千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

35.闇を払う器用貧乏

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 幕の内側に入った瞬間、まるで泥の中にでも飛び込んだような、ぬめりけのある嫌な感覚が全身を這うように駆け巡る。

「く……これがあの黒い幕の中か。身体が重いし、暗くて何も見えないな」

 外から見たら無色透明になっていた幕だったが、その内側は、黒一色で満たされていた。
 それは夜間の森の中よりもなお暗い。手を目の前にかざしてみるが、それさえも見えないほどだ。

 それに、暗さだけではなく身体中が危険信号を発している。この感覚は状態異常によるものだ。それもひとつだけではなく、様々な種類の複合だ。

 各種状態異常への耐性を上げるスキルを習得しているおかけで、まだなんとか自由に身体を動かせている状態だが、所詮はスキルレベル3の中途半端な耐性だ。
 おそらく、自由に動けるのはあと三十秒程度。だから、感覚がはっきりとしている間にこの暗闇を攻略しなくてはならない。

「この感じ……感覚阻害に長けている【闇魔法】によるものか? しかし、ここまで強力な効果を発揮できる魔法は、少なくとも俺の知識に当てはまるものはない。
 となると、超越スキル……? いや、か」

 この未知の現象は、超越スキルによるものかと思ったが、超越スキルの力はこんなものではないと思い直した。
 となると、残る可能性はただひとつ。現代の人間には縁遠い、あるスキルの存在だ。

 その名は、『魔人デモンズスキル』。
 その名の通り、魔人のみが習得できる、唯一無二のスキルだ。その特殊性故に、あの師匠でさえ習得できていない。

 魔人は人間と違い、加護を持たない。しかしその代わりに、各々が異なるスキルをひとつ、生まれつき所持している。それがデモンズスキルだ。
 師匠の話では、超越スキルほどの隔絶した力はないが、大抵の場合通常スキルや上位スキルを上回る性能を有していると言っていた。
 この暗闇の領域は、性能を鑑みるに間違いなくデモンズスキルによるものだろう。

「視覚、聴覚、嗅覚、触覚……そしておそらく味覚。五感の全てが麻痺してきている。それに加え、魔力阻害の効果もあるようだな。
 そして、魔力の質は予想した通り【闇魔法】スキルと同系統……か」

 あえて敵のスキルの領域内に入ることで、その性質を身をもって分析していく。
 その力は、やはりひとつのスキルによるものにしては大きく、複雑なものだった。

 五感を封じられたうえに魔力阻害まで受けてしまえば、大抵の者は抵抗する間もなく殺されてしまうだろう。

 ――だが、タネさえわかってしまえば対処は可能だ。

「スキル【読込ロード】発動……聖闘衣セイントオーラ

 俺はあらゆる状態異常を無効化する技を自身に付与する。
 発動した瞬間、淡い光の幕が俺を包み、やがて全身に浸透するように消えていった。

 魔力阻害の影響下にあるので、よっぽど魔力コントロールに長けていないと魔法は意味をなさない。師匠レベルならまだしも、俺のスキルレベルは3だ。この領域内でまともに魔法を使うのは難しいだろう。

 しかし、この聖闘衣という技は【闘気】【活性化】【神衣かむい】などの、のスキルを十個以上併用して発動する大技だ。

 その強力さ故に、本来なら精神集中や錬気などにかなりの時間をかける必要がある。
 だが【保存セーブ&読込ロード】スキルによって、保存セーブした魔法や技の発動する際に必要な過程を全てスキップし、結果だけを読込ロードすることができるのだ。
 スキルレベルが低いので保存できる数が少ないのが難点だが、それを補って余りある性能の良スキルだ。

「よし、感覚が戻った。――そして、この状態なら問題なく魔法が使えるってわけだ」

 【闇魔法】と同等の性質を持つこのユニークスキルは、反属性である【光魔法】を用いればの打ち破れる可能性が高い。

「【光魔法】ディスペル、アンチダークを合成」

 魔法解除、闇払いの効果を持つ【光魔法】を合成することで、この領域に対する効果が高いであろう魔法を生み出す。そしてそれを、【魔法剣】スキルで剣に付与する。

 鞘から剣を抜くと、この暗闇にも呑まれることのない光り輝く刀身が姿を現す。一時的だが、闇払いの力を宿した聖剣の誕生だ。

「あとはこいつをふりかけてっと……」

 次元収納から小さな麻袋を取り出し、その中に入っていた粉末を惜しみ無く刀身へとまぶしていく。
 この粉は俺が錬金術によって生成したもので、魔力に『拡散』の性質を与えるものだ。
 希少な素材を使っているので量産はできない代物だが、今は出し惜しみをしている場合じゃない。

「はっ!」

 準備を終えた俺は、上段に構えた剣を思い切り振り下ろす。すると、剣筋をなぞるように闇の帳に亀裂が走り、粉末の効果で魔力が拡散し、裂け目から光の波紋が広がった。
 
 広がり続ける波紋は、数秒で領域全てを巡り、その軌跡を追うように闇が払われていく。

「どうやら間に合ったみたいだな」

 さらさらと灰のように散っていく闇の帳。そして、俺の目線の先には領域が払われたことに驚いたような様子の魔人、そしてアニエスたちの姿があった。
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