病み、産後の肥立ちが悪かった事も災いして、出産後間もなくこの世を去りました。父は周りの勧めですぐさま再婚。その相手が現クラウスナー侯爵夫人、オスカーの母親です」
オスカーの母親は美しく、気位の高い女で、常に自分が一番でなければ気が済まない性格だった。
それは、既にこの世にはいない前妻の存在すら許せないほどに。
当然の如く、忘れ形見のユーインは虐げられた。
「容姿が気持ち悪いと蔑まれ、暗く陽の当たらない部屋に閉じ込められて、時に食事すら与えられない日もありました」
「どうしてそんなひどい事を……ユーイン様はとても美しいわ!私、こんなに美しい人見た事がありません。ほんと……ほんとよ……!」
悲しげな目で淡々と当時の事を話すユーインの姿が切なくて、リーリアはユーインを真っ直ぐに見つめて伝えた。
「ありがとう、リーリア。この姿をあなたが愛してくれて、私は本当に幸せです」
ユーインは、リーリアを落ちつかせるように優しく触れるだけの口づけを落とす。
「……やがてオスカーが生まれ、物心つく頃には母親と共に私を馬鹿にするように……。ですが、そんな時でした。私の瞳に色が生まれたのは」
最初こそ夫の前ではしおらしく振る舞っていた夫人も、だんだんと化けの皮が剥がれ、クラウスナー侯爵は夫人の真の姿を知り、疎ましく思うようになっていったのだという。
そんなある日、かつて愛した亡き妻の忘れ形見に、自分と同じ瞳の色が出た。
それを見た瞬間、侯爵はその場に泣き崩れたという。
「あの日の事は今でも忘れません。私に無関心だった父が、滂沱の涙をそのままに、ひたすら亡き母に謝罪の言葉を繰り返していました……それから父は私の事に何かと気を配るようになり、侯爵令息としては何不自由ない環境を整えてくれました」
際立った才能の無い弟に比べ、ユーインは勉学にも優れていた。
加えて父からの関心も独り占めするようになった兄に対し、オスカーは卑屈な感情を溜め込んでいった。
「随分と幼稚な嫌がらせをたくさんされたものです。相手にするだけ無駄だと無視する私が更に気に入らなかったのでしょうね。そしてあの日……七歳の魔力審査の日が来た」
審査に参加した魔道師たちは、ユーインに秘められた魔力の強大さに腰を抜かしたという。
知らせを受けたクラウスナー侯爵は、それは誇らしげな顔をしていたそうだ。
「クラウスナー侯爵家の系譜に、やはり魔道師がいたそうなのです。……母への悔恨の気持ちも手伝ってか、父は私の成長を大袈裟なほど喜ぶようになりました。勝手なものですね。そして私はアカデミーに入るため家を出た。その後あの家の内情がどうなっていたのかはよく知りません。しかし、師団長に就任する際の式典などで見かける度に、私を射殺さんばかりの目で見るオスカーの様子から察するに……家族としてうまく機能はしていないのでしょうね」
リーリアは、自分とユーインの結婚を聞いたオスカーの顔を思い出す。
「ご自分の手柄だと思っていた研究所支援の話が、本当はユーイン様のおかげだったと知って、オスカー様は面白くなかったでしょうね……」
「その通りです。オスカーは何をしでかすかわからない。なのでリーリアにはくれぐれも気をつけて欲しいのです」
「私に……?」
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