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4.博物館見学
③
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「あの……!転校してきたばかりの私が言うのもなんですが、さっきのフェリシア様の言葉は本心ではないような気がします!」
クリスティーナは真面目な顔で言った。
「あはは……。慰めてくれてありがとう。だけど、きっとあれは本心だよ。以前からフェリシアには婚約破棄して欲しいと頼まれていたんだ」
「で、ですが!私にはフェリシア様がとても辛そうに見えたんです!無理して嘘を言っているような……。エルランド様、どうか諦めないでフェリシア様と話し合ってみてください!きっと二人の間には何か誤解があるはずです!」
クリスティーナは必死の様子だった。わけのわからない状況に巻き込まれたというのに、なんていい人なんだろう。兄たちや、ハヴェルとダーヴィトが好意を持つのもわかる。僕にはフェリシアの方が何百倍も魅力的に映るとはいえ。
「ありがとう。でも、いいんだ。フェリシアが嫌がっているなら無理に婚約を押し進めたくないから」
「フェリシア様は嫌がってなどいませんよ……!誰が見てもわかります!」
クリスティーナはめげずに僕を励ましてくれている。だけど僕は力ない笑みを返すことしかできなかった。
その時、外から何かを叩きつけるような大きな音が聞こえてきた。館内の生徒たちが話声を止める。
ドスン、ともう一度音が聞こえてきた。さっきよりも大きい。一体どうしたんだろう。
「館内の生徒は外に出ないでください!魔法植物が暴れ出しました!!」
若い魔法薬学の先生が叫ぶのが聞こえた。生徒たちはざわめき出す。
「……エルランド様。魔法植物があるのって……」
クリスティーナは青ざめた顔で僕を見る。
「……ああ。庭園だ。フェリシアが行きたいと言っていた……」
言い切る前に、気が付いたら足が動いていた。
全速力で階段を駆け下りて庭園に向かう。
(フェリシア、無事でいてくれ……!!)
入口の側では先生が生徒たちに外へ出ないよう大声で呼びかけていた。外からは何人もの生徒が中へ駆け込んできている。
確か、事前授業では庭園には珍しい人食い魔法植物があると言っていた。普段は眠っていて大人しいが、起きると目の前の人間を触手のように長い蔓で捕まえると。捕まった人間は蔓でぎゅうぎゅう締め付けられて、弱ったところで植物の口に放り込まれると……。
なだれ込んでくる人の中にフェリシアの姿は見えない。フェリシアが植物に捕まっているところが頭に浮かび、血の気が引いた。
◇◆◇
一体なんでこんなことになってしまったのだろう。エルランド様に悲しい顔をさせてしまったから罰が当たったのだろうか。
私は目の前に立ちふさがる巨大な魔法植物を見つめながら、逃げることできずただ茫然と立ち尽くしていた。
ほんの数分前、私はエルランド様とクリスティーナさんに背を向けて、一人で庭園までやって来た。
自分からクリスティーナさんを誘ったというのに、いざ二人が並んで話す姿を見ていたら辛くなって、一人で庭園に行くと言ってしまったのだ。
エルランド様もクリスティーナさんも一緒に行こうと言ってくれたけれど、頑なに断った。そうしたら、エルランド様は「僕のことが嫌いになってしまったの?」なんて聞いて来た。「婚約破棄したいのは君の方なんじゃないか」とも。
とんでもない。逆なら有り得ても、私からエルランド様との婚約破棄を望むなどあるものか。
しかし慌てて否定しようとした私は思い直す。
いっそ肯定してしまった方がいいかもしれない。そうだ。今までは「いずれ貴方がクリスティーナを好きになるから」だなんてはっきりしない理由を告げてきたから駄目だったんだ。はっきり私が婚約破棄したいのだと告げれば、話はすぐにまとまるに違いない。
思い切って私は告げた。
「ええ、そうです。私が貴方との婚約をやめたくなったのです。どうか婚約破棄を認めてくださいませんか」
クリスティーナは真面目な顔で言った。
「あはは……。慰めてくれてありがとう。だけど、きっとあれは本心だよ。以前からフェリシアには婚約破棄して欲しいと頼まれていたんだ」
「で、ですが!私にはフェリシア様がとても辛そうに見えたんです!無理して嘘を言っているような……。エルランド様、どうか諦めないでフェリシア様と話し合ってみてください!きっと二人の間には何か誤解があるはずです!」
クリスティーナは必死の様子だった。わけのわからない状況に巻き込まれたというのに、なんていい人なんだろう。兄たちや、ハヴェルとダーヴィトが好意を持つのもわかる。僕にはフェリシアの方が何百倍も魅力的に映るとはいえ。
「ありがとう。でも、いいんだ。フェリシアが嫌がっているなら無理に婚約を押し進めたくないから」
「フェリシア様は嫌がってなどいませんよ……!誰が見てもわかります!」
クリスティーナはめげずに僕を励ましてくれている。だけど僕は力ない笑みを返すことしかできなかった。
その時、外から何かを叩きつけるような大きな音が聞こえてきた。館内の生徒たちが話声を止める。
ドスン、ともう一度音が聞こえてきた。さっきよりも大きい。一体どうしたんだろう。
「館内の生徒は外に出ないでください!魔法植物が暴れ出しました!!」
若い魔法薬学の先生が叫ぶのが聞こえた。生徒たちはざわめき出す。
「……エルランド様。魔法植物があるのって……」
クリスティーナは青ざめた顔で僕を見る。
「……ああ。庭園だ。フェリシアが行きたいと言っていた……」
言い切る前に、気が付いたら足が動いていた。
全速力で階段を駆け下りて庭園に向かう。
(フェリシア、無事でいてくれ……!!)
入口の側では先生が生徒たちに外へ出ないよう大声で呼びかけていた。外からは何人もの生徒が中へ駆け込んできている。
確か、事前授業では庭園には珍しい人食い魔法植物があると言っていた。普段は眠っていて大人しいが、起きると目の前の人間を触手のように長い蔓で捕まえると。捕まった人間は蔓でぎゅうぎゅう締め付けられて、弱ったところで植物の口に放り込まれると……。
なだれ込んでくる人の中にフェリシアの姿は見えない。フェリシアが植物に捕まっているところが頭に浮かび、血の気が引いた。
◇◆◇
一体なんでこんなことになってしまったのだろう。エルランド様に悲しい顔をさせてしまったから罰が当たったのだろうか。
私は目の前に立ちふさがる巨大な魔法植物を見つめながら、逃げることできずただ茫然と立ち尽くしていた。
ほんの数分前、私はエルランド様とクリスティーナさんに背を向けて、一人で庭園までやって来た。
自分からクリスティーナさんを誘ったというのに、いざ二人が並んで話す姿を見ていたら辛くなって、一人で庭園に行くと言ってしまったのだ。
エルランド様もクリスティーナさんも一緒に行こうと言ってくれたけれど、頑なに断った。そうしたら、エルランド様は「僕のことが嫌いになってしまったの?」なんて聞いて来た。「婚約破棄したいのは君の方なんじゃないか」とも。
とんでもない。逆なら有り得ても、私からエルランド様との婚約破棄を望むなどあるものか。
しかし慌てて否定しようとした私は思い直す。
いっそ肯定してしまった方がいいかもしれない。そうだ。今までは「いずれ貴方がクリスティーナを好きになるから」だなんてはっきりしない理由を告げてきたから駄目だったんだ。はっきり私が婚約破棄したいのだと告げれば、話はすぐにまとまるに違いない。
思い切って私は告げた。
「ええ、そうです。私が貴方との婚約をやめたくなったのです。どうか婚約破棄を認めてくださいませんか」
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