天使かと思ったら魔王でした。怖すぎるので、婚約解消がんばります!

水無月あん

文字の大きさ
83 / 158

できる二人

しおりを挟む
目の前に並ぶお料理は、どれも本当に美味しい。
でも、すぐに冷える。お隣からの冷風によって強制的に冷やされる。

美味しいんだけれど、冷たい…。
なんでもいいから、温かいものが食べたいわ…。

テーブルに、全部のお料理が出揃ったみたいね。

すると、静かだった広間が、いきなり、ざわざわしはじめた。
見ると、あちこちで、席を立って、動いている人がいる。

「あの人たち、どうしたのかしら?」
と、デュラン王子に聞いてみた。

「ブルージュ国の晩餐会ではね、最後まで料理が出たら、席を立って、動いていいんだ。
だから、思い思いに、知りあいのところへ話しにいったり、この機会に、話してみたい人のところへ挨拶しにいく人もいる。
もちろん、そのまま、すわって食べててもいいよ。まあ、要するに、自由ってこと」
そう言って、デュラン王子は微笑んだ。

ええ、そうなの?! くだけた感じで、楽しそうね。

と、思ったら、お隣の席から、甲高い声が聞こえてきた。

「あの、オパール国の方ですよね?」

うん、耳慣れた感じの声色ね。

見ると、ユーリのところに、三人の令嬢がやってきていた。
とっても見慣れた感じよね。
外国にいることを忘れてしまいそう…。

ユーリは、
「ええ、そうですが? 何か?」
と、完全に、外向きのきらきらした笑みをうかべて、答えた。

令嬢たちの目がハートになり、ボルテージが、一気にあがったのがこっちまで伝わってきた。
一瞬にして、心をつかまれてる。

だまされないで! それは、うちの魔王よ!

私の願いもむなしく、三人の中の真ん中の令嬢が、ユーリの前にすすみでた。
金髪をくるくると巻き、ゴージャスなパープルのドレスを着て、ひと際、派手…いえ、華やかな雰囲気。
私より、いくつか年上に見える。

「わたくし、ブルージュ国の筆頭公爵家であるジェフアーソン家の娘ミラと申します。是非、オパール国の方にご挨拶させていただきたいと思いまして」
そう言いながら、色っぽく微笑んだ。

が、うーん…。
お綺麗なんだけど、なんか、うすっぺらい感じがいなめない。
やはり、デュラン王子やユーリなど、本格的な、魔王の色っぽい微笑みを見慣れてしまってるから、私の基準がおかしくなったんだわ。

すると、ユーリが、
「それはそれは、ご丁寧に。わたしは、オパール国のユーリ・ロンバルトと申します」
そう言うと、これ以上ないくらい、表面的な笑みをうかべた。

「ユーリ様って、おっしゃるんですね!」
と、その令嬢が、うっとりとユーリを見つめる。

いやいや、うっとりしている場合じゃないですよ!
筆頭公爵家の令嬢の方、ユーリをちゃんと見て。

きれいに微笑んでるけど、目が笑ってないよ…。
すごーく怖い目をしているよ…。
おそらく、名前を呼ばれたことが不満だったんだと思う。

あれ? ユーリのななめ前にすわっている王女。確か、イーリンさんって言ったわね。
すごく、ふるえてない?

しかも、顔が、さっき見た時以上に、下をむいている。

もしや、ユーリの本性を見抜いてふるえてるとか?
とにかく、あの様子は、普通じゃないわね。

私は、とりあえず、デュラン王子に、
「ちょっと失礼」
そう声をかけて、あわてて席をたった。

デュラン王子が、
「どうしたの? アディー」
と言っているが、私は急いで、でも、走っていると思われないよう、自然に見えるように、イーリンさんのところに近寄っていった。

挨拶を装って、にこやかに、そして、他の人に聞こえないよう、小声で話しかける。

「私、オパール国の王女アデルです。どこかお悪いの?」

イーリンさんは、体をびくっとゆらした。

すると、斜め前のユーリの近くから、クスクスと笑い声が。

嫌な響きだわ…。

そう思って見ると、あの筆頭公爵家の令嬢が笑いながら、
「イーリン様は、いつもそんな感じですのよ。王女様、お気になさらないで」
と、私に向かって言った。

なに、その、小ばかにしたようなニュアンス!

私が長年、熱狂的なユーリファンに言われている悪口を思い出すわね。
共感しすぎて、ほおっておけないわ。

が、気になるのは、私の場合よりも、悪意を感じることよね…。

私は、気持ちをこめて、イーリンさんにささやきかける。
「私はあなたの味方よ。私に、なにかお手伝いできることはある?」

すると、
「ここから連れ出して」
と、かすれた声がもどってきた。

「わかった。まかせて」
私はそう言うと、私のあとを追ってきたデュラン王子に小声で言った。

「イーリンさんとご一緒に退席させていただきますね。ということで、あとは、うまーくお願い」
と、デュラン王子にまるなげした。

すぐさま、事情を察したデュラン王子。
「ごめん、アディー。イーリンをよろしく」

すぐに、デュラン王子が、人を呼び、その人に小声で指示をだした。

その人が、私の方を向いて、
「アデル王女様、ご案内いたします」
と言ったので、イーリンさんを椅子から立たせて、一緒に歩き出した。

幸い、会場はざわいついてるので、ぬけだしやすい。

そして、もう一人の魔王にも、あとはまかせた!という思いをこめて、目で合図を送る。

すると、ユーリの顔が一瞬、素に戻った。
そして、しかたないなあ、という感じで微笑みかけてきた。伝わったみたい。

ユーリは、すぐさま、外向きの笑顔に戻って、あの令嬢に話しかけ始めた。
私たちが退出する間、令嬢たちの注意を自分にひきつけ、そして、ついでに情報も得るつもりね。

ということで、いざという時、頼りになる二人が、あとはなんとかしてくれるでしょう。
だって、魔王たちは、仕事ができるものね。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

処理中です...