千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

32.飛竜を狩る器用貧乏

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「「「ギュィィィィッ!」」」

 残る三体の飛竜ワイバーンは周囲の異変を感じ取り、すぐさま上昇を始めた。そして、一目散にこの場を去ろうとする。
 同胞をやられた怒りでこちらに向かってくるならば、いくらでも対処できただろう。だが、空を飛ぶ相手が逃げに徹した場合、倒すことは非常に困難だ。
 
 竜種の魔物は知能が高い。ここで取り逃がすと、報復のために他の人間を襲いかねない。それを察した白翼騎士団の面々は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

「逃がすかよっ!」

 装填を終えていたおっさんが、第二射を放つ。
 だが、命中したのは翼の部分だった。無情にも杭は飛竜の翼膜を突き抜け、刻まれた爆発の魔法は、誰もいない中空で発生してしまう。

 しかし、幸か不幸か、翼膜をやられた飛竜はバランスを崩し、緩やかに高度を落とし始めてい、る。
 アニエスはその落下する飛竜へと、すかさず迫った。体勢を立て直す前に狩る算段だろう。あの飛竜は彼女に任せておけば問題ない。

 残るは二匹。だが、おっさん以外の団員は遠距離攻撃の手段を持たないようで、悔しそうに飛竜を見上げている。しかしそのおっさんもさっき射撃をしたばかりで、次弾を装填するのを待っていたら飛竜に逃げられてしまうだろう。

 で、あれば――

「おっさん。残り二匹、俺がもらうぜ」
「な……おい、ユーリ――」

 俺はおっさんの返事を待たずに走り出した。ぐずぐずしていたら飛竜に逃げられてしまうからだ。トップスピードに乗った飛竜を追うのは骨だが、上昇を始めたばかりの今なら余裕で追い付ける。

「【多重詠唱】、チェーンバインド×3」

 【縮地】スキルで瞬時に飛竜の近くまで到達した俺は、【土魔法】のチェーンバインドを【多重詠唱】【詠唱破棄】によって、瞬時に三度発動する。
 地面に出現した三つの魔方陣から、幾本もの鉄の鎖が二匹の飛竜目掛けて伸び、身体全体に絡みつく。

「「ギィィィッ!」」

 鎖は生き物のように蠢き、数秒もしないうちに飛竜たちの自由を奪った。脱出しようと懸命に翼を動かそうとする飛竜だったが、わずかに鎖が軋むだけで、チェーンバインドから抜け出すことができないでいる。

「詰みだ」

 竜種とはいえ、飛竜は飛行に特化しているため、体重は軽く、筋肉量も多くない。膂力だけで言えば、Dランクのオークにすら及ばないレベルだ。
 飛竜の最大の強みは、高速飛行による一撃離脱戦法にある。だから、飛行という最大の強みさえ奪ってしまえば、もはやただのでかいトカゲに過ぎないのだ。拘束が成功した時点で、こちらの勝ちは確定したも同然。

 俺はチェーンバインドで発生した鎖を、可能な限りの数を纏めて両手で掴んだ。そしてそれを、思いっきり自分の方向へと引き寄せる。

 翼を縛られ逆らう術のない飛竜は、俺に引かれるがままにこちら側へと落下し、それを確認した俺は鎖から手を離し、剣を抜いた。

「――瞬閃しゅんせん

 飛竜とのすれ違いざま、俺は以前見た剣技を模倣した。
 刹那のうちに繰り出した二つの剣閃は、飛竜の首を的確に捉え、両断する。

 ザザザザッと、生気が失せた飛竜の身体は土埃を上げながら俺の後方へと転がっていき、その数瞬後には、二つの首がぼとりと俺の両脇付近に落ちた。

「ギリギリ及第点……ってところか」

 とどめに使った技、『瞬閃』。
 冒険者ギルドのギルドマスター、エヴァンが多用していた技を試しに使ってみたのだが、完璧には程遠かった。点数を付けるのならば、甘く見積もって六十点ってとこだろう。

 二度の斬撃の間にコンマ数秒の遅延がある。それに、技を出すまでに若干の溜めがあった。動けない飛竜が相手だったから成立したものの、実戦においては致命的な隙になるだろう。
 ……うーん、やはりぶっつけ本場だとこんなものか。完璧に使いこなすには要練習だな。

 と、そんな思案に耽っていると、いくつもの足音がこちらへ向かってきている。どうやら白翼騎士団のみんなが俺の元へと集まってきているようだ。

「おいおい、こりゃあ……もしかしなくても、坊主がやったん……だよな?」
「なんだ、見てなかったのか?」

 いち早く辿り着いたおっさんが口を開く。何やら信じられないものでも見たような表情だ。
 ……ははーん、さては自分は一体しか飛竜を倒していないのに、俺に二体もやられて悔しがっているな? だから信じたくないんだろう。

「残念だったなおっさん。間違いなくこの飛竜は俺が狩った。二対一で俺の勝ちだ」
「いや勝ちとかそういうことじゃなくてだな……お前さん、偵察職じゃなかったのか?」
「ん……? いつ俺がそんなことを言った?」
「いや、あの索敵技術を目の当たりにしたら誰だってそう思うだろ……、いやしかしあの剣技に魔法、偵察職にしてはあまりにも……」

 失礼な、俺は剣士を自負しているんだぞ。まあ器用貧乏なもんで、大概のことはできるけどな。

「ユーリ……!」

 ここで三体目の飛竜を処理したアニエスが合流する。アニエスもおっさん同様、信じられないもを見たような表情を浮かべている。

「おおアニエス、何かすごい動きだったな。あれってどうやっているんだ?」
「そんなことよりも、先に私の質問に答えてください、ユーリ」
「あ、アニエス。落ち着けって……」

 俺の質問をスルーしたアニエスは、密着しそうなぐらいの勢いで俺へと詰め寄ってくる。
 師匠との生活があったので女性には慣れているつもりだったが、同年代の少女ともなると何かが違うのか、頬に少しばかり熱を帯びるのを感じる。

「ユーリ……あなたは何者なんですか……? 魔法を使いましたよね? それに最後の剣技は見覚えがあります。それに、偵察の技術だって……!」
「いや何者って言われてもな。言ったろ? 冒険者の卵だって」
「…………そう、ですか。何か深い事情があるのですね。わかりました、もう無理に追求したりはしません」

 アニエスは何かを察したかのように突然冷静さを取り戻し、俺から離れていった。
 何やら神妙な面持ちをしているが、とんだ勘違いだ。別に俺は事情があって話をはぐらかしているわけじゃない。

 言葉の通り、冒険者資格を得る前のひよっこに過ぎないのだ。過去の経歴だって誇れるようなものは何もない。
 誤解を解くのに懇切丁寧に説明するのも手間だし、ここは話題を変えるとしよう。

「それよりも、飛竜の警戒心が想像以上に高まっていたな。奇襲をかけたにも関わらず、逃げられるところだったぞ」
「――確かにそうですね。まるで、何かに怯えてたかのような……」

 俺の言葉に思うところがあったのだろう。アニエスは右手を軽く顎にあて、少し俯きながら深く思考しているようだ。
 アニエスの気を逸らすために咄嗟に出した話題だったが、俺としても飛竜の行動には違和感があった。

 そもそも、飛竜とはあまり群れない魔物なのだ。群れたとしても、せいぜいつがいとその子供の、計三、四体程度が限度だろう。
 しかし、さっきの飛竜はどの個体も成熟していたことから、親と子の関係性ではないだろうと予想がつく。
 飛竜の成体が七体……偶然だと言えばそこまでだが、俺の胸中にはもやっとした感覚が残っている。何か大事なことを見逃しているかのような、そんな感覚が……。
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