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第五話
しおりを挟む───その30分前───
僕は銃を持ち込むにあたって、無条さんに一つ訊いておきたいことがあった。武台裏にいた僕たちは声を抑えながら話した。
「今回の僕たちの相手TEAMの井口ってどんな人なの……?」
「たぶん、けっこう手ごわいとおもうよ。だって、前回の『試』では、第四位という結果を残しているし」
「そのときは、どんな手法を使ってきたの……?」
「それは、思い出すだけでゾッとするようなものだったよ。いつも井口君───グッチーの相手TEAMは、致命傷にはなっていないものの、大きな傷を受けて時には病院送りにもなっているくらいなんだよ」
「で、具体的には……?」
「あぁ、そうだね。自分の相手TEAMを殺傷寸前の状態まで傷つけるために、改造して威力を弱くしたアサルトライフルに、自作の仮弾を装填して武台に上がってくる。それがグッチーが使う非人道的な手法なの」
「なんか、ダサいね……」
「うーん、でも、彼は彼なりに昇格するための手段を選んでいるんだと思うよ」
「ほんとにそうかな……?」
僕がそう呟くと、彼女は不思議そうな顔で僕の顔を見つめてきた。
「なんで、そう思うの?」
「だって、もし本当に昇格するのが目的なら、必要最低限の道具で、短時間かつHPが100%の状態で勝利しようとするはずじゃない……?」
「まぁ、確かにそうだけど」
「ってことで、僕はこのハンドガン一つで闘うよ……」
「そのハンドガンには、まさか実弾なんて入っていないよね?」
「うん、入ってないよ、ただ1つ───」
「りょーかいっ!もうすぐ私たちの試合が始まるよ」
僕の言葉は、肝心なところで遮られてしまった。
そして数分後、第二試合の終了を告げるホイッスルが鳴った───。
「……、……」
静寂が訪れた。彼───西野はたった今、俺に銃口を向けたそのハンドガンのトリガーを躊躇なく引いた。にも関わらず、銃声は響かなかった。
「なっ……!」
西野を含む、俺以外のこの教室にいる者の中で、誰一人としてこの状況を理解できる者はいなかった。
「一体どういうことだ!なぜ弾が発射されない!」
彼の率直な疑問に、俺はストレートに答える。
「そりゃ、当たり前だろ?だって、弾が入っていないんだから」
「は?でもお前、さっき地面に向かって一発撃っただろ!」
「あぁ、『一発だけ』な」
「なに?ってことはまさか───」
「そう。最初から『一発だけ』しか弾が入っていなかったんだよ」
「ァ……、ァ……、あァ……」
西野は俺のかんっぺきなカラクリに声を失い、平常心をも失っていた。それが意味するのは───
「あっ!西野君のHPが0%になってる!ってことは───」
“ピッピッピ───”
というホイッスルと共に第三試合が終了した。のと同時に、観闘席から大きな歓声が巻き起こった。
「ウォォォォ───!」
「こいつはバケモノだ!」
「たったの五分で決着しやがったぞ!」
「えげつないヤツが入ってきたぁ!」
「今学期のダークホースだぁ!」
といった意外な声が飛び交う中で俺は一つ、大きな深呼吸をした。僕がそれを終えたころに無条さんは僕に駆け寄ってきた───と思ったら、その勢いのまま僕に抱きついてきた。
「光地之君、すごいよ!ほんとにすごいよ!」
と言いながら、苦しいくらいに僕に抱きついている彼女に、僕は目を点にする。
「ちょっ、むじょさんっ、そんなことしたらみんなの誤解を招きますよ……?」
案の定僕が言った通り、C組の全生徒の目が僕たち二人に集中していた。無条さんは相当美しいスタイルを持っている。そんな彼女が僕みたいな底辺男子に抱きついていたら、みんなから嫉妬の目を向けられるのも無理はない。
彼女もさすがにやりすぎたと気づいたのか、
「うれしくって、ついつい……ね?」
と言って僕に抱きついていた手を解いた。やはり彼女は自分の容姿と周囲の目は無自覚なのだろうか。
彼女が抱きつくのをやめて、みんなの注目が僕たちからそれたところで再び話しかけてきた。
「あっという間に勝っちゃったね。私、今でも信じられないの」
「まぁ、多少危なかったところもあったけどね……」
「うん、ホントに危なかったんだよ。グッチーが弾を入れていなかったからよかったものの、もし本当に入っていたら───」
「それはないよ」
「えっ?」
僕の見た目に合わない、はっきりとした口調に目を丸くする無条さん。僕はそのまま言葉を続けた。
「だって、試合が始まってからすぐにグッチ―の銃に弾は入っていない、ということに気づいたからね」
「なんで?」
「僕、開始のホイッスルが鳴るとすぐにハンドガンを捨てて、グッチーの懐に走りこんだでしょ?」
「うん」
「で、僕が彼の銃口に額をつけたときに、トリガーを引きかけた彼は顔色一つ変えなかったんだ。『殺傷してはいけない』のだから、あの状況だと普通はトリガーを引きそうになったら焦るでしょ?そこで僕は、グッチーは弾を入れていないということに気づいたんだ」
「うーん。にしてもなんで今日に限ってグッチーは弾を入れていなかったんだろ?」
「それは、きっと僕の『見た目』に騙されたんだと思うよ。まんまとね」
最後の方は周りに聞こえないように、声を小さくして言った。
「うん。たぶんそうだね。私も光地之君の闘いっぷりにびっくりしたんだよ。かっこよすぎたよ」
彼女───無条さんはやはり無自覚のうちに他人を引き付けてしまうようだ。僕もそのうちの一人だった。
「転入三日目にしてはなかなかすごいでしょ」
「転……、あっ、うん。そだね」
「ん?」
彼女の口調に少し違和感を覚えたが、気にしないフリをした。
そして一通り話し終えると、二人で観闘席へ戻り、残りの試合を見ることにした。
この日から、僕の存在と実力はCクラスだけにとどまらず、全クラスへの波紋となる───。
ばれなかった。
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