32 / 71
第三章 調査任務
30.索敵する器用貧乏
しおりを挟む
◇
あれからおおよそ一時間かけ、俺たちは全員ぶんの簡易キャンプの設営を完了させた。
周囲に魔物除けの魔道具を配置し、就寝時には即席の結界を張るという二段構えの安全策だ。まあ見張りは必須だが、これなら野外といえど安全性は申し分ないだろう。
そして、見張りのために白翼騎士団の団員をひとり残し、俺たちは先行した黒牙騎士団と冒険者の後を追うように山道を歩いていた。
「それにしても、ユーリは慣れた手つきでしたね。おかげで思ったよりも早く作業が終わりました。もしかして経験があったのですか?」
歩き始めて十分ほど経ったころ、先頭を行くアニエスが、ふと、後ろを歩く俺へと質問を投げかけてきた。
「いや、天幕を張るのは初めてだったよ。……ただまあ、似たようなことならやったことがあったからさ」
師匠のところで色々とやらされたからな。当然、設営作業に適用されるスキルを習得している。
おそらく【大工】スキルか、【クラフト】スキルあたりが効果を発揮したのだろう。
「そうなのですね……こういった雑務に明るいのは素晴らしいことだと思います。必要なことなのに、軽視する人が多いですから」
……耳が痛い話だ。俺の場合、師匠に強制的にやらされたから身に付いただけであって、もし純粋に騎士を目指していたならば、剣以外は疎かになっていたかもしれない。
「――っ、みんな、待ってくれ」
そんな雑談をしているなか、俺は声を張り行軍を制止させる。
その理由は――
「前方八百メートル付近に魔物の気配だ」
ここから目視することはできないが、遠くに見える小さな岩山を越えた先に、複数の魔物の気配を感じ取った。
念のため【千里眼】スキルと【魔力視】スキル、そして【索敵】スキルを併用し、群れの規模を確定させる。
【索敵】スキルは、自分を中心にした一定範囲を俯瞰して見れるようになるスキルだ。それを【千里眼】スキルと併せることで範囲を大幅に拡大……拡大しすぎて遠くなった視界を【魔力視】スキルのフィルターにかけることによって、魔力を保有する生物のみが光って見えるようになる。
平たく言えば、敵性生物が光点で見える地図が頭に浮かぶ感じだ。対象がある程度の巨体であれば、なんとなくのシルエットも見ることができる。
「六……いや、七体の魔物の群れだ。形状と魔力量からみて、おそらく飛竜だろう。
今は羽を休めているようだが……空を飛ばれると厄介だが、気付かれる前に奇襲をかければ問題ないだろう。迂回すればやり過ごすことも可能だが……みんな、どうする?」
「「「…………」」」
ん? みんな急に足を止めて黙ってしまったぞ。
確かに空を飛ぶ相手は厄介だが、騎士団が臆するような相手じゃないだろうに。
「……どうしたんだ?」
「いや、どうしたってお前さん……」
俺の隣にいたおっさんが驚きの表情でこちらを見ている。
今話した情報に何か誤りがあったのだろうか。確かに魔物の種類に関しては推測だが、十中八九飛竜だと思うのだが……。
「フライオニールス、この部隊で一番索敵技術の高いのはあなたです。ユーリの言うことは本当なのですか……?」
「いや……確かめようにも、俺じゃあこの距離の、しかも山の向こうにいる魔物を探知するのは無理だぜ……」
「で、ですよね……」
二人は何やら呆気にとられているようだ。
たかだか一キロメートル圏内の魔物の存在を言い当てたぐらいで大袈裟だな。俺のスキルレベルでそれだけできるんだから、索敵を本職にしている人に比べたらたいしたことないだろうに。
「それで、どうするんだ?」
俺は、ぼーっとしているアニエスに向け、もう一度問う。
「ええと……そ、そうですね。こんな麓付近に飛竜がいるのだとしたら、見過ごすことはできませんね。飛竜の危険度はCランク……それが七体となると、偵察が主な目的とはいえ、騎士団として野放しにすることはできません」
アニエスからの返答は、飛竜の討伐の決行。
確かに放置するのは危険だろう。王都から馬車で半日程度の場所に飛竜がいるのは見過ごせない。飛竜の移動速度なら、一、二時間もあれば王都まで辿り着いてしまうからだ。
通常、もっと標高が高く、山の深い場所に生息する魔物のはずだ。それが麓近くまで降りてきているということは、やはり何らかの異変が起きている、ということなのだろう。
「なら、奇襲だな」
こうして、俺たちは飛竜の群れへと忍び寄ることとなった。
あれからおおよそ一時間かけ、俺たちは全員ぶんの簡易キャンプの設営を完了させた。
周囲に魔物除けの魔道具を配置し、就寝時には即席の結界を張るという二段構えの安全策だ。まあ見張りは必須だが、これなら野外といえど安全性は申し分ないだろう。
そして、見張りのために白翼騎士団の団員をひとり残し、俺たちは先行した黒牙騎士団と冒険者の後を追うように山道を歩いていた。
「それにしても、ユーリは慣れた手つきでしたね。おかげで思ったよりも早く作業が終わりました。もしかして経験があったのですか?」
歩き始めて十分ほど経ったころ、先頭を行くアニエスが、ふと、後ろを歩く俺へと質問を投げかけてきた。
「いや、天幕を張るのは初めてだったよ。……ただまあ、似たようなことならやったことがあったからさ」
師匠のところで色々とやらされたからな。当然、設営作業に適用されるスキルを習得している。
おそらく【大工】スキルか、【クラフト】スキルあたりが効果を発揮したのだろう。
「そうなのですね……こういった雑務に明るいのは素晴らしいことだと思います。必要なことなのに、軽視する人が多いですから」
……耳が痛い話だ。俺の場合、師匠に強制的にやらされたから身に付いただけであって、もし純粋に騎士を目指していたならば、剣以外は疎かになっていたかもしれない。
「――っ、みんな、待ってくれ」
そんな雑談をしているなか、俺は声を張り行軍を制止させる。
その理由は――
「前方八百メートル付近に魔物の気配だ」
ここから目視することはできないが、遠くに見える小さな岩山を越えた先に、複数の魔物の気配を感じ取った。
念のため【千里眼】スキルと【魔力視】スキル、そして【索敵】スキルを併用し、群れの規模を確定させる。
【索敵】スキルは、自分を中心にした一定範囲を俯瞰して見れるようになるスキルだ。それを【千里眼】スキルと併せることで範囲を大幅に拡大……拡大しすぎて遠くなった視界を【魔力視】スキルのフィルターにかけることによって、魔力を保有する生物のみが光って見えるようになる。
平たく言えば、敵性生物が光点で見える地図が頭に浮かぶ感じだ。対象がある程度の巨体であれば、なんとなくのシルエットも見ることができる。
「六……いや、七体の魔物の群れだ。形状と魔力量からみて、おそらく飛竜だろう。
今は羽を休めているようだが……空を飛ばれると厄介だが、気付かれる前に奇襲をかければ問題ないだろう。迂回すればやり過ごすことも可能だが……みんな、どうする?」
「「「…………」」」
ん? みんな急に足を止めて黙ってしまったぞ。
確かに空を飛ぶ相手は厄介だが、騎士団が臆するような相手じゃないだろうに。
「……どうしたんだ?」
「いや、どうしたってお前さん……」
俺の隣にいたおっさんが驚きの表情でこちらを見ている。
今話した情報に何か誤りがあったのだろうか。確かに魔物の種類に関しては推測だが、十中八九飛竜だと思うのだが……。
「フライオニールス、この部隊で一番索敵技術の高いのはあなたです。ユーリの言うことは本当なのですか……?」
「いや……確かめようにも、俺じゃあこの距離の、しかも山の向こうにいる魔物を探知するのは無理だぜ……」
「で、ですよね……」
二人は何やら呆気にとられているようだ。
たかだか一キロメートル圏内の魔物の存在を言い当てたぐらいで大袈裟だな。俺のスキルレベルでそれだけできるんだから、索敵を本職にしている人に比べたらたいしたことないだろうに。
「それで、どうするんだ?」
俺は、ぼーっとしているアニエスに向け、もう一度問う。
「ええと……そ、そうですね。こんな麓付近に飛竜がいるのだとしたら、見過ごすことはできませんね。飛竜の危険度はCランク……それが七体となると、偵察が主な目的とはいえ、騎士団として野放しにすることはできません」
アニエスからの返答は、飛竜の討伐の決行。
確かに放置するのは危険だろう。王都から馬車で半日程度の場所に飛竜がいるのは見過ごせない。飛竜の移動速度なら、一、二時間もあれば王都まで辿り着いてしまうからだ。
通常、もっと標高が高く、山の深い場所に生息する魔物のはずだ。それが麓近くまで降りてきているということは、やはり何らかの異変が起きている、ということなのだろう。
「なら、奇襲だな」
こうして、俺たちは飛竜の群れへと忍び寄ることとなった。
87
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる