26 / 78
7.いい人?
④
しおりを挟む
「い、いえ、その。信じられないのは十分承知の上なのですが、確かに見たんです。黒く長い髪に、紺色のドレスを着た女性を。喋ったことはないので、本当に魔女なのかはわかりませんが。でも、幽霊と言っても悪い人ではないんですよ。むしろ親切な方で……」
「長い髪に紺色のドレスの女性、本当に見たんですか?」
「はい。確かに見ました!」
私が力強くうなずくと、ロイクさんは難しい顔で言った。
「魔女は長い黒髪をしていたと言います。それに、あまり派手な服を好まず、紺色の飾り気のないドレスを好んで着ていたとも聞きました。あなたが見た幽霊と一致していますね」
「じゃあ、やっぱりあの幽霊は魔女……!」
「どこで見たんですか? いつ頃? 見たのは一度だけですか?」
ロイクさんは真剣な様子で聞いてくる。私は一つずつ説明した。最初は書庫の前の廊下で見かけたこと、最近はよく姿を現すことなど、できるだけ詳細に話すと、ロイクさんは真面目な顔でうなずいた。
「……わかりました。報告をありがとうございます。王家には伝えておきます」
「はい、お願いします。それにしても、ロイクさんは信じてくれるんですね。幽霊なんて突飛な話」
リュシアン様はいまだに全然信じてくれないのにと思いながら、何気なくそう言うと、ロイクさんは複雑そうな顔をした。
「だって、化けて出たくもなるでしょう。過酷な取り調べの後に死ぬまで幽閉されて。俺だったらずっとこの世に留まって憎み続けますよ」
ロイクさんはつぶやくようにそう言ってから、はっとしたようにこちらに笑顔を向けた。
「すみません。こんなこと、お屋敷から出られないジスレーヌ様に言ったら怖くなりますよね」
「いいえ、気にしないでください。魔女さんから憎しみなんて感じませんし」
私がそう言うと、ロイクさんは驚いた顔をした。そして笑顔にも困り顔にも見える複雑な顔をする。
私はその反応を不思議に思いながらも、確認しておきたかったことを尋ねた。
「そういえばロイクさん。前に事務所に連絡をしようとしたんですが、通信機がつながらなかったんです。壊れているんでしょうか」
私は玄関横のプレートを見ながら言う。ロイクさんが最初に来た次の日、連絡を取ろうと思ったがつながらなかった。その後も時間を変えて何度か試してみたが、一度も事務所にはつながったことはない。
ロイクさんはそちらをちらりと見てから首を傾げた。
「連絡をくれていたんですか? おかしいな。事務所のほうではベルが鳴りませんでしたが」
「確かに何度も連絡しました! やはり壊れているんでしょうか」
「プレートを直接確認したいところなんですが、俺はここまでしか入れないんですよね……。前も言った通りここのお屋敷は二人分の鍵がないと開かなくて。事務所の責任者なら一人で開けられる鍵を持ってるんですが」
ロイクさんは困り顔で言う。それからふと思いついたようにこちらを見た。
「前にお渡しした魔石、持っていますか?」
「はい。持っています」
「ちょっと貸してもらっていいですか」
ロイクさんにそう言われ、私は懐から魔石を取り出して渡す。ロイクさんはそれをじっと眺めると、「あー」と声を上げた。
「すみません、ジスレーヌ様! この石、魔法で鍵がかかっているんです。使うには解除魔法がいるのに、かけるのをすっかり忘れていました」
「まぁ」
「すぐに解除しますね」
ロイクさんはそう言うと、魔石に向かって手をかざす。すると、石の周りが光った。
「これで使えると思います。本当にすみませんでした」
「いえ、大丈夫です。緊急の用事があったわけではないですから」
初めて使ったときこそ使えなくてがっかりしたものの、夜にリュシアン様と通信できるようになってからはそれほど通信機を使いたいと思わなくなっていた。
しかし、ロイクさんは頭を下げ、とても申し訳なさそうにしている。
「今度こそちゃんと出るので、困ったことがあれば連絡してください」
「はい、お願いします」
「それでは、俺はそろそろ失礼します」
ロイクさんは笑顔で手を振って、去って行く。私はロイクさんの後ろ姿を見送った後、持ってきてくれた荷物を屋敷の中に運び始めることにした。
ふと、お屋敷の空気がひんやりとしていることに気づく。
魔女がまた現れたのかと思い後ろを振り返ると、彼女はじっとドアのほうを見つめていた。
私が声をかける前に、魔女はふっと姿を消してしまった。
「長い髪に紺色のドレスの女性、本当に見たんですか?」
「はい。確かに見ました!」
私が力強くうなずくと、ロイクさんは難しい顔で言った。
「魔女は長い黒髪をしていたと言います。それに、あまり派手な服を好まず、紺色の飾り気のないドレスを好んで着ていたとも聞きました。あなたが見た幽霊と一致していますね」
「じゃあ、やっぱりあの幽霊は魔女……!」
「どこで見たんですか? いつ頃? 見たのは一度だけですか?」
ロイクさんは真剣な様子で聞いてくる。私は一つずつ説明した。最初は書庫の前の廊下で見かけたこと、最近はよく姿を現すことなど、できるだけ詳細に話すと、ロイクさんは真面目な顔でうなずいた。
「……わかりました。報告をありがとうございます。王家には伝えておきます」
「はい、お願いします。それにしても、ロイクさんは信じてくれるんですね。幽霊なんて突飛な話」
リュシアン様はいまだに全然信じてくれないのにと思いながら、何気なくそう言うと、ロイクさんは複雑そうな顔をした。
「だって、化けて出たくもなるでしょう。過酷な取り調べの後に死ぬまで幽閉されて。俺だったらずっとこの世に留まって憎み続けますよ」
ロイクさんはつぶやくようにそう言ってから、はっとしたようにこちらに笑顔を向けた。
「すみません。こんなこと、お屋敷から出られないジスレーヌ様に言ったら怖くなりますよね」
「いいえ、気にしないでください。魔女さんから憎しみなんて感じませんし」
私がそう言うと、ロイクさんは驚いた顔をした。そして笑顔にも困り顔にも見える複雑な顔をする。
私はその反応を不思議に思いながらも、確認しておきたかったことを尋ねた。
「そういえばロイクさん。前に事務所に連絡をしようとしたんですが、通信機がつながらなかったんです。壊れているんでしょうか」
私は玄関横のプレートを見ながら言う。ロイクさんが最初に来た次の日、連絡を取ろうと思ったがつながらなかった。その後も時間を変えて何度か試してみたが、一度も事務所にはつながったことはない。
ロイクさんはそちらをちらりと見てから首を傾げた。
「連絡をくれていたんですか? おかしいな。事務所のほうではベルが鳴りませんでしたが」
「確かに何度も連絡しました! やはり壊れているんでしょうか」
「プレートを直接確認したいところなんですが、俺はここまでしか入れないんですよね……。前も言った通りここのお屋敷は二人分の鍵がないと開かなくて。事務所の責任者なら一人で開けられる鍵を持ってるんですが」
ロイクさんは困り顔で言う。それからふと思いついたようにこちらを見た。
「前にお渡しした魔石、持っていますか?」
「はい。持っています」
「ちょっと貸してもらっていいですか」
ロイクさんにそう言われ、私は懐から魔石を取り出して渡す。ロイクさんはそれをじっと眺めると、「あー」と声を上げた。
「すみません、ジスレーヌ様! この石、魔法で鍵がかかっているんです。使うには解除魔法がいるのに、かけるのをすっかり忘れていました」
「まぁ」
「すぐに解除しますね」
ロイクさんはそう言うと、魔石に向かって手をかざす。すると、石の周りが光った。
「これで使えると思います。本当にすみませんでした」
「いえ、大丈夫です。緊急の用事があったわけではないですから」
初めて使ったときこそ使えなくてがっかりしたものの、夜にリュシアン様と通信できるようになってからはそれほど通信機を使いたいと思わなくなっていた。
しかし、ロイクさんは頭を下げ、とても申し訳なさそうにしている。
「今度こそちゃんと出るので、困ったことがあれば連絡してください」
「はい、お願いします」
「それでは、俺はそろそろ失礼します」
ロイクさんは笑顔で手を振って、去って行く。私はロイクさんの後ろ姿を見送った後、持ってきてくれた荷物を屋敷の中に運び始めることにした。
ふと、お屋敷の空気がひんやりとしていることに気づく。
魔女がまた現れたのかと思い後ろを振り返ると、彼女はじっとドアのほうを見つめていた。
私が声をかける前に、魔女はふっと姿を消してしまった。
186
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる