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10.情報収集
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◇
「よし、まずは情報収集から始めようか。手分けして村の人から話を聞いて回ろう」
「わかったわ」
「フフ……いいだろう」
「じゃあ今から一時間後、村の入り口に集合な。それじゃあいったん解散!」
村長の家から出たマロゥたちは、ゴブリンの情報を集めるため、それぞれ別の方角へと歩き始める。
「ミーナは農場、カイルは物見櫓の方へと向かったか。……ん? あれは……」
マロゥが考え事をしながらしばらく歩いていると、村の外れにある寂れた教会が目に入った。
村の規模に則し、そう大きな教会ではなかったが、それでも民家の倍以上はある。
しかし、石造りの外壁はところどころ崩れて穴が開いており、広範囲に蔦が這っていた。明らかに現在は使われておらず、人などいなさそうな雰囲気だった。
「おお……実に良い。ああいうところにこそ、真実があるものだ」
普通なら人がいるなどとは思わないだろうが、琴線に触れるものがあったようで、教会を見つけるや否や、マロゥは早足で近寄っていく。
「……む?」
マロゥが朽ちた扉の向こう側を覗くと、意外なことに人の姿があった。
祭壇付近に立っていたその人物は、純白のローブのフードを目深に被っているため、顔がはっきりと見えない。だが、体型とシワのある口元から、年老いた男だということが判断できる。
「……おや、ご客人かな?」
その男は教会へと立ち入ったマロゥの存在に気が付き、ゆっくりと近寄ってきた。
それは年相応の緩慢な動きだったが、マロゥは『そこを動くな』と言わんばかりの圧力を感じていた。
「ふぅむ……その制服、星降りの杖の方ですか。かの最強の魔術師団がこんな小さな村へどんな御用で?」
「……魔物退治の依頼を受けたんだ」
「ああ成程……学生ですか。研修……もしくはテストみたいなものですかね。ご苦労様です」
老人はマロゥを一瞥し、星降りの杖の学生だと判断した。素性や村へ来た理由を言い当てられたことにも驚いたが、それよりも大きな違和感を覚える。
(この老人……今、俺のことを値踏みしたか……?)
それを証明するかのように、マロゥを学生だと判断した瞬間、ひりついていた空気が嘘のように霧散した。
――侮られたのだ。学生だからと。
いや……それは理解できる。村長であるサイモンもそうだったように、正規の団員と比べ頼りなく見えてしまうのは仕方がない。
――だが、何故警戒していた?
――そもそも、何故殺気に近い圧力を放っていた?
そんな疑問がマロゥの頭を巡っていた。依頼主でもないこの老人が、星降りの杖を警戒する理由……。
考え事をしながら目線を外すと、マロゥの視界の端に見覚えのあるものが写り込む。
「もしかして、あんたがヨアキムか?」
「ええ……そうですが?」
白いローブの老人……ヨアキムの声のトーンがわずかに下がる。それと同時に、一瞬だが空気が冷たくなるような錯覚を覚えた。
「い、いや……その花冠だ。さっきこの村の少女から話を聞いてな」
マロゥは気圧されながらも、祭壇付近に置かれていた花冠を指差す。これは、先刻エルナが持っていたのと同じものだ。
ヨアキムに渡しに行くというエルナの言葉を覚えていたので、簡単に答えに辿り着くことができたのだ。
「ああ……村の者に聞いたのですね」
「まあそんなところだ」
「それで……この老いぼれに何か用事ですかな?」
「いくつか聞きたいことがある」
ヨアキムと出会ったのは偶然だったが、彼はマロゥが村人から居場所を聞いて訪ねてきたと思い込んでいるようだった。
わざわざ訂正するようなことではなかったので、マロゥは本来の目的であるゴブリンの情報収集をすることにした。
「この村を襲うゴブリンについて知っていることはあるか?」
「ゴブリン……ですか。ええ、ええ。もちろん村を襲っていることは存じておりますが……生憎とわたくしは旅の宣教師で、この教会を間借りしている身。あまり多くは知りませんよ?」
「む……そうなのか。まあ、どんな情報でもいい。話してくれないか」
「そうですね……わたくしの知っていることは、『村の北にある森にゴブリンの拠点がある』ということぐらいでしょうか。
村に現れたゴブリンを直接見たわけではありませんので、これぐらいしか情報がなく……お役に立てず申し訳ありません」
「ふむ……それ以外には何か――っ、いや、充分だ。感謝する」
そう言うと、マロゥはマントを翻しながら踵を返した。
(なんだ……急に眩暈が……)
マロゥは頭を押さえながら、早足で教会を出る。
ヨアキムと会話をしている最中、突然脳が揺さぶられるかのような感覚に陥っていたのだ。
ふらふらとした足取りで教会の外へ出ると、さっきまでの不快感が嘘のように消え去っていた。
「なんだったんだあの感覚は……魔術、ではないか……」
何らかの外的要因……一番可能性の高いのは魔術による攻撃だ。しかし、あの場では魔力を一切感じられなかったことから、それはあり得ない。
「偶然の体調不良……か? いや、考えていても仕方がないか」
ヨアキムに対し思うところはあるが、ゴブリンの件とは関係がないだろうと判断したマロゥは、再び情報収集へと戻るのだった。
「よし、まずは情報収集から始めようか。手分けして村の人から話を聞いて回ろう」
「わかったわ」
「フフ……いいだろう」
「じゃあ今から一時間後、村の入り口に集合な。それじゃあいったん解散!」
村長の家から出たマロゥたちは、ゴブリンの情報を集めるため、それぞれ別の方角へと歩き始める。
「ミーナは農場、カイルは物見櫓の方へと向かったか。……ん? あれは……」
マロゥが考え事をしながらしばらく歩いていると、村の外れにある寂れた教会が目に入った。
村の規模に則し、そう大きな教会ではなかったが、それでも民家の倍以上はある。
しかし、石造りの外壁はところどころ崩れて穴が開いており、広範囲に蔦が這っていた。明らかに現在は使われておらず、人などいなさそうな雰囲気だった。
「おお……実に良い。ああいうところにこそ、真実があるものだ」
普通なら人がいるなどとは思わないだろうが、琴線に触れるものがあったようで、教会を見つけるや否や、マロゥは早足で近寄っていく。
「……む?」
マロゥが朽ちた扉の向こう側を覗くと、意外なことに人の姿があった。
祭壇付近に立っていたその人物は、純白のローブのフードを目深に被っているため、顔がはっきりと見えない。だが、体型とシワのある口元から、年老いた男だということが判断できる。
「……おや、ご客人かな?」
その男は教会へと立ち入ったマロゥの存在に気が付き、ゆっくりと近寄ってきた。
それは年相応の緩慢な動きだったが、マロゥは『そこを動くな』と言わんばかりの圧力を感じていた。
「ふぅむ……その制服、星降りの杖の方ですか。かの最強の魔術師団がこんな小さな村へどんな御用で?」
「……魔物退治の依頼を受けたんだ」
「ああ成程……学生ですか。研修……もしくはテストみたいなものですかね。ご苦労様です」
老人はマロゥを一瞥し、星降りの杖の学生だと判断した。素性や村へ来た理由を言い当てられたことにも驚いたが、それよりも大きな違和感を覚える。
(この老人……今、俺のことを値踏みしたか……?)
それを証明するかのように、マロゥを学生だと判断した瞬間、ひりついていた空気が嘘のように霧散した。
――侮られたのだ。学生だからと。
いや……それは理解できる。村長であるサイモンもそうだったように、正規の団員と比べ頼りなく見えてしまうのは仕方がない。
――だが、何故警戒していた?
――そもそも、何故殺気に近い圧力を放っていた?
そんな疑問がマロゥの頭を巡っていた。依頼主でもないこの老人が、星降りの杖を警戒する理由……。
考え事をしながら目線を外すと、マロゥの視界の端に見覚えのあるものが写り込む。
「もしかして、あんたがヨアキムか?」
「ええ……そうですが?」
白いローブの老人……ヨアキムの声のトーンがわずかに下がる。それと同時に、一瞬だが空気が冷たくなるような錯覚を覚えた。
「い、いや……その花冠だ。さっきこの村の少女から話を聞いてな」
マロゥは気圧されながらも、祭壇付近に置かれていた花冠を指差す。これは、先刻エルナが持っていたのと同じものだ。
ヨアキムに渡しに行くというエルナの言葉を覚えていたので、簡単に答えに辿り着くことができたのだ。
「ああ……村の者に聞いたのですね」
「まあそんなところだ」
「それで……この老いぼれに何か用事ですかな?」
「いくつか聞きたいことがある」
ヨアキムと出会ったのは偶然だったが、彼はマロゥが村人から居場所を聞いて訪ねてきたと思い込んでいるようだった。
わざわざ訂正するようなことではなかったので、マロゥは本来の目的であるゴブリンの情報収集をすることにした。
「この村を襲うゴブリンについて知っていることはあるか?」
「ゴブリン……ですか。ええ、ええ。もちろん村を襲っていることは存じておりますが……生憎とわたくしは旅の宣教師で、この教会を間借りしている身。あまり多くは知りませんよ?」
「む……そうなのか。まあ、どんな情報でもいい。話してくれないか」
「そうですね……わたくしの知っていることは、『村の北にある森にゴブリンの拠点がある』ということぐらいでしょうか。
村に現れたゴブリンを直接見たわけではありませんので、これぐらいしか情報がなく……お役に立てず申し訳ありません」
「ふむ……それ以外には何か――っ、いや、充分だ。感謝する」
そう言うと、マロゥはマントを翻しながら踵を返した。
(なんだ……急に眩暈が……)
マロゥは頭を押さえながら、早足で教会を出る。
ヨアキムと会話をしている最中、突然脳が揺さぶられるかのような感覚に陥っていたのだ。
ふらふらとした足取りで教会の外へ出ると、さっきまでの不快感が嘘のように消え去っていた。
「なんだったんだあの感覚は……魔術、ではないか……」
何らかの外的要因……一番可能性の高いのは魔術による攻撃だ。しかし、あの場では魔力を一切感じられなかったことから、それはあり得ない。
「偶然の体調不良……か? いや、考えていても仕方がないか」
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