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第三章 調査任務
EX3.魔人①
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「ガリオット隊長、報告します。道中、一体のロックリザードと遭遇、これを撃破しました!」
「こちらは一体の飛竜と遭遇しましたが……申し訳ございません、警戒心が強く、接近する前に飛び去ってしまいました」
作戦行動を開始してからおよそ二時間。先行させていた二人の部下が、黒牙騎士団第四部隊隊長であるこの俺、ガリオット・セイリアンのもとへと戻ってきた。
我先にと報告を上げた一人は誇らしげな顔をし、後に報告したもう一人は少々顔を曇らせている。
「そうか」
飛竜を取り逃がしたと述べた部下は、俺の言葉に棘を感じたのか、びくっと小さく肩を弾ませた。魔物を討伐できなかったことを叱責されのを恐れているのだろう。
確かに俺は不機嫌だ。だが、それは今に始まったことではない。この調査任務に俺の部隊が宛がわれたときから、徐々に不満が募っていた。
栄えある黒牙騎士団の一部隊が、たかだか調査のために駆り出されたことが不満で仕方がない。
剣の道を突き進み、早三十年。次期剣聖とまで謳われているこの俺が、何故使い走りのような真似をしなくてはならないのだ。
それだけではなく、よりにもよって白翼騎士団や冒険者の連中との合同任務という、ふざけた人選にも腹が立つ。
これでは、俺の部隊だけでは実力が不足していると言われているようなものだ。王命による任務だとはいえ、そう簡単に納得できるものではない。
だから俺は、その評価を改めさせるために作戦を考えた。
調査任務ということは、要は対象区域を隅々まで踏破すればそれで済む。なので、部下を一名ずつ扇状に散開させ、探索範囲を拡大しつつ、各々強行突破させる作戦を実行したのだ。
何か異変があったら俺のところへ報告する手筈なのだが、上がる報告はどれもこれもザコの魔物を討伐しただの、取り逃がしただの、どうでもいいことばかりだった。
「……む? そういえば、一度も報告に戻っていない隊員が何名かいるな。貴様ら、何か知っているか?」
ザコの討伐を嬉々として報告する部下が多数いるなか、ただの一度も戻らない部下が三名ほどいる。ふと、その点が気になった。
「い、いえ……自分たちは何も……なあ?」
「ええ、知りませんね……」
二名の部下はお互いに顔を見合わせて、軽く首をかしげている。まったく関知していないといった面持ちだ。
まあ、かなり距離を開けて散開させているし、知るよしもない……か。
「ふむ……」
考えられる可能性は三つ。
ひとつは雑魚を討伐した報告なんて必要としていないことを『解っている』できた部下だった場合。
そしてもうひとつは、魔物との遭遇もなければ、一切の異変もなかった場合。
最後のひとつは……部下ひとりでは対処できない『大物』が出てきていた場合だ。この場合、部下は身動きが取れずにいるか、最悪死んでいるかもな。
「火竜とでも出くわしたか……?」
俺が最も現実味があると考えたのは、最後に挙げた例だ。……いや、そうであってほしいという願望も多分に含まれている。
危険度Aランクである火竜の首を持って帰れば、間違いなく俺の評価は上がるだろう。そうなればこの退屈な任務にも価値が出てくるというものだ。
部下の報告に上がるのは、ロックリザードや飛竜など、DからCランク程度の魔物だ。やたらと竜種の魔物が多いのは、ここら一帯は竜種にとって住み心地がいいからなのだろう。
なればこそ、火竜が存在する可能性も上がるというものだ。きっとこの地域の異変とやらも、火竜が移り住んできたことによる影響に違いない。
「ふ……ふふ……いいぞいいぞ。楽しくなってきたじゃないか」
火竜の討伐は骨が折れるだろうが、俺ならば倒せない相手ではない。
昂る気持ちを自制するために、俯きながら腰に携えた剣の柄を、そっと撫でるようになぞる。
「よし、大型竜との遭遇を想定して隊列を組む。俺についてこい」
俺は、先ほど戻ってきた部下へ指示を飛ばしながら、顔を上げた。
いつもなら即座に返事をするはずの部下からの声はなく、それどころか、姿かたちもない。
――――ただ、そのかわりに『夜』がそこにあった。
「なっ……!?」
黒く、暗く、深く……太陽の光すら飲み込むほどの『夜』……そうとしか形容できない暗闇が、視界を埋め尽くすように広がっていた。
「――っ!!」
明らかな異常事態に思考が停止してしまう。
瞬時にに距離を取るべき場面だったが、行動が一拍遅れてしまい、気付いたときには上下左右どこを見渡しても、黒、黒、黒……。
どうやら、抵抗虚しく暗闇に呑まれてしまったようだ。
「こちらは一体の飛竜と遭遇しましたが……申し訳ございません、警戒心が強く、接近する前に飛び去ってしまいました」
作戦行動を開始してからおよそ二時間。先行させていた二人の部下が、黒牙騎士団第四部隊隊長であるこの俺、ガリオット・セイリアンのもとへと戻ってきた。
我先にと報告を上げた一人は誇らしげな顔をし、後に報告したもう一人は少々顔を曇らせている。
「そうか」
飛竜を取り逃がしたと述べた部下は、俺の言葉に棘を感じたのか、びくっと小さく肩を弾ませた。魔物を討伐できなかったことを叱責されのを恐れているのだろう。
確かに俺は不機嫌だ。だが、それは今に始まったことではない。この調査任務に俺の部隊が宛がわれたときから、徐々に不満が募っていた。
栄えある黒牙騎士団の一部隊が、たかだか調査のために駆り出されたことが不満で仕方がない。
剣の道を突き進み、早三十年。次期剣聖とまで謳われているこの俺が、何故使い走りのような真似をしなくてはならないのだ。
それだけではなく、よりにもよって白翼騎士団や冒険者の連中との合同任務という、ふざけた人選にも腹が立つ。
これでは、俺の部隊だけでは実力が不足していると言われているようなものだ。王命による任務だとはいえ、そう簡単に納得できるものではない。
だから俺は、その評価を改めさせるために作戦を考えた。
調査任務ということは、要は対象区域を隅々まで踏破すればそれで済む。なので、部下を一名ずつ扇状に散開させ、探索範囲を拡大しつつ、各々強行突破させる作戦を実行したのだ。
何か異変があったら俺のところへ報告する手筈なのだが、上がる報告はどれもこれもザコの魔物を討伐しただの、取り逃がしただの、どうでもいいことばかりだった。
「……む? そういえば、一度も報告に戻っていない隊員が何名かいるな。貴様ら、何か知っているか?」
ザコの討伐を嬉々として報告する部下が多数いるなか、ただの一度も戻らない部下が三名ほどいる。ふと、その点が気になった。
「い、いえ……自分たちは何も……なあ?」
「ええ、知りませんね……」
二名の部下はお互いに顔を見合わせて、軽く首をかしげている。まったく関知していないといった面持ちだ。
まあ、かなり距離を開けて散開させているし、知るよしもない……か。
「ふむ……」
考えられる可能性は三つ。
ひとつは雑魚を討伐した報告なんて必要としていないことを『解っている』できた部下だった場合。
そしてもうひとつは、魔物との遭遇もなければ、一切の異変もなかった場合。
最後のひとつは……部下ひとりでは対処できない『大物』が出てきていた場合だ。この場合、部下は身動きが取れずにいるか、最悪死んでいるかもな。
「火竜とでも出くわしたか……?」
俺が最も現実味があると考えたのは、最後に挙げた例だ。……いや、そうであってほしいという願望も多分に含まれている。
危険度Aランクである火竜の首を持って帰れば、間違いなく俺の評価は上がるだろう。そうなればこの退屈な任務にも価値が出てくるというものだ。
部下の報告に上がるのは、ロックリザードや飛竜など、DからCランク程度の魔物だ。やたらと竜種の魔物が多いのは、ここら一帯は竜種にとって住み心地がいいからなのだろう。
なればこそ、火竜が存在する可能性も上がるというものだ。きっとこの地域の異変とやらも、火竜が移り住んできたことによる影響に違いない。
「ふ……ふふ……いいぞいいぞ。楽しくなってきたじゃないか」
火竜の討伐は骨が折れるだろうが、俺ならば倒せない相手ではない。
昂る気持ちを自制するために、俯きながら腰に携えた剣の柄を、そっと撫でるようになぞる。
「よし、大型竜との遭遇を想定して隊列を組む。俺についてこい」
俺は、先ほど戻ってきた部下へ指示を飛ばしながら、顔を上げた。
いつもなら即座に返事をするはずの部下からの声はなく、それどころか、姿かたちもない。
――――ただ、そのかわりに『夜』がそこにあった。
「なっ……!?」
黒く、暗く、深く……太陽の光すら飲み込むほどの『夜』……そうとしか形容できない暗闇が、視界を埋め尽くすように広がっていた。
「――っ!!」
明らかな異常事態に思考が停止してしまう。
瞬時にに距離を取るべき場面だったが、行動が一拍遅れてしまい、気付いたときには上下左右どこを見渡しても、黒、黒、黒……。
どうやら、抵抗虚しく暗闇に呑まれてしまったようだ。
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