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誰のため
しおりを挟む「あの人と子どもと三人で暮らしていくことにした。
子どもは――娘は可愛かったわ。
それは愛しかった。
慣れない育児は不安なこともあったけど嬉しいことが多かった。
その日にあったこと、娘がしたこと。話を聞いて欲しかった。
誰でもよかったわけじゃないわ。
《あの人に》聞いて欲しかったのよ。
喜びも不安も共有して欲しかったの。
《私たち二人の》娘のことなんだから」
亜麻色の髪の、同僚の奥方が頷いた。
「うんうん、わかるわ。貴重な経験だもの。
初めて立った、歩いた、なんて大きなことじゃなくても言いたくなるものよね」
「……私はそう思ったんだけど。あの人は違ったみたい。
適当に相槌を返されるばかりだったわ。
しつこく言い過ぎたのかと反省したの」
同僚の奥方が再度頷く。
「あー。それもわかる。知って欲しいからつい話に熱が入っちゃうのよね」
「それで、どうしても言いたいことだけ言うようにしたの。
そうすると心配なことや、相談したい話が多くなった。
そうしたら、返ってきた答えは
《そんなの俺にわかるわけがないだろう》
《俺に言ってないでわかる人に聞けよ》
あと、何だったかしら。
《世の中の母親は二人でも三人でも余裕で育てているじゃないか。
なのに子ども一人の面倒を見るだけでそんなに不安だなんて。
お前、どこかおかしいんじゃないのか。病院に行けよ》
だったかしら。苛々とした様子でそんな返事ばかり」
「父親として寄り添う気はなかったみたいね」
黒髪の友人がお茶を飲みながら言った。
フェリはカップを見つめている。
「そのうち仕事が忙しくなって帰宅も遅くなって。
《俺はそれどころじゃない》って言われて。もう何も言えなくなったわ」
「あー。本末転倒ね」
同僚の奥方が大きなため息を吐いた。
黒髪の友人とフェリの視線が同僚の奥方に集まる。
同僚の奥方は言った。
「夫に聞いたのよ。セディクは人の分の仕事も引き受けてたらしいの。
《妻子のために少しでも多く稼ぎたい》って。
それで私はセディクを良い旦那様だと思っていたんだけど……」
「稼ぐのに夢中になって妻子はおざなりか。確かに本末転倒ね」
黒髪の友人もため息を吐く。
フェリは小さく笑った。
「ふふ。私と娘はあの人にとって厄介な荷物だったみたいね」
―――違う!
と、叫びたかった。
違う、何故そんなふうにとってしまう!
厄介な荷物だなんて思っていない!
誰のために俺が頑張っていたと思う!
お前と娘のためだ!
お前たちの幸せのために!
「フェリがそう思っても仕方がないわね。
人格を否定されるようなことばかり言われて愛情を感じる方がおかしいわ」
黒髪の友人の声に息が止まった。
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