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9.魔女
⑦
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『おい、馬鹿ジスレーヌ。お前、俺がほかの女と少し関わるだけで毒を盛るわナイフを持って突進してくるわ奇行を起こすくせに、自分は別の男と仲良くしてるわけじゃないよな』
「滅相もございません! 私はいつだってリュシアン様一筋です!」
リュシアン様に冷たい目で聞かれ、私は慌てて宣言した。リュシアン様は疑わしそうにじろじろ私を見たが、一応は納得してくれたようだった。
『必要以上に監視係と関わるなよ。いいな』
「あ、あの、リュシアン様。それは焼きもちですか……?」
『馬鹿か! こっちはお前の異常な嫉妬に毎回迷惑させられているのに、お前がほかの男に目移りしていたら割に合わないと思っただけだ!』
どきどきしながら尋ねたら、怒鳴られてしまった。しかし、そうは言うもののリュシアン様の頬はうっすら赤く染まっていて、私の頬は緩んでしまう。
しばらくリュシアン様の赤い顔を見つめてうっとりしていたが、ふと気になったことを聞いてみた。
「リュシアン様」
『なんだ』
「ベアトリス様の息子さんのフェリシアンさんが今どうしているのか知っています?」
ベアトリス様のお子さんの現在がずっと気になっていた。もしもフェリシアンさんの居場所がわかるなら、お屋敷に残されている編み物をお渡しできるのではないか。
ベアトリス様に確認してみて渡したいと仰るようなら、なんとしてでも届けたい。
フェリシアンさんにとっては大切な形見になるだろう。ベアトリス様だって、本人に受け取ってもらったら嬉しいはずだ。
しかし、私の言葉を聞いたリュシアン様の顔は途端に曇ってしまった。そして躊躇いがちに言う。
『……亡くなったそうだ』
「……え?」
『フェリシアン・ヴィオネは、ベアトリスが死んだ後親戚の家で暮らすようになった。しかし、十四歳のときに馬車の落下事故によって亡くなったらしい』
心臓が音が早くなる。ベアトリス様の子供が、亡くなっている。
咄嗟に部屋を見回して、ベアトリス様がいないか確認した。姿は見えないけれど、聞こえてはいないだろうかと不安になる。
「そう、なんですね。それは……残念です」
『ああ。魔女が亡くなって以降、ルナール公爵家でも不幸が続いたし、魔女自身の息子も亡くなっているなんて、因果なものだよな』
リュシアン様は小さく息を吐いて言う。私は何と返したらいいのかわからなかった。
「……随分話が長引いてしまいましたね。リュシアン様、お忙しいのにごめんなさい。そろそろ通信を切りますね」
『そうだな。おやすみ、ジスレーヌ』
「おやすみなさい、リュシアン様」
鏡が光り、通信が切れた。
リュシアン様と随分長く話せた後だというのに、気分は重かった。フェリシアンさんのことを尋ねるなんて、やめておけばよかったのかもしれない。
ベアトリス様はこのことを知っているのだろうか。彼女がお屋敷にずっといるとしたら、何も知らないこともあり得る。
ベアトリス様のいつも無表情の、けれど時折小さく感情が表れるあの凛とした顔を思い出したら、胸がズキズキ痛んだ。
「滅相もございません! 私はいつだってリュシアン様一筋です!」
リュシアン様に冷たい目で聞かれ、私は慌てて宣言した。リュシアン様は疑わしそうにじろじろ私を見たが、一応は納得してくれたようだった。
『必要以上に監視係と関わるなよ。いいな』
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『馬鹿か! こっちはお前の異常な嫉妬に毎回迷惑させられているのに、お前がほかの男に目移りしていたら割に合わないと思っただけだ!』
どきどきしながら尋ねたら、怒鳴られてしまった。しかし、そうは言うもののリュシアン様の頬はうっすら赤く染まっていて、私の頬は緩んでしまう。
しばらくリュシアン様の赤い顔を見つめてうっとりしていたが、ふと気になったことを聞いてみた。
「リュシアン様」
『なんだ』
「ベアトリス様の息子さんのフェリシアンさんが今どうしているのか知っています?」
ベアトリス様のお子さんの現在がずっと気になっていた。もしもフェリシアンさんの居場所がわかるなら、お屋敷に残されている編み物をお渡しできるのではないか。
ベアトリス様に確認してみて渡したいと仰るようなら、なんとしてでも届けたい。
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しかし、私の言葉を聞いたリュシアン様の顔は途端に曇ってしまった。そして躊躇いがちに言う。
『……亡くなったそうだ』
「……え?」
『フェリシアン・ヴィオネは、ベアトリスが死んだ後親戚の家で暮らすようになった。しかし、十四歳のときに馬車の落下事故によって亡くなったらしい』
心臓が音が早くなる。ベアトリス様の子供が、亡くなっている。
咄嗟に部屋を見回して、ベアトリス様がいないか確認した。姿は見えないけれど、聞こえてはいないだろうかと不安になる。
「そう、なんですね。それは……残念です」
『ああ。魔女が亡くなって以降、ルナール公爵家でも不幸が続いたし、魔女自身の息子も亡くなっているなんて、因果なものだよな』
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ベアトリス様はこのことを知っているのだろうか。彼女がお屋敷にずっといるとしたら、何も知らないこともあり得る。
ベアトリス様のいつも無表情の、けれど時折小さく感情が表れるあの凛とした顔を思い出したら、胸がズキズキ痛んだ。
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