時間のない恋

東雲 周

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第十話

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転入生。僕はそう呼ばれていた。時間の経過とともに少しずつ定着してきたが、今でもやはり、少し違和感が残る。
転入生。この学校には、ついこの前入ってきた。その前までは、部外者。
その扱いに、僕はなじめなかった。

いつこの学校にやってきたのか。そう聞かれると、返答に困る。五日前にやってきた設定なのか、それとも───
「光地之くんって、いつからこの学校に来たの?」
 やはり、感づかれていたか。誰かと、気軽に話せる仲になるべきではなかった。
 その場を取り繕うように言葉を発する。
 「うーん。この学校に来た、というのが、5日前のことを指すのか、それとも───」
 「光地之くんって、ほんとに転入生なの?」
 「まぁ、一応ね」
 「ふぅん……。なんかねぇ。闘い方が、初心者っぽくなかったから聞いてみたんだけど」
 「まぁ、正確には、『転入生』ではなく、『転校生』なんだけどね」
 「どういうこと?」
 「『転入生』というとなんか、記憶を消されてEクラスからCクラスに戻されてきた、みたいじゃない?学校が変わっている、ということを強調するためには『転校生』と言うべきだったかな。自己紹介のときに」
 「あぁ、そういえば、自己紹介の時のこと、覚えてる?」
 なぜかしらけてしまった、僕の自己紹介の時の雰囲気を思い出す。
 「うーん、あんなにしけた自己紹介は初めてだったよ」
 「確かに、面白くはなったんだけど、私が言いたいのはそこじゃなくて───」
 「うん?」
 「光地之くんが最後の方に言った、『皆さんがそれを見つけ、利用してくれることを願っています』というところ。なんかひっかかるんだよねぇ……」
 予想外の部分を突っ込まれて、返答に迷う。どう切り返そうか。
 「……、それがみんなの役に立つ才能だと思ったから、そう言っただけだよ」
 「なんだぁ。それだけのことかぁ。よかった」
 うまく返せたみたいだ。ほっと一息つく。安心してもらえてよかった。自分のペアには、できるだけ心配をかけたくない。
 「でも、一人で勝手に心配していた自分が恥ずかしいなぁ……」
 自分せいで、友達にまで心配をかけている。
 そう思うと、少し胸が痛んだ。



 これは、あくまでも「手紙」。
 なぜ、ここまで事細かに一つ一つの出来事を書く必要があるのか。
 そして、なぜ、ここまで鮮明に覚えているのか。



 僕は、物事を「丸暗記」しているのではない。



~続く
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