千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

20.冒険者ギルドへ赴く器用貧乏

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「ここが冒険者ギルドか……大きいな」

 パグラムに場所を聞いてから宿を出るべきだったと後悔したが、冒険者ギルドは案外すぐに見つけることができた。
 というのも、道行く人に尋ねたら「この地区で一番大きな建物がそうだよ」と、ざっくりした返答だったのだが、そういう説明になるのも納得だ。

 冒険者ギルドの外観は、そりゃもうとにかくでかい。さすがに王城に並ぶほどではないが、それを除けば王都の中で一番大きい建造物と言って差し支えないだろう。
 幼いころに俺が住んでいたグランマード家の屋敷が何個も入りそうなほどだ。

 そして、その巨大な建物だけではなく、広大な敷地も所有しているようだ。塀で覆われた先には、この大きな建物以外にもいくつもの施設があるように見受けられる。

「――っと、ここで突っ立ってても仕方がない。さっさと入るか」

 グランマード領ってやっぱり田舎だったんだなと思いながらも、俺は常時解放されているであろう、開きっぱなしの大扉の前へと立った。
 常に人が出入りしていたので、その人の流れに乗りながら扉を抜けると、ギルドの中は大勢の人間でごった返していた。
 
「うわぁ……」

 正直、人混みは苦手なのですぐさま引き返そうかと思ったぐらいだ。というか、冒険者の人口ってこんなに多かったのか。そりゃあ建物がこの大きさになるのも納得だ。

 さてどうしたものかと周囲を見回すと、奥のほうにやたらと空いている受付があるのが目に入る。

「お、とりあえずあそこへ行ってみるか」

 俺は空いている受付へと一直線に移動し、受付嬢へと声をかける。

「すまない、少し聞きたいんだが……」
「……はい、なんですか?」

 眼鏡をかけた理知的な雰囲気の受付嬢は、表情を変えずにどこか冷めた目でじっと俺の顔を見つめていた。
 ……もしかして怒ってるのか?

「あ、いや……冒険者登録をしたいんだが、受付はここでいいのか?」
「……ああ、初利用の方ですか。それでしたら向かって右奥にある受付にて、新規登録を受け付けております」

 何か失礼なことをしたのかと思い、俺は恐る恐る用件を告げる。すると、何故だか受付嬢の張りつめた雰囲気が少しやわらいだ気がした。
 うーん、謎だ。暇そうに見えたから声をかけたのたが、実はものすごい忙しかったのか?

「ありがとう」

 とりあえず登録の受付がここではないことがわかったので、指示された受付へと向かおうと後ろを振り向いたその瞬間、バキィッと何かが割れるような大きな音が響いた。

「おいおいおい……なぁーに勝手に俺のシルファさんに声かけてるんだよ。死にてぇのか、あぁ!?」

 音の正体は、木製の机が真っ二つに割れる音だった。
 なにやら激しい剣幕でまくしたてるスキンヘッドの巨漢が、俺の胴体ぐらいはある太い金棒を机に叩き付けたようだ。

 なんだ、喧嘩か?
 誰がどこで喧嘩しようと知ったことじゃないが、俺の近くでやらないでほしいな。反射的に反撃してしまうかもしれないだろうが。

 ……巻き込まれるとやっかいだ。ここはさっさと目的の受付に行くとしよう。

「おい! 無視してんじゃねぇぞ!!」

 無視して向こう側の受付へと向かおうとすると、さっきの巨漢が俺の進路を塞いできた。なんだこいつ、邪魔だな……。

 最初の破砕音とこの男のやたらでかい声のせいで、騒ぎに気が付いた周囲の人々が、好奇心からこちらに視線を送っているのを感じる。

「テメェ、聞いてんのかよ!」

 瞬間、【直感】スキルが働いた。俺の頭へと伸ばされた手を、一歩下がることで回避する。

 ……ん? これって俺を狙ったのか?

「このガキが、おとなしくしやがれ!」

 伸ばした腕が空を切ったことに腹を立てたのか、スキンヘッドに青筋が浮き出ていた。この反応を見るに、もしかしなくても喧嘩を売られていたのは俺だったようだ。

 ……いや、なんでだ?
 こいつの気に障るようなことしたっけか?

「……なんだよあんた。俺に用事か?」
「テメェ……! このCランク冒険者、豪腕のブッチャル様を知らねぇとは言わせねぇぞ!」
「いや、知らないんだが……」

 なにやら『豪腕』などと大層な二つ名が付いているようだが、どんな人物だろうと俺が知っているわけがない。なんせ俺は人生の大半を森の中で過ごした身だからな。
 ついでに言うと昨日王都に着いたばかりで、冒険者ギルドに立ち寄るのは今日が初めてだ。

「コイツ、この俺をバカにたな……!?」

 怒り心頭で茹でダコみたいに真っ赤になったその頭があまりに滑稽だったからか、ふと周囲からくすくすとした笑いが起こっている。

 いや、俺が知らないふりをしていると思ってるのかもしれないが……マジで知らないからな?

「あの! ブッチャルさん、やめてください。彼はこれから冒険者登録する新人なんです、ここがBランク以上の冒険者専用の受付だと知らなかっただけなのよ!」

 さっきの眼鏡をかけた受付嬢さんが、机越しに豪腕さんへと制止を呼びかけた。

 ……なるほどな、彼女の言葉を聞いて納得した。彼女がいた受付が空いていたのはそういう理由だったのか。最初に怪訝そうだったのは、ルールを守らない奴だと思われていたのかもしれないな。
 
「……いいや、いくらシルファさんが庇おうとも、このガキだけはもう許さねぇ。なあに、先輩としてちょっとばかり後輩へ指導してやるだけだよ。礼儀ってやつをな!」

 豪腕さんは、机を叩き割った金棒を片手で持ち上げ、そのまま大きく振りかぶった。

 おお、自分で豪腕と名乗るだけあってかなりの筋力だな。あの大きさの金棒を片手で扱える人間はそうそういないだろう。

「死なない程度に骨を砕いてやるよぉ! 泣いて後悔しな!」

 渾身の力で金棒を振り下ろすべく、ブッチャルの筋肉が膨れ上がる。
 その凶暴な様相に、観衆から小さな悲鳴がいくつか上がった。

 この金棒による打撃を、生身の人間がまともに受けようものなら、骨折は免れない。それどころか、当たり所が悪ければ死ぬだろう。

 確かにものすごい力ではある。素の状態での単純な力比べなら、間違いなく俺よりも上だろう。『豪腕』なんて二つ名で呼ばれるのも納得だ。

 ――だが、

 奴が力一杯振り下ろした金棒の速度はたいしたことはない。師匠のゴーレムの攻撃に比べたら、児戯に等しい。

 【先見】スキルによってどこに振り下ろされるのかが予め予測でき、【見切り】スキルによってその軌道はコマ送りに見える。

 こんな見え見えの攻撃なんて余裕をもって避けられる。
 だが、俺が避けてしまうと、金棒は床と衝突してしまう。あの重量の金棒が叩き付けられたのなら、ギルド内の板張りの床なんて簡単に穴が空いてしまうだろう。

 すべてが俺の責任ではないと思うが、受付を間違えてしまったのも事実だ。
 まだ冒険者登録もしてない若造がいきなり迷惑をかけようものなら、ギルド職員からの印象は最悪だろう。これから冒険者登録をしようと言うのだから、それは避けたい。

 となると、ここは――
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