35 / 78
9.魔女
④
しおりを挟む
「そうだ。今すぐは渡せないけれど、茶葉を持ち帰ればお茶を飲んでもらえますよね。きっと喜んでくれます」
そう言いながら棚からちょうどよさそうな瓶を探してきて、中に茶葉を詰める。
私が機嫌よく瓶を用意する様子を、ベアトリス様は何か言いたげに見ていた。
「あっ、それとこんなに村から離れた屋敷まで荷物を運んできてくれたロイクさんにもお礼にお茶をお渡ししてもいいかもしれません。罪人の作ったお茶なんて、受け取ってくれるかわかりませんけれど……」
そう言ったら、ベアトリス様はすぅっとこちらに近づいてきて、何度も首を縦に振った。
どちらの意味だろう。お礼に渡すことに対してか、罪人の作ったお茶なんて受け取らないという意味か。
「ベアトリス様、ロイクさんにお茶を渡したら受け取ってくれると思いますか?」
ベアトリス様は勢いよく何度もうなずいた。前者の意味だったようだ。
ベアトリス様に賛成してもらえたので、私は元気よくお茶のプレゼントを用意し始める。
リュシアン様には茶葉の瓶を、ロイク様には茶葉の瓶と淹れたお茶の瓶の二つを渡すことにした。
予定ではロイクさんは明日屋敷に来る予定なので、保冷魔法のかかった容器に入れておけば、液体のお茶でも持つだろう。
「楽しみですね、ベアトリス様。喜んでくれるでしょうか?」
ベアトリス様は真顔のままうなずいた。
リュシアン様の分とロイクさんの分の茶葉を取り分けて、残りは缶に入れて保管した。瓶には屋敷にあったリボンをもらって丁寧に巻く。
ベアトリス様は私がプレゼントを用意し終えると、やっぱり前触れもなく消えてしまった。
瓶を大事に厨房のテーブルの上に置いて、私は寝室に戻った。
***
お屋敷の長い廊下を歩きながら、幽閉期間が終わってリュシアン様にお茶を渡すところを想像した。想像するだけで自然に頬が緩む。
私はリュシアン様が大好きだし、愛しているし、あの方は本当に素敵な方だと思う。
けれどベアトリス様にも言った通り、今回の幽閉だけは少し納得がいっていない。
どうしてリュシアン様はあんなにひどいことをしたのかしら。
ご令嬢たちの言葉を信じて、私には何の確認もせずに犯人だと決めつけるなんて。お茶会で人が見ていない隙にこっそり毒を仕込むなんて、そんな軽率なことするわけないじゃないか。
私はちゃんと、前日にお城のメイドを買収して、翌日のお茶会でカップの一つに毒を塗っておくように頼んでおいたのだ。
毒入りカップがどれだかわからなくならないよう、目印用の小さな砂糖細工も渡しておいた。
メイドは言われた通りにリュシアン様に毒入りカップを渡して、目印の砂糖もしっかり渡す瞬間に紅茶と混ぜ、証拠隠滅まで完璧に行ってくれたのに。
ちゃんと調べれば、私がお茶会では毒を入れていないことがわかったはずだ。
あの日はリュシアン様のカップの近くになんて絶対に近づかないようにしていたから、ご令嬢たち全員に詳しく聞けば証言に食い違いが出たはず。
それに毒の入手経路をしっかり調べてもらえば、お茶会に参加していた別のご令嬢……あの最近リュシアン様にべたべた近づいて、私を婚約者から蹴落とそうとしていたいまいましい伯爵令嬢が闇市場で購入したという証拠が出てきたはずなのに。
わざわざ伯爵令嬢に似た外見の少女を雇って偽装工作をした意味がなくなってしまった。
こんなに準備を頑張ったのに、ずさんな証言を信じてろくに調査もせず、ほとんどリュシアン様の独断で私を裁きの家に入れるなんて、予想外だった。
リュシアン様は、私のことを嫌いになってしまったのかしら……。
考えていたら落ち込んでしまい、しょんぼりしながら廊下を歩く。いつもより倍以上も時間がかかって、やっと寝室にたどり着いた。
そう言いながら棚からちょうどよさそうな瓶を探してきて、中に茶葉を詰める。
私が機嫌よく瓶を用意する様子を、ベアトリス様は何か言いたげに見ていた。
「あっ、それとこんなに村から離れた屋敷まで荷物を運んできてくれたロイクさんにもお礼にお茶をお渡ししてもいいかもしれません。罪人の作ったお茶なんて、受け取ってくれるかわかりませんけれど……」
そう言ったら、ベアトリス様はすぅっとこちらに近づいてきて、何度も首を縦に振った。
どちらの意味だろう。お礼に渡すことに対してか、罪人の作ったお茶なんて受け取らないという意味か。
「ベアトリス様、ロイクさんにお茶を渡したら受け取ってくれると思いますか?」
ベアトリス様は勢いよく何度もうなずいた。前者の意味だったようだ。
ベアトリス様に賛成してもらえたので、私は元気よくお茶のプレゼントを用意し始める。
リュシアン様には茶葉の瓶を、ロイク様には茶葉の瓶と淹れたお茶の瓶の二つを渡すことにした。
予定ではロイクさんは明日屋敷に来る予定なので、保冷魔法のかかった容器に入れておけば、液体のお茶でも持つだろう。
「楽しみですね、ベアトリス様。喜んでくれるでしょうか?」
ベアトリス様は真顔のままうなずいた。
リュシアン様の分とロイクさんの分の茶葉を取り分けて、残りは缶に入れて保管した。瓶には屋敷にあったリボンをもらって丁寧に巻く。
ベアトリス様は私がプレゼントを用意し終えると、やっぱり前触れもなく消えてしまった。
瓶を大事に厨房のテーブルの上に置いて、私は寝室に戻った。
***
お屋敷の長い廊下を歩きながら、幽閉期間が終わってリュシアン様にお茶を渡すところを想像した。想像するだけで自然に頬が緩む。
私はリュシアン様が大好きだし、愛しているし、あの方は本当に素敵な方だと思う。
けれどベアトリス様にも言った通り、今回の幽閉だけは少し納得がいっていない。
どうしてリュシアン様はあんなにひどいことをしたのかしら。
ご令嬢たちの言葉を信じて、私には何の確認もせずに犯人だと決めつけるなんて。お茶会で人が見ていない隙にこっそり毒を仕込むなんて、そんな軽率なことするわけないじゃないか。
私はちゃんと、前日にお城のメイドを買収して、翌日のお茶会でカップの一つに毒を塗っておくように頼んでおいたのだ。
毒入りカップがどれだかわからなくならないよう、目印用の小さな砂糖細工も渡しておいた。
メイドは言われた通りにリュシアン様に毒入りカップを渡して、目印の砂糖もしっかり渡す瞬間に紅茶と混ぜ、証拠隠滅まで完璧に行ってくれたのに。
ちゃんと調べれば、私がお茶会では毒を入れていないことがわかったはずだ。
あの日はリュシアン様のカップの近くになんて絶対に近づかないようにしていたから、ご令嬢たち全員に詳しく聞けば証言に食い違いが出たはず。
それに毒の入手経路をしっかり調べてもらえば、お茶会に参加していた別のご令嬢……あの最近リュシアン様にべたべた近づいて、私を婚約者から蹴落とそうとしていたいまいましい伯爵令嬢が闇市場で購入したという証拠が出てきたはずなのに。
わざわざ伯爵令嬢に似た外見の少女を雇って偽装工作をした意味がなくなってしまった。
こんなに準備を頑張ったのに、ずさんな証言を信じてろくに調査もせず、ほとんどリュシアン様の独断で私を裁きの家に入れるなんて、予想外だった。
リュシアン様は、私のことを嫌いになってしまったのかしら……。
考えていたら落ち込んでしまい、しょんぼりしながら廊下を歩く。いつもより倍以上も時間がかかって、やっと寝室にたどり着いた。
201
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる