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14 抜けない棘 ※妊娠に関するセンシティブな内容を含みます

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「もしそうなら。
カタリナ王女が産んだ王子殿下は―――王女の恋人の、護衛の子かもしれませんね」


頭を殴られたような気がしました。

「何を言うの?!カタリナ様は彼の正妃なのよ?」

「はい。単なる私の想像です。全く違っているのかも知れません。ですが、あたっているのかも知れません」

「……どうして、そんなことが言えるの?」

「お嬢様。他国から嫁いで来られても、この国の王妃となられた方をお守りするのはこの国の護衛です。侍女は気心の知れた者を一人連れて来られるくらいならあるでしょうが、全員はない。
嫁いですぐならいざ知らず、お嬢様が知る限り――少なくとも、王子殿下誕生まで。一年近くも王妃の周りに母国の者しかいないということはあり得ない」

「それはっ。見ず知らずのこの国で、カタリナ様が寂しくないようにと、きっとご配慮が―――っ」

「ならば侍女だけで良かったのでは?護衛が母国の者である必要はありません。
そもそも、護衛はその国に仕えている者です。国を離れ他国の王妃になった方に仕える者ではない」

「―――」

「一年近くそうなら、その先もずっと。王妃カタリナ様の周りは母国の者だけで固められていた可能性が高い。それには何か理由があったと思われませんか」

「……そんな。だからって。カタリナ様の不貞を疑うなんて」

「――王子殿下とお会いになられたことはありますか?」

「…………え?」

「前回の。お嬢様が結婚されてから毒杯を飲むまでの七年間。
王太子殿下には、王子殿下の他にお子様はいないのですよね?」

「……何が……言いたいの……?」

「……想像ですが。もしかしたら王太子殿下は……お子が――――」

「―――――」


――「似てませんでしたね」――

《あの日》。侍女は―――――


「……やめて……」

「お嬢様?」

「やめてよ!そんなこと軽々しく口にしないで!
……知らないのね。
それがどれほど彼を傷つける酷い言葉か、知らないんでしょうっ!」

「―――――」

「わかるのよ。私がそうだったもの。
心をずたずたに引き裂かれるの。
……自分の全てを否定された気持ちになるの。
子を授からない。
自分ではどうしようもない。その一点だけで私の全てをっ!
努力を、成したことを、何もかもを!
全部、全部、全部、否定するっ!」

「………………お嬢様……」

「だいたい、ここにはDNA鑑定どころかABO式血液型の概念もないじゃない」

「DNA……なんですか?」

「この世界には、親子関係を正確に証明してみせる方法なんてないってことよ!
彼とカタリナ様は夫婦だった!なら王子は彼の子。それでいいでしょう?!」

「―――――」


わかっていました。これは八つ当たりです。
それでも私は……止まりませんでした。

怒りなのか、憎しみなのか、辛いのか、悲しいのか……。
何に。誰に対しての感情なのかも。自分のことなのにわかりません。

クロードは驚いたような顔をしていました。当然です。
私は何をクロードにぶつけているのでしょう。

だんだんと涙が滲んできて、俯こうとした時。
クロードが、私に向かってゆっくりと頭を下げました。


「……お嬢様。申し訳ありません。
単なる想像で不用意な、心ない言葉を口にしてしまったこと。謝罪いたします」

「…………」

「――ですが。
お嬢様の前世――《ツバキ》様の夫が、前世の王太子殿下だと気づいたのは、姿形がそっくりだったからと言われましたね。
正確な証明などされなくとも人は気づく。血の繋がりは、なんとなくでもわかるのですよ」

「―――――」

「赤子の時には気づかずとも、王子殿下が成長されれば、その姿形で。
王子殿下の本当の父親が、誰なのか。知れるはずです。
それがもし、父であるはずの王太子殿下ではないのなら。
その時にひどく傷つくのは他の誰でもない。王子殿下なのですよ」

「そんなのっ!誰も――」

「――言われずとも気づきます。自分に向けられる周りの目だけで気づく。
わかりますよ。私がそうでしたから」

「―――え……?」

「自分が母には似ていても、父や兄たちには似ていないのを気にしたことはありませんでした。
ですが成長し、家族より自分に似た男性と、男性の子どもたちに会った時。周りから向けられた視線で、私は全てに気づきました」

「―――――」

「心はずたずたになった。それまで信じていたこと全てが偽りだったのだと絶望した。
もう誰も何も信じられないと自暴自棄にもなった。
それでも幸い私は逃げ出すことで、自分を取り戻せた。
ですが。
―――《王子殿下》では……逃げ出せない」

「―――――」

「王子殿下にはどうか正しい場所を。そう言いたかったのです」

「……ごめんなさい……」

「いいえ。私の方こそ、申し訳ありませんでした」

「違うの……」

それ以上は……涙が溢れて声にできませんでした。


恥ずかしかった。
自分の感情をぶつけてしまったことが。
王子殿下のことを思いやれず、クロードに辛い話をさせてしまったことが。

それに……私がクロードを責める資格はないのです。

クロードの想像を聞いて


――「似てませんでしたね」――


前回の《あの日》
私が赤子の王子殿下にお会いした日。

部屋に戻るやいなや、言った侍女たちの言葉を思い出して。

それで……私も《そうかもしれない》と思ってしまったのですから。


唇を噛みました。
じくじくと疼く胸の痛みをぐっとこらえます。

私が王太子妃となった時から仕えてくれていた侍女たちでした。
その後、私が別棟へ移されたのを期に別れてしまったけれど……彼女たちはどうしたでしょう。

良い侍女たちだったと思います。
けれど、何故でしょう。よく……思い出せません。

私を思って言ってくれたのだろう言葉だけが
こうして時間が戻った今でも、えぐるように、胸に深く鋭く刺さったまま……。



――「ロゼ様もきっとすぐに授かりますよ。国王陛下に良く似たお子様が」――


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