千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

21.受け止める器用貧乏

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 ――受け止めるしかないか。

 攻撃を止める手段はいくらでもあるが、一番被害がなく、穏便に済む方法はこれだろう。
 そう判断し、俺は魔法を使用する。

 【魔法合成】で、筋力を増強する【支援魔法】のストレングスアップと、同じくストレングスアップを合成。これで通常の倍の効果がある支援魔法ができる……そうだな、仮にダブルストレングスとでも名付けよう。
 そして、この合成魔法であるダブルストレングスを【多重詠唱】で三つ同時発動する。

 本来なら支援魔法を重ねがしても、効果時間が延長されるだけで、ステータスアップの加算はされない。だが裏技として【多重詠唱】スキルによる同時発動ならば、その効果を重複させることが可能だ。

 その結果――

「ほっ」

 俺は、振り降ろされる金棒を、その途上で難なく受け止める。
 それも、片手でだ。
 
「ずいぶんと優しいな、手加減してくれているのか?」
「なっ!? このぉ……!」

 ブッチャルは金棒を受け止められたことに驚愕していたが、すぐに片手から両手に持ち替え、体重をかけながら更なる力を込めてくる。
 なるほど、素早い判断だ。二つ名で呼ばれてるのは伊達じゃないってことか。

 だが、力量差を計れないようではまだまだだな。

「ふぬぅぉぉぉっ!」

 ブッチャルは顔を真っ赤にしながら力を込めるが、金棒はピクリとも動かない。
 それも当然だ。合成した支援魔法の三重がけの効力によって、今の俺の筋力は十倍近く上昇している。元々の筋力差がどれだけあろうとも、簡単にひっくり返してしまうだろう。

「まあまあ、落ち着けよ。『豪腕』のブッチャルさん?」
「くっ……! この野郎……!!」

 俺が金棒を受け止めてから二十秒あまりが経過したのだが、落ち着くようになだめているにも関わらず、ブッチャルは一向に力を緩めようとしない。力の差は歴然としているはずなのに、どこまでも食い下がってくる。

 ……しかしまいったな、俺の【支援魔法】はスキルレベルが低いから、効果は一分間しかもたない。奴が諦めるまで支援魔法を上書きし続けるのも魔力がもったいないしなぁ……。

 このまま引く気がないのならば、少しばかり痛い目に遭ってもらう必要があるかもな。

 そう思いながら、支援魔法の効果が切れるまで残り半分。効果が残っているうちに俺が実力行使に出ようとした、その瞬間だった。

「そこまでだッ!」

 俺とブッチャルの間に、長髪の男が割って入る。
 その両手には剣が握られており、その切っ先を俺たちの喉元へと突き立てる。

「っ、あんたは……!」
「やあブッチャル。次に問題を起こしたらどうなるか……言っておいたはずだよね?」
「……わかった、わかったよ」

 ブッチャルは剣を向けられ怖じ気づいたか、それとも突然現れた男の言葉に思うところがあったのか。そのどちらかはわからないが、ようやく金棒に込められた力を抜いた。

「幸い、人的被害がないようだから警告だけにしておくけど、冒険者として節度ある行動を心がけるようにしてくれたまえ。……ああ、もちろん壊した机は弁償してもらうからね、ブッチャル」

 そう言われると、ブッチャルは返事をせずに、舌打ちだけして去っていった。
 それと同時に、長髪の男が俺に向けていた剣も下げられる。

「手荒な真似をしてすまないね。キミから殺気が漏れていたものだから、つい剣を向けてしまったよ」
「……いや、問題ない」

 本気で俺を害するつもりだったのならば、身を守るため咄嗟に反撃してしまっていただろう。しかし、彼の剣からは殺気を感じなかったので、俺は様子見に徹することができた。

 ……それにしてもこの男、かなりの手練れだな。確かに俺は反撃に転じようとしていたが、あの時点では指一本動かしていなかったはずだ。なのに俺の攻撃の予兆を読み取っていたとすると……俺の【直感】と同系統のスキルを所持しているのかもしれない。

「それはよかった。……ええと、キミは……僕の記憶が確かなら、初めて見る顔だね?」
「ああ、冒険者登録するために、今日初めてここへ来た」
「おやおや、新人さんなんだね! ようこそ、冒険者ギルドアムダルシア支部へ! ボクはここのギルドマスター、エヴァン・アダムスだ」

 長い髪を大袈裟にかきあげてからマントを翻し、その場で一回転するという無駄にキザったらしい動きをしながら、エヴァンと名乗った男は自身をギルドマスターだと言った。

 ……いや、この男がここのギルドマスターなのか?
 まだ二十代半ばぐらいの若さと、無駄に長い金色の髪、真っ赤なマントと、無駄に華美な服装のこの男が?
 言動もなんかおかしいし、もっとふさわしい人物に任せなくていいのだろうか。
 
「勇気ある若者は大歓迎さ、よろしくね」
「ユーリだ、よろしく頼む」

 ギルドマスターが握手を求めてきたので、俺はそれに応じて手を握る。

 む。こいつの手……これは剣士の手だ。それも並大抵のレベルではない。
 優男のような外見に反して、手のひらは固くごつごつとしている。手の皮が擦りきれるほど剣を振って、それでもまた振って……それを相当数繰り返し行わなければ、こうはならない。

 なるほど、ギルドマスターに求められる条件ってのは、威厳や経営手腕ではなく、戦力だということか。
 さっきみたいな荒事も多そうだし、この見るからに軽薄で頭が悪そうな男がギルドマスターをやっているのも納得だ。

「ふむ……キミ、何か失礼なことを考えてないかい?」
「……まさか」
「そうか、ならいいんだ」

 ギルドマスターはどこか腑に落ちないような表情だったが、追及をしてくることはなかった。

「……さ、この件はこれでおしまいだ! ほらほら冒険者諸君、いつまでもぼーっとしてるんじゃないよ。依頼は早い者勝ちだ、出遅れてしまうぞ?」

 俺との握手を終えたギルドマスターは、こちらに好奇の目を向けていた観衆たちを散らせていく。
 すると、静かだったギルド内は、瞬く間に喧騒を取り戻すのだった。
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