男爵令嬢アデリナの仇討ち

ぴぴみ

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私には、使用人服を脱ぎ、きらびやかなドレスに身を包む夜が、時折ある。

十六を越えた頃から、それは私の仕事の一つになった。

こういうときだけ、男爵令嬢として扱われるのだ。公式のものではない。何か後ろ暗いものを抱え、蝶の仮面を着けた者だけが集う夜会。

もちろん手入れなどはしないから、手は荒れたまま。髪には貴族のお嬢様方ほど艶がない。当然だ。

長い薄手の白い手袋で汚い手を隠すことはできても、正真正銘の貴族令嬢には、とてもなれない。
また、望まれてもいない。

これから始まるのは、単なる劇。
私は、見せ物に過ぎない。

**

「男爵、今宵の夜会もたのしみだよ」

グレーの髭を蓄え、仮面を着けた男が鷹揚に微笑しつつ言う。

「これはこれは…。久しいですな。ゆるりと愉しんでいかれませ」

この夜会では、男爵以外の名を口に出すことは禁じられている。
皆、匿名で参加している呈なのだが、お互いおおよその見当はついているのだろう。
男爵に簡単な挨拶をしていく者が、こちらに来ては、ちらりと私に目を向けて去っていく。

母が死んでから、まだ一年にも満たない。
なぜこんな汚らわしい家に留まっているのかと…そんなもの決まっている。

─仇討ちのための準備だ。


「男爵、この頃、羽振りがいいようですな…?」

嫌な視線を感じて私は、瞬間ぞくりとした。
黒いドレスをなめ回すような…。

「この娘のおかげ、ですかな?」

「ははは。さあ、それはなんとも…。
曲がりなりにも私の血をひく娘です。
獣とはいえね。そんな、酷いことはできませんよ」

男爵の口から思ってもいない言葉が漏れる。

─くそ野郎

奥歯をぎゅっと噛み締めて耐える。
今夜は、母の死の真相が分かるかもしれない夜会なのだ。
決して、波風を立てるわけにはいかない。

と、音楽が鳴り止み、男爵が合図する。
グラスに固いものが当たったかのような、金属音が響いた。

「皆様、いよいよお待ちかねのオークションのお時間です」

声を張り上げ、傍らの私の背を強く押す。
私は少しつんのめりながらも、舞台へと上がる。客席に座る者たちの視線が突き刺さる。

まだ、慣れない。あの、化け物を見るような好奇心あらわな顔。

「まあ、あれが噂の…」

「そうそう、男爵もよく恥ずかし気もなく…。獣人と契ったのでしょう?」

「ふふ。むしろ誇らしいんじゃなくて?
武勇伝をよく語られているもの」

さざ波のように声が密やかに交わされている。私は口を開いた。

「お待たせいたしました。まずは、こちらから─」

どんな商品が出てくるのか直前まで知らされていない私は、舞台袖の使用人から紙を受け取り、読み上げる。

「東洋の島国の名匠がつくったという、骨董品。始まりは100万€から─」




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