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第九話
しおりを挟む笑顔。笑った顔。あの人のそれが見たくて、僕は努力し続けてきた。ヴァイオリンも、ピアノも、勉強も。彼女が僕の前に居なくなった今、果たして自分が今まで通りに努力を続けられるのか。その答えを知る前に、次の転機がきた。
「闘格高校?」
「そう。今話題の高校だよ。なにしろ、そこの頂点に立ったら、校長先生になれちゃうみたい」
「校長か……。悪くないステータスだな」
「光地之くんのような人にぴったりじゃないかなぁ、と思ったんだよ」
「というか、頂点って、なにを基準に?」
「さぁ。僕も中の人間じゃないからわからないけど、行ってみる価値はあるんじゃないかな。……一人の友人としていまの光地之くんにはそっちの方がいいと思ってるんだけど」
「少し考えてみる」
人生何があるかわからない。本当にその通りだった。この高校で結果を残せば、もう一度会える可能性はある。そんな空想を描いての転入5日目。今日も通常授業だった。
「ねぇねぇ、なんでまるりはいつも硬い顔してるの?」
「そんなこと言わないでよ。普通にしてるだけだよ。そういう幸乃こそ、どうしたらそんなにいつもにこにこしていられるの?」
「笑顔効果とか?」
「笑顔でいたら楽しくなりますよ、的なヤツ?」
「うーん、ちょっと違うんだよねー。いつも笑顔でいるから楽しいんじゃなくて、みんなと居て楽しいから笑顔でいられるんだよ。まるりももう少し周りをみてみたら?」
「それ、幸乃にだけは言われたくなかった……」
学校の授業中におしゃべりをするとどうなるか。
「ちょっと、そこ。うるさいよ」
少しの沈黙。しかし、そこでとどまる彼女たちではなかった。
「えー?なんでしゃべっちゃダメなんですか?」
「授業中だからだよ」
ここから西園節が炸裂する。
「それがマナーだからですか?」
「そうだけど?」
「でも、先生がマナー守っていないのに、どうして私たちだけ守らないといけないんですか?」
「……、先生が守るべきマナーとはなんだ?言ってみろ」
「授業をするなら、みんなの興味を引くような面白い授業をする、でしょ?自分が守れていないのに、生徒にだけ守れっていうのは理不尽じゃないですか?」
「理不尽も勉強だ。我慢しろ」
西園さんの顔がゆがむ。一度しぼんで、それから少し膨らんで、それから───
「えすけーぷ!面白くないので、にげまーす!」
そう言って、彼女は本当に教室からずんずんと出て行ってしまった。
がらんとした教室。人の数はいるのに、「なかみ」が薄い。「存在感」というものを初めて知った。
終業のチャイムが鳴ると、無条さんが僕の席へやってきた。
「……、昼間の幸乃のアレ、どう思う?」
「いいと思う。なんか態度とか行動が雰囲気に合ってる気がする」
「まぁ、確かに」
「で、なんか僕に用事でもあるの?」
「あぁ、えと、用事というほどのものではないんだけど、この前からちょっと気になってることがあってね」
「どうしたの?」
問いかけてすぐに後悔する。これは聞いてあげてはいけない一線だったのかもしれなかった。
「光地之くんって、いつからこの学校に来たの?」
~続く~
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