(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

ムルダー王太子 31

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ダグラスのせいで、心身ともに、ぐったりだ。

ルリへの伝言を頼まれたが、わざわざ、伝えに行く気力もない。
どうせ、また、すぐに逃げてくるだろうし、その時でいいだろう…。

そう思って、執務室へ戻ると、少し開いたドアの向こうから、甲高い声が聞こえてきた。
ルリの声だ。

まて来てるのか…。
思わず、ため息がでる。

が、いつもは泣きながらわめいているが、今日のルリは明るい声で何か話をしている。
機嫌が良さそうだ。

バリルに、いつもルリの対応を頼んでいるが、ルリの扱いに慣れたみたいだな…。

一応、執務室の前の廊下には、護衛の騎士が立っている。
どの騎士も、よほどの用がない限り、ぼくと話をする者はいない。

今も、ぼくを見て、無表情のまま、少しだけ頭を下げた。

ふと、ルリの声がやみ、静かになった。
今日は、うるさくないから、まだましだ。

そう思いながら、少し開いたままのドアを大きく開き、執務室に入った。

窓際にふたりはいた。

なんだ、あれは…?

どう見ても、抱きあっているように見えるが…?

ぼくに気づいたバリルがあわてて、ルリの体から手を離し、あせった様子でぼくを見た。

バリルの胸に顔をうずめていたルリも、こちらを振り向いた。
が、バリルと違って、ルリの顔に、あせった様子はまるでない。

それどころか、ぼくに向かって、意味ありげに微笑んだ。

まあ、別に、偽物の婚約者だしな…。

が、そのことを知らないバリルは、みるみる、顔色が悪くなっていく。

「あ、ムルダー様! これは…あの…、ルリ様のことをなぐさめていただけで…」

混乱しているバリルを遮り、ルリが口を開いた。

「バリル様はね、わたしのことを好きだって言ってくれたの。そんなに王太子妃教育が辛いなら、辞めて、俺と結婚すればいいって。俺のところにきたら、不自由はさせないって言ってくれたのよ。私、それでもいいかなって、思い始めちゃて…」
そう言って、上目遣いにバリルを見上げたルリ。

そんなルリを、バリルが熱のこもった目で見返した。

ああ、なるほど…。ルリが、たらしこんだのか…。

でも、相手がバリルということを疑問に思った。

というのも、ルリは、ぼくの顔が好きで、美貌のダグラスの顔はもっと好きだ。
だが、正直、バリルは普通の顔だ
しかも、ダグラスとはまるで違う、いかつい顔だ。

今までの言動から、どう考えても、ルリが好きになるとは思えない。
が、それほど、ルリにとって、王太子妃教育が辛いということか。

教師からの苦情を聞くに、相当、勉強はできないらしいしな…。

その時、ふと、ダグラスの伝言を思い出した。

瞬間、鳥肌がたった。

あの男、もしかして、こういうことになることがわかってたのか…?

ダグラスの条件を待たずに、ルリが王太子妃教育から逃げて、適当な男をたぶらかし、手を打とうとすることを?!

そのための伝言だったのか…?!

しかも、このタイミングで…。もしや、あいつ、魔力で何か見てるのか…?!

思わず、ダグラスの視線を感じて、その不気味さに、またも体が震えだす。

小刻みに震えるぼくを見て、よほど怒っていると思ったのか、バリルが、真っ青な顔のまま床にひれふした。

「申し訳ありません! ムルダー様! 正直に言います。厳しすぎる王太子妃教育を受け、おつらそうなルリ様をおなぐさめしているうちに、気がついたら、好きになってしまいました! 手の届かない方だとは思っていましたが、ムルダー様は、ルリ様を大切にされているようには見えない! それなら、俺が幸せにしたい! ルリ様も王太子妃は嫌だとおっしゃって、俺と結婚してもいいと言ってくださいました! どうか、ルリ様を解放してください! お願いします、ムルダー様!」

「バリル様…嬉しい!」
そう言って、ひれ伏すバリルに微笑みかけるルリ。

ダグラスをうっとり見ていた顔とはまるで違う、打算的な顔だ。

すっかり、本気になっているバリルが哀れに思えてきた…。

ルリなど、クリスティーヌを取り戻すために異世界へ送り返すまでの間、バリルとどうなろうが、どうでもいい。
だが、魔力でしばられている以上、本当のことをばらすわけにはいかない。

「バリル、下がれ。ルリに話がある」

バリルは立ち上がると、ぼくに深く頭をさげた。
そして、ルリを心配そうに見やってから、部屋を出て行った。




※ 読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
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