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第六話
しおりを挟む袖を引っ張られる。振り向く。
そこには、背丈が僕の肩の高さくらいの女の子がなぜか悲しそうな顔でこちらを見つめて立っていた。
「えんせい……、私のこと覚えてる?」
初対面のはずなのに、どうして僕の名前を知っているのだろう。
そんな味気のない思いを抱きながら一日がスタートした。
「光地之君、『試』の結果はもう見た?」
無条さんが今にも弾みだしそうな声色で僕に寄ってきた。
僕が転入早々で開始5分で決着というスゴイ結果を出してしまったことは承知済みだった。
だが、無条さんが言った「すごかった」は違うことを指している気がした。
常にハイテンションな彼女だが、今日はより一層のクオリティを醸し出していたので、少し遠回しに訊いてみた。
「どうしたの?そんなにハイテンションで」
「最初は自分でも信じられなくて、見間違いかと思って何度も見直したんだけど、結果は変わらなくて───」
「で、その結果はどうだったの?」
僕は焦れったいのが苦手で、すぐに結果を求めてしまうタイプだ。
彼女の支離滅裂な話し方には、少し耐え難いものを感じた。
「それがね、まさかのまさか、私がC組の『MVSP』に選ばれたの!私、特に何もしていなかったと思うんだけどなぁ」
僕は、彼女の報告を聞いて、思ったことを素直に口に出す。
「うん。確かに、何もしていなかったね」
さすがの無条さんも、この言葉にはギクリときたみたいだ。
「う、うん。そだよね。なんで私が「MVSP」に選ばれたんだろ?」
「でも、だからこそ選ばれたんだと思うよ。無条さんがね」
「え?どういうこと?」
理解が追い付かない彼女にフォローを入れる。
「無条さんは何もしなかったんでしょ?」
「うん」
「それってスゴイことだと思うよ。有能なプレイヤーへの最大限のサポートは、その人が自由に動くために何もしない、ってことなんじゃないかな。それを無条さんは成し遂げたんだ」
「そうか……。そういうことかぁ。確かに、『無』関与は難しいもんね」
彼女のテンションが収まったところで、彼女に連れられて、改めて自分の「試」の結果を見に行くことにした。
「C組、第一位、光地之円世、か。なかなかやるじゃん」
僕たちがロビーに着くや否や、たまたまそこに居合わせた少女に、自分で見る前に結果をネタバレされてしまったらしい。
この学校には、無条さんと生徒A以外の知り合いがいた覚えはないが、その声は、僕のをことを知っている風な口の利き方だった。
「ん?だれ……?」
僕はとっさに「貧弱モード」をつくって、少し間をあけてから振り返ると、そこには───向こうも以外だったのか───あからさまに驚く例の女の子が僕の存在に気づいて、ポカンとした表情で、目をぱちぱちさせて立っていた。
と、次の瞬間。
「え、えと……。これは別に私がえんせいのことを好きだとか思ってるわけじゃないんだからでもなんでもないんだからねっ!」
自ら謎の地雷を残して走り去ろうとした彼女に向かって、僕の背後から突然、大声がとんだ。
「幸乃、それほんと!?」
ロビーにいたもののほとんどが無条さんの声に驚いて、彼女の方を振り向き、さっきまでガヤガヤしていたロビーは、しんと静まり返ってしまった。「幸乃」と呼ばれた少女も立ち止まって、無条さんの方を振り向く。
「えっ……、ちょっ……」
みんなに注目されて顔を真っ赤にさせてしまう彼女。
そんな予想外の展開に動揺して立ち尽くしていた彼女のもとへ、無条さんは歩みよっていく。
「……、……」
無言の圧力。
無条さんはそんな雰囲気で彼女の目の前に立つ。
「……、……」
それに耐えかねたかのように、彼女は何も言わずに走り去ってしまった。
「はぁ……。光地之君、教室に戻ろ?」
その一声でさっきまでの静寂が少しずつ破れていく。
「あぁ、なんだアイツか」
「ここ最近おかしかったもんなぁ」
「そういうことか」
僕は、どことなく聞こえてくる声を頼りに、今の状況を把握しようとしていた。
喧騒が戻っているロビーにはたくさんの生徒が自分の結果を見ようと押し寄せていたので、無条さんが僕のもとに来る頃には、もうすでに結果を知っていた僕は、その集団の外側にいた。
「ごめんね、光地之君。ちょっと取り乱しちゃって」
「全然気にしていないよ……」
本当は、気になって仕方がなかった。
さっきの少女が誰で、無条さんとどういう関係にあるのか。
しかし、さっきのことに触れられたくなかったのか、無条さんは教室に戻るように促してきた。
「教室に戻ろ?私、人が多いの苦手なの」
「そうだね……」
僕は教室へ向かう廊下を歩きながら、少女と無条さんはおそらく姉妹関係にあるのだろう、と結論づけた。
結局、自分の目で結果を見ることはできなかった。
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