私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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温度差

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モリナさんの視線に心がざわざわしていると、レーナおばさまがお茶の説明を始めた。
妙な気持ちにとらわれていたので、レーナおばさまの声にほっとする。

「今日の茶葉は、ラスナム山でわずかに栽培されている希少なお茶です。ストレートが一番あう茶葉といわれていますが、ミルクやレモンも用意しておりますので、お好みで試してみていただければと思います。王女様、毒味ですが……」
と言いかけたのを、王女様が「いえ、結構よ」と遮るように言った。

「公爵夫人。私は、わが王家でも竜の獣人としての特性が特別強いの。おかげで、生半可な毒は効かないわ。毒味は無用よ」

自慢げに微笑んだ王女様。

「大変失礼いたしました、王女様」

やわらかな口調で謝るレーナおばさま。

「それに、ルーファスのご実家で毒をもられるはずもないわ。私はルーファスをとても信用しているの。だって、この一週間つきっきりで、特別に、優しくしてもらったもの。ねえ、ルーファス」

ねっとりとした視線をルーファスに向ける王女様。

「いえ。私は王から命じられた仕事をしたまでです」

ルーファスがひんやりとした声で答えた。

「ルーファスは要領がいいからな。さぞかし気持ちのこもったもてなしをしたんだろう。ラジュ王女も満足されたようで良かったな、ルーファス」

第二王子は含みのある言いかたをすると、嫌な笑みを浮かべて、ルーファスを見た。
その顔めがけて、靴を投げつけたい衝動にかられる。

本当にさっきから、なんなの、このふたり!
ふたりの澱んだ視線からルーファスを隠したくて、いらいらしてきた。

と、その時、公爵家の精鋭のメイドさんたちが各席に近づき、手際よく給仕をしはじめた。

私の席には、キリアンさんがついてくれた。

「ララベル様、ラスナム山は霊山で、このお茶は邪気を払うという謂れがあります。全てうまくいきますから、ご安心を」

私のいらいらを見通したように小声でそう言うと、にっこりと微笑んだキリアンさん。

本当だ。ちょっと、落ち着かないと……。

淹れてくれたお茶を一口飲んでみる。
すっきりとした味わいで、いい香り……。

体の中がふわっとあたたかくなる。
確かに悪いものが払えそう!

「ありがとうございます、キリアンさん」

「キリアン、イチゴのケーキもララにとってあげて。あ、あと、イチゴのパイと、イチゴのムースもね」

横から指示が入る。もちろん、ルーファスだ。

「承知しました、ルーファス様」
と、キリアンさんが微笑んだ。

「ちょっと、ルーファス。いくらなんでも多くない? さすがに私でも、この状況で、そんなに食べられないよ!?」

小声で文句を言う。

「今日のララの仕事は、美味しいお菓子を食べて、お茶を飲むことだよ。あとは全部僕がする」

ルーファスがにっこり微笑んだ。

いや、だから、危ないのはルーファスなんだって!
ほら、王女様が獲物を見るような鋭い目でこっちを見てるし、第二王子は、ただただ気持ちの悪い目でこっちを見てるよ!

必死で目で訴える私に、ルーファスはきらきらした笑みをうかべて、小首をかしげた。

うん、天使降臨! ……じゃなくて、全然、伝わってない!

そして、私の前には美味しそうなお菓子やケーキが色々並んだ。

「ララベルさんは、獣人以上に沢山食べるのね? そんなに甘いものを食べるだなんて、まだまだ子どもでかわいらしいわ」
と、王女様。

言葉がやけにトゲトゲしているのは、気のせいじゃないよね。
まあ、でも、王女様のおっしゃるとおり、私は甘いものが好きだし、沢山食べるし、子どもだと思う。

開き直って、そう答えようとしたとき、ルーファスが口を開いた。

「甘いものを食べているララは、とてもかわいらしいんです。まあ、いつだって、何をしてたって、ララはかわいらしいですけどね」

一気に静まりかえった、ひだまりのテーブル。

……えええっ!? 

ちょっと、ちょっと、なんてことを言うの、ルーファス!?
とんでもない爆弾を落としたんじゃないの!?

刺すような視線が痛くて、モリナさんも王女様も見ることができない。
かといって、ふたりの前で、今、ルーファスを見たら、絶対に事態が悪化する。

ということで、助けを求めて、ルーファスをとびこえて、レーナおばさまを見た。
が、レーナおばさまは笑いをこらえた顔をして、首を横にふった。

きっと、今、口を開くと笑ってしまう状態なんだと思う。
レーナおばさまの後ろで控えるメイド長のマリアさんも同じような顔をしていた。

はっとして、振り返る。

キリアンさんが生暖かい目で微笑んでいた。
まわりのメイドさんたちも同じような顔をしている。

反対に、テーブルを挟んだ向かい側からはすごい冷気が……。

まさに、温風と冷風。
同じ室内で、温度差がすごいんだけど!?


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