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どんな貴方でも、いつまでも
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卒業式を迎えた今日。
いよいよ、告白しないとまずい状況になってしまった。
卒業生代表や校長先生の話なんて、少しも頭に入っていない。考えているのは、このあと、どうやって告白するか、そのことだけだ。
せっかく、カップルが多くて破局率が全国で一番低いという謎の業績を掲げているこの高校に来たのに、卒業の日まで彼氏はできなかった。
でも、好きな人はいる。雄飛という人だ。
私は六組で彼は一組だから、ここから姿を見ることはできない。
けれど、いつもの飄々とした態度で座っている姿は、容易に想像できた。
「卒業生、起立」
先生の声がして、皆が立つと私も慌てて立つ。考え事をしていたせいで、反応が遅れてしまった。
そのまま卒業生は退場となり、在校生や保護者が座っている間の道を、そわそわしながら歩いた。
外に出ると、泣いている人もいれば楽しそうに話している人もいた。雄飛の姿は、見当たらない。一組は先に出て行ったはずだからと探してみるが、どこにもいなかった。中庭まで来たが、もはや雄飛どころか人もいない。
結局、この程度の恋だったのかな。
「あぁ、いたいた」
落胆していた時、少し低めの大人っぽい声がした。
振り向くと、そこにはいつもより丁寧に髪の毛をセットした、雄飛がいた。いつもはストレートな彼の黒髪が、今日は僅かにウェーブがかかっていて洒落ている。
「雄飛……どうしたの?」
会えて嬉しいのに、表情も変えずにそんなことを聞いてしまう。
崖っぷちだというのに、恥ずかしさはなくならなくて素直になれない。こんな自分、嫌いだ。今日こそ言うって決めたんだから、シャキッとしろ!
「先生に、彗がここにいるって聞いたから、会いに来た」
「はっ!?」
会いに来た!? 私に?
それって、卒業式のあとで話したい友達もいるだろうに、わざわざ私を選んでくれたってこと? それに、「聞いた」って、探してくれたのかな。
そう思うと、勝手に舞い上がってしまいそうだった。
「会いに来たってことは、何か話があるの?」
「いや、もう卒業だし、何か話そうかなって思ったんだよ」
もしかして、雄飛も同じ気持ちなんじゃ……と思って探ってみたが、違ったようだ。期待しすぎて、かなり落ち込む。
しかし、雄飛の顔を見ると、こちらを観察するようにまじまじと見つめてきていた。
こうなっている時の雄飛は、こちらの出方を伺っているか、反応を楽しんでいるかのどちらかだ。今は、前者だろう。
一体何がしたいのか。本当に話をしに来ただけ?
こちらも負けじと俯いて考えていると、雄飛が切り出した。
「卒業式の後に二人きりなんて、まるで告白の現場みたいだね」
勢いよく顔を上げると、雄飛はこちらの様子を伺うように覗き込んできた。
この顔は知っている。反応を見て、楽しもうとしている顔だ。
今まで、幾度となくからかわれ、その度に余裕そうな笑みを浮かべられてきた。私はいつも、彼の手のひらの上で踊らされている。
そんな彼が好きでもあり、憎らしくもある。そして、その憎らしさが、さらに好きを加速させる。でも、それを悟られれば、またからかわれて終わりだ。
「何が言いたいの?」
「別に? ただ、思っただけだよ」
雄飛はまだ、余裕そうに微笑んでいる。
もしかして、私の気持ちに気づいてる? いや、でも、そんな素振りは見せてないはず……。またいつもみたいに、からかってるだけ……?
疑問は募っていくばかり。でも、告白しなきゃ、何も始まらない。彼の気持ちを確かめるにしても、まずは私がはっきりしなきゃ。
「あ、あの……!」
「ん?」
雄飛はまだ余裕そうに微笑んでいる。あの笑みを、驚きに変えてやりたい。
少しでも、動揺させてみたい!
「私、二年生の時から、好きなの……」
声が小さくなってしまったけど、やっと言えた。恥ずかしすぎて、雄飛の顔が見れない。なんて言われるか、怖い。
「ふーん、誰のことが好きなの?」
あまりに意地悪な質問に、顔に熱が集まるのが自分でも分かった。耳も顔も真っ赤だろう。恥ずかしくて仕方ない。
こんなに頑張ったのに。それなのに、雄飛は……。
「…………いじわる……」
そういった途端、雄飛は目を見開いた。
驚いてる? 何で? でも、新鮮な顔、余裕さを崩せた。
そう喜んでいたら、急に腰に手を回して抱き寄せられた。いつも余裕そうにしている彼からは想像できないほど力強くて、大きな掌だ。
「ふぇ!?」
私は呆気に取られて、変な声を出してしまった。
「それ、俺のことが好き……ってことで合ってる?」
「は、はい」
迫力に負けて、つい敬語になってしまった。
何だろう、余裕はなくせた気がするのに、その分また私の方も余裕がなくなっているような。というか、距離が近い!顔が近い!
余裕さなんて考えられなくて、眉を下げて彼を見上げた。
「はぁ、上目遣いはずるいなあ。これからは、ニコニコな俺だけじゃないからね。嫌って言っても、離してやれないほど愛してるから」
あ、愛してる!?!?
今までとは違う彼の態度に、開いた口が塞がらない。
かっこいい、余裕がなくなっても余裕があるような、そんな色気漂う雰囲気にのまれそうだ。
でも、私だって、告白できたんだからできないことはもうない!
「私だって、絶対に離してあげないんだから!」
そう言うと、雄飛は口角を僅かに上げて目を細めた。
「それは楽しみだな」
そんな、妖艶さたっぷりの顔に、またしても余裕をなくされる。
でも、両思いに胸を弾ませる私は、笑みが零れてしまうのだった。
いよいよ、告白しないとまずい状況になってしまった。
卒業生代表や校長先生の話なんて、少しも頭に入っていない。考えているのは、このあと、どうやって告白するか、そのことだけだ。
せっかく、カップルが多くて破局率が全国で一番低いという謎の業績を掲げているこの高校に来たのに、卒業の日まで彼氏はできなかった。
でも、好きな人はいる。雄飛という人だ。
私は六組で彼は一組だから、ここから姿を見ることはできない。
けれど、いつもの飄々とした態度で座っている姿は、容易に想像できた。
「卒業生、起立」
先生の声がして、皆が立つと私も慌てて立つ。考え事をしていたせいで、反応が遅れてしまった。
そのまま卒業生は退場となり、在校生や保護者が座っている間の道を、そわそわしながら歩いた。
外に出ると、泣いている人もいれば楽しそうに話している人もいた。雄飛の姿は、見当たらない。一組は先に出て行ったはずだからと探してみるが、どこにもいなかった。中庭まで来たが、もはや雄飛どころか人もいない。
結局、この程度の恋だったのかな。
「あぁ、いたいた」
落胆していた時、少し低めの大人っぽい声がした。
振り向くと、そこにはいつもより丁寧に髪の毛をセットした、雄飛がいた。いつもはストレートな彼の黒髪が、今日は僅かにウェーブがかかっていて洒落ている。
「雄飛……どうしたの?」
会えて嬉しいのに、表情も変えずにそんなことを聞いてしまう。
崖っぷちだというのに、恥ずかしさはなくならなくて素直になれない。こんな自分、嫌いだ。今日こそ言うって決めたんだから、シャキッとしろ!
「先生に、彗がここにいるって聞いたから、会いに来た」
「はっ!?」
会いに来た!? 私に?
それって、卒業式のあとで話したい友達もいるだろうに、わざわざ私を選んでくれたってこと? それに、「聞いた」って、探してくれたのかな。
そう思うと、勝手に舞い上がってしまいそうだった。
「会いに来たってことは、何か話があるの?」
「いや、もう卒業だし、何か話そうかなって思ったんだよ」
もしかして、雄飛も同じ気持ちなんじゃ……と思って探ってみたが、違ったようだ。期待しすぎて、かなり落ち込む。
しかし、雄飛の顔を見ると、こちらを観察するようにまじまじと見つめてきていた。
こうなっている時の雄飛は、こちらの出方を伺っているか、反応を楽しんでいるかのどちらかだ。今は、前者だろう。
一体何がしたいのか。本当に話をしに来ただけ?
こちらも負けじと俯いて考えていると、雄飛が切り出した。
「卒業式の後に二人きりなんて、まるで告白の現場みたいだね」
勢いよく顔を上げると、雄飛はこちらの様子を伺うように覗き込んできた。
この顔は知っている。反応を見て、楽しもうとしている顔だ。
今まで、幾度となくからかわれ、その度に余裕そうな笑みを浮かべられてきた。私はいつも、彼の手のひらの上で踊らされている。
そんな彼が好きでもあり、憎らしくもある。そして、その憎らしさが、さらに好きを加速させる。でも、それを悟られれば、またからかわれて終わりだ。
「何が言いたいの?」
「別に? ただ、思っただけだよ」
雄飛はまだ、余裕そうに微笑んでいる。
もしかして、私の気持ちに気づいてる? いや、でも、そんな素振りは見せてないはず……。またいつもみたいに、からかってるだけ……?
疑問は募っていくばかり。でも、告白しなきゃ、何も始まらない。彼の気持ちを確かめるにしても、まずは私がはっきりしなきゃ。
「あ、あの……!」
「ん?」
雄飛はまだ余裕そうに微笑んでいる。あの笑みを、驚きに変えてやりたい。
少しでも、動揺させてみたい!
「私、二年生の時から、好きなの……」
声が小さくなってしまったけど、やっと言えた。恥ずかしすぎて、雄飛の顔が見れない。なんて言われるか、怖い。
「ふーん、誰のことが好きなの?」
あまりに意地悪な質問に、顔に熱が集まるのが自分でも分かった。耳も顔も真っ赤だろう。恥ずかしくて仕方ない。
こんなに頑張ったのに。それなのに、雄飛は……。
「…………いじわる……」
そういった途端、雄飛は目を見開いた。
驚いてる? 何で? でも、新鮮な顔、余裕さを崩せた。
そう喜んでいたら、急に腰に手を回して抱き寄せられた。いつも余裕そうにしている彼からは想像できないほど力強くて、大きな掌だ。
「ふぇ!?」
私は呆気に取られて、変な声を出してしまった。
「それ、俺のことが好き……ってことで合ってる?」
「は、はい」
迫力に負けて、つい敬語になってしまった。
何だろう、余裕はなくせた気がするのに、その分また私の方も余裕がなくなっているような。というか、距離が近い!顔が近い!
余裕さなんて考えられなくて、眉を下げて彼を見上げた。
「はぁ、上目遣いはずるいなあ。これからは、ニコニコな俺だけじゃないからね。嫌って言っても、離してやれないほど愛してるから」
あ、愛してる!?!?
今までとは違う彼の態度に、開いた口が塞がらない。
かっこいい、余裕がなくなっても余裕があるような、そんな色気漂う雰囲気にのまれそうだ。
でも、私だって、告白できたんだからできないことはもうない!
「私だって、絶対に離してあげないんだから!」
そう言うと、雄飛は口角を僅かに上げて目を細めた。
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でも、両思いに胸を弾ませる私は、笑みが零れてしまうのだった。
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