千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

30.索敵する器用貧乏

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 あれからおおよそ一時間かけ、俺たちは全員ぶんの簡易キャンプの設営を完了させた。
 周囲に魔物除けの魔道具を配置し、就寝時には即席の結界を張るという二段構えの安全策だ。まあ見張りは必須だが、これなら野外といえど安全性は申し分ないだろう。

 そして、見張りのために白翼騎士団の団員をひとり残し、俺たちは先行した黒牙騎士団と冒険者の後を追うように山道を歩いていた。

「それにしても、ユーリは慣れた手つきでしたね。おかげで思ったよりも早く作業が終わりました。もしかして経験があったのですか?」

 歩き始めて十分ほど経ったころ、先頭を行くアニエスが、ふと、後ろを歩く俺へと質問を投げかけてきた。

「いや、天幕を張るのは初めてだったよ。……ただまあ、似たようなことならやったことがあったからさ」

 師匠のところで色々とやらされたからな。当然、設営作業に適用されるスキルを習得している。
 おそらく【大工】スキルか、【クラフト】スキルあたりが効果を発揮したのだろう。

「そうなのですね……こういった雑務に明るいのは素晴らしいことだと思います。必要なことなのに、軽視する人が多いですから」

 ……耳が痛い話だ。俺の場合、師匠に強制的にやらされたから身に付いただけであって、もし純粋に騎士を目指していたならば、剣以外は疎かになっていたかもしれない。

「――っ、みんな、待ってくれ」

 そんな雑談をしているなか、俺は声を張り行軍を制止させる。
 その理由は――

「前方八百メートル付近に魔物の気配だ」

 ここから目視することはできないが、遠くに見える小さな岩山を越えた先に、複数の魔物の気配を感じ取った。

 念のため【千里眼】スキルと【魔力視】スキル、そして【索敵】スキルを併用し、群れの規模を確定させる。

 【索敵】スキルは、自分を中心にした一定範囲を俯瞰して見れるようになるスキルだ。それを【千里眼】スキルと併せることで範囲を大幅に拡大……拡大しすぎて遠くなった視界を【魔力視】スキルのフィルターにかけることによって、魔力を保有する生物のみが光って見えるようになる。

 平たく言えば、敵性生物が光点で見える地図が頭に浮かぶ感じだ。対象がある程度の巨体であれば、なんとなくのシルエットも見ることができる。

「六……いや、七体の魔物の群れだ。形状と魔力量からみて、おそらく飛竜ワイバーンだろう。
 今は羽を休めているようだが……空を飛ばれると厄介だが、気付かれる前に奇襲をかければ問題ないだろう。迂回すればやり過ごすことも可能だが……みんな、どうする?」

「「「…………」」」

 ん? みんな急に足を止めて黙ってしまったぞ。
 確かに空を飛ぶ相手は厄介だが、騎士団が臆するような相手じゃないだろうに。

「……どうしたんだ?」
「いや、どうしたってお前さん……」

 俺の隣にいたおっさんが驚きの表情でこちらを見ている。
 今話した情報に何か誤りがあったのだろうか。確かに魔物の種類に関しては推測だが、十中八九飛竜だと思うのだが……。

「フライオニールス、この部隊で一番索敵技術の高いのはあなたです。ユーリの言うことは本当なのですか……?」
「いや……確かめようにも、俺じゃあこの距離の、しかも山の向こうにいる魔物を探知するのは無理だぜ……」
「で、ですよね……」

 二人は何やら呆気にとられているようだ。
 たかだか一キロメートル圏内の魔物の存在を言い当てたぐらいで大袈裟だな。俺のスキルレベルでそれだけできるんだから、索敵を本職にしている人に比べたらたいしたことないだろうに。

「それで、どうするんだ?」

 俺は、ぼーっとしているアニエスに向け、もう一度問う。

「ええと……そ、そうですね。こんな麓付近に飛竜がいるのだとしたら、見過ごすことはできませんね。飛竜の危険度はCランク……それが七体となると、偵察が主な目的とはいえ、騎士団として野放しにすることはできません」

 アニエスからの返答は、飛竜の討伐の決行。
 確かに放置するのは危険だろう。王都から馬車で半日程度の場所に飛竜がいるのは見過ごせない。飛竜の移動速度なら、一、二時間もあれば王都まで辿り着いてしまうからだ。
 通常、もっと標高が高く、山の深い場所に生息する魔物のはずだ。それが麓近くまで降りてきているということは、やはり何らかの異変が起きている、ということなのだろう。
 
「なら、奇襲だな」

 こうして、俺たちは飛竜の群れへと忍び寄ることとなった。
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