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「わかっておりますわ。クロヴィス様は照れているだけですものね」

 私はにっこり笑ってそう言った。

 クロヴィス様に何を言われても、今は全く気にならない。いや、前からクロヴィス様の言葉でさえあれば、素っ気ない言葉でも冷たい言葉でもよかったのだけれど。

 けれど、今は彼の目や声のトーンから本心に気づけるようになったので、何も思い煩うことはなくなった。

「別に、照れているわけでは」

「ふふ、そんなことを言ってもわかっていますわ。私のために騎士団で上り詰めて、それなのに殿下の護衛の話が来たら私との時間がなくなるからと断ってくれるような方が、私を嫌っているはずありませんもの!」


 あの日、魔術師の店を出た後、クロヴィス様は説明してくれた。

 王子殿下の護衛の話は、最初から断るつもりだったのだと。騒ぎになるのが嫌で伏せていただけで、断りの返事は随分前にしていたらしい。

 自分の勝手さを反省していた私が、私に気を遣わなくてもクロヴィス様の望む通りにしていいのだと勧めてみると、「それでは本末転倒だから」ときっぱり言われた。

 クロヴィス様が早く昇進したいと願っていたのは、そもそも公爵家の婿としてふさわしい人間になりたかったかららしい。

 けれど、王子殿下の護衛になれば簡単に屋敷に帰ることも出来なくなり、私との距離が遠のいてしまうと思ったと。

 それを聞いた私は感動のあまり、クロヴィス様に飛びついてしまった。


 その時のことを思い出し、私が幸せな気持ちに浸っていると、クロヴィス様はちらりとこっちを見た。そして小声で言う。

「……可愛いよ、フルールはいつでも」

「えっ!!? 今なんとおっしゃいました!!?」

「なんだよ、そんな驚くことないだろ! フルールがなんでも許してくれるのに甘えずに、これからは素直に思ったことを言おうと決めたんだ」

 クロヴィス様はちょっと怒った顔でそう言う。それからぽつりと呟いた。

「……薬のせいにしなくても」

 私の婚約者はどこまでも不器用だ。婚約者相手に、惚れ薬のせいにしなければ素直な態度一つ取れないなんて。でもそんなところがとても可愛い。


「無理しなくて構いませんのよ! 私はつんけんしているクロヴィス様も、甘々なクロヴィス様もどっちも愛していますから!」

 元気にそう宣言したら、クロヴィス様の顔がまた赤く染まった。

 私はとっても幸せな気持ちで、口をぱくぱくして何か言おうとしているクロヴィス様の赤い顔を見つめていた。


終わり


─────

閲覧ありがとうございました!
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