千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

31.感心する器用貧乏

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「では、ここでいったん機を窺いましょう」

 俺たちはアニエスの号令で動きを止め、息を潜めた。

 俺たちは足音や気配を殺しながら忍び寄り、飛竜ワイバーンの群れに気付かれずに接近することに成功した。

 だが、距離約二十メートルと、奇襲を仕掛けるには少し遠い位置で足を止めている。その理由は、飛竜の群れ全体が忙しなく周囲を警戒していることと、飛竜たちがいる場所が、ちょうど開けた地形になっているから

「さて、ここからどうするよお嬢」
「そうですね……奇襲で可能な限り頭数を減らしておきたいところですね。となると、可能な限り各々別個体へと攻撃を分散させるのが妥当でしょう」

 アニエスとおっさんの話し合いで、各個撃破の流れになったようだ。まあ、その方が範囲魔法とか使わなくていいし、消耗が抑えられるから俺は賛成だな。
 
「ユーリは私たちとの連携は難しいかと思いますので、最後尾から無理のない範囲でサポートをお願いします」
「……ん。ああ、そうだな。わかった」

 おっと……危ない危ない。何も言われなかったら群れのど真ん中に突っ込む気満々だったぞ。
 確かに、アニエスたちの戦術すら知らない俺が好き勝手動いたら邪魔をしかねないな。ここはお言葉に甘えて、初動は後ろから白翼騎士団の戦術を観察させてもらうとするか。

 そう思い、俺はやや前のめりだった重心を元に戻す。

「ではいきましょう……行動開始っ!」

 アニエスの号令と共に、白翼騎士団の面々は一斉に行動開始した。

「速いな」

 後方で観察に徹していた俺の目を引いたのは、アニエスのスピードだ。
 一歩の伸びが凄まじく、にまるで地面を滑るかのようにぐんぐんと加速している。……いや、これは本当に滑っているな。

 速すぎてどういう仕組みなのか理解できないが、アニエスが一度地を蹴ると、その細い身体はまるで空を飛んでいるかの如く、ブレがなく一直線に加速していく。
 そして、瞬く間に一体の飛竜への接近に成功し――

二連旋刃ダブルアクセル

 超スピードへ達したアニエスが跳躍し、目にも止まらぬ速さで身体を捻った。その結果、いつの間にか両の手に握られていた透明な刃が、飛竜の首を輪切りにする。

 独特な軌道から繰り出される高速の連続回転斬りか……それを視界の外から受けた飛竜はたまったものじゃないだろうな。

 着地したアニエスは、そのスピードを維持したまま、次の標的へと移動を始めていた。この調子なら飛竜に存在を認識される前にあと一、二体は狩れるだろう。
 さすが騎士団の隊長を務めるだけあって、かなりの腕前だ。それに、見たこともない独特な戦闘スタイルには良い刺激をもらった。あとで詳しく聞いてみるとしよう。

「――んで、おっさんはなんで動かないんだ?」

 アニエスが活躍する真っ只中、未だに動かずに、目の前で片膝立ちをしているおっさんへと声をかける。

「るっせ。俺の得物はこいつなんだよ」

 そう言ったおっさんが手に持っていたのは、クロスボウ……のような武器だった。
 何故断言できないのかというと、その武器は形状的には完全にクロスボウのそれなのだが、発射するために肝心な弦が備わっていないのだ。

「なるほど、弓兵だったのか。ところでなんだそれ? クロスボウ……じゃないよな」
「へっ、まあ見てなって……!」

 百聞は一見に如かず。その言葉を体現するようにおっさんは武器を構え、最も高所にいた飛竜へと狙いを定める。

魔力弩マギアボウ爆裂弾バーストショット

 おっさんがそう言った次の瞬間、クロスボウもどきから閃光が迸り、装填されていた矢が勢いよく射出された。
 ……いや、よく見るとあれは矢と言うより杭に近い形状だ。それに、杭に刻印が施されているがチラッと見えたが……その内容までは解読できなかった。

 凄まじい速度で真っ直ぐと飛竜へと射出された杭は、飛竜に気付かれることなく、その長い首の付け根へと着弾する。

「ギャォォォォッ!」

 突然の痛みに悲鳴を上げる飛竜。
 だが……浅い。長さ二十センチほどの杭だったが、飛竜の鱗に阻まれたせいか、およそ三分の一程度が突き刺さっているだけだ。
 人間相手だったら致命傷になっただろうが、飛竜の強靭な体躯と生命力が相手では、決定的なダメージには程遠い。

(確かに通常の矢と比べたら威力はあるのだろうが……あの感じだと、あと十本は打ち込まないと倒せないだろうな)

 そう思った瞬間だった。
 攻撃してきた敵を探すため、羽ばたこうとしていた飛竜が、突然小さく爆ぜた。

 いや、爆発したのは飛竜ではなく、杭のようだ。その証拠に、さっき打ち込んだ杭の周囲の肉が大きく抉れ、結果として飛竜の首はほとんど繋がっていない状態だ。間違いなく即死だろう。

 恐るべきなのは、おそらく爆発は飛竜の体内から発生していることだ。でなければ、小規模な爆発程度で飛竜がああまで傷付くはずがない。

「……へえ、やるなおっさん」
「へへっ、どんなもんよ!」
「杭に彫刻されていたのは爆発魔法の術式だな? それと、発射時の閃光は魔力を圧縮した際に発生する現象か……なるほど、それを利用して杭を発射し、同時に刻印に魔力を巡らせることによって術式を起動させたのか」
「お、おお……よくわかったな……」

 おっさんは自慢げに人差し指で鼻の下を擦っていたが、俺の推論を聞くと、何故だかたじろぎはじめた。

 魔力弩……か。よく考えられた武器だ。体内からの攻撃なんて、どんな魔物でも耐えることはできまい。
 問題点を挙げるとすれば、魔術の刻印には相応の労力がかかることだな。一射ごとのコストが高いので、乱発はできないだろう。

「さて……もう一体は仕留めたいところだぜ」

 おっさんが腰に巻いたホルダーから杭を取り出し、魔力弩に装填し始めたころ、アニエスは二体目の飛竜の首を落としていた。
 アニエスを追って飛び出した残りの騎士団員は、二人がかりで一体の飛竜と交戦していて、飛翔を牽制しながら戦っていた。あの調子なら逃がさずに仕留めきれるだろう。

 だが、さっきの爆発や鳴き声のせいだろう。残った三体飛竜たちが警戒心を高め、一斉に羽ばたき始めたのだった。
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