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第三章 調査任務
36.一戦交える器用貧乏
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彼女らに死傷者はいない。どうやら不意打ちの一撃以降、攻撃を受けた者はいないようだ。間に合ってよかった。
ただ、デモンズスキルによる状態異常をもろに受けており、何が起こったかを感じ取れていないようだ。暗闇が晴れたというのに、首ひとつ動かそうともしない。
「お前かっ……!」
光を纏う剣を見て、スキルを打ち破ったのは俺だと感じ取ったのだろう。狩りの邪魔された魔人は、ひどく機嫌を損ねた様子で俺を睨み付けている。
「そうだ……お前のご自慢のスキルを破ったのは俺だよ。魔人と戦うのは初めてだったんだが、案外たいしたことないんだな。いや……もしかしてお前が弱いだけか?」
「――っ、ふざけるな! たかが人間のくせにっ!」
挑発するようにゆっくりと切っ先を向けたのと同時に、魔人は怒声を上げる。
思惑通り奴の敵意は俺のみへ向けられたようだ。これでアニエスたちから引き剥がせるだろう。
それにしても魔人ってのは頭が切れるものかと思っていたが、知能も見た目相応なのかもしれない。安い挑発に乗るあたり、本当に子供と大差がないように思える。
「オォォォォォォォーーッ!」
先程までの子供のような出で立ちから一変、雄叫びを上げると、着ていた服がズタズタになるぐらいに全身の筋肉が膨れ上がった。
筋肉量だけでなく骨格そのものが変化しているようで、あっという間に俺の身長を追い越し、更にはその背中にコウモリに似た翼を生やしている。
変化を終えた魔人は翼をはためかせ、わずかな溜めの後に、低空飛行しながら俺の方へ突っ込んでくる。
その速さは飛竜の最高速度を優に上回っている。そして、あの筋肉量と魔力量からして、攻撃力に関しても比ではないだろう。
「本性を現したか……だがっ!」
怒りに任せたその突進はあまりに直線的すぎる。いかに速く、いかに強力であろうとも、それだけであるならば捌くのは容易い。
「死ねェェェっ!」
突進中、片手直剣程度の長さまで魔人の爪が伸び、どす黒い魔力を纏う。
俺を縦に両断することを狙っているようで、爪を振り上げ、俺へと真っ直ぐ振り下ろした。
フェイントも何もない直線的な攻撃を余裕をもって躱すと同時に、すれ違いざまに胴を斬りつける。
だが、返ってきた感触はいまひとつだった。
巨岩でもなぞったかのようなガリガリとした感触だ。
「……なるほど、魔力障壁か」
ゆっくりと振り返る魔人の胸元、さっき俺が斬りつけた箇所にわずかな魔力の揺らぎが残っている。
俺の剣は奴の身体に届かずに、魔力の壁によって阻まれてしまったようだ。
しかも高密度の魔力に触れたせいで、剣に付与していた魔法が剥がれてしまっていた。
更に不幸なことに、魔法剣や魔法障壁との衝突など、多大な負荷がかかってしまったため、刀身にヒビが入ってしまっていた。
これではあと一度打ち合えるかどうか、といったところだろう。
……まあ、所謂大量生産の鉄の剣だ。魔法剣を使った時点でこうなることは予想していたが、思った以上に消耗が早いな。これは障壁を見抜けなかった俺の落ち度だ。
「ケヒャヒャ……よく避けたね。どうやらそこそこできる剣士のようだけど、残念だったね? そんな状態の剣じゃ、もう剣士としては終わりだよ」
「……だろうな」
奴の言う通り、【剣術】スキルは剣を握っているときにしか効力を発揮しない。戦闘中に剣が折れたりすれば、スキルの恩恵を受けられなくなり、戦闘能力が著しく低下してしまうだろう。
「ありがとうな」
俺はここまで戦ってくれた相棒に一言礼を言い、地面に深く突き刺した。
魔人はそんな俺の様子を見て、戦いを諦めたのだと思ったのだろう。口角を大きく上げて、歪な笑みを浮かべる。
俺が剣を置いたのを見た魔人は、自分が優位に立ったと思い、完全に余裕を取り戻した様子だ。
「ケヒヒヒヒッ! 潔く諦めたみたいだね! それじゃ……じわじわとなぶり殺しにしてあげるよ!」
魔人はそう叫びながら、再び俺へと突進してきた。
冷静になった影響か、今度は直線的な動きだけではなく、左右の動きが加わっている。
「……誰が諦めたって?」
確かに、俺が剣だけを振り続け、普通の剣士になっていたのであれば、剣を失った時点で諦めていたかもしれない。
でも、今は剣だけが俺の全てじゃない。
――――さあ、見せてやろうじゃないか。器用貧乏の戦いってやつを。
ただ、デモンズスキルによる状態異常をもろに受けており、何が起こったかを感じ取れていないようだ。暗闇が晴れたというのに、首ひとつ動かそうともしない。
「お前かっ……!」
光を纏う剣を見て、スキルを打ち破ったのは俺だと感じ取ったのだろう。狩りの邪魔された魔人は、ひどく機嫌を損ねた様子で俺を睨み付けている。
「そうだ……お前のご自慢のスキルを破ったのは俺だよ。魔人と戦うのは初めてだったんだが、案外たいしたことないんだな。いや……もしかしてお前が弱いだけか?」
「――っ、ふざけるな! たかが人間のくせにっ!」
挑発するようにゆっくりと切っ先を向けたのと同時に、魔人は怒声を上げる。
思惑通り奴の敵意は俺のみへ向けられたようだ。これでアニエスたちから引き剥がせるだろう。
それにしても魔人ってのは頭が切れるものかと思っていたが、知能も見た目相応なのかもしれない。安い挑発に乗るあたり、本当に子供と大差がないように思える。
「オォォォォォォォーーッ!」
先程までの子供のような出で立ちから一変、雄叫びを上げると、着ていた服がズタズタになるぐらいに全身の筋肉が膨れ上がった。
筋肉量だけでなく骨格そのものが変化しているようで、あっという間に俺の身長を追い越し、更にはその背中にコウモリに似た翼を生やしている。
変化を終えた魔人は翼をはためかせ、わずかな溜めの後に、低空飛行しながら俺の方へ突っ込んでくる。
その速さは飛竜の最高速度を優に上回っている。そして、あの筋肉量と魔力量からして、攻撃力に関しても比ではないだろう。
「本性を現したか……だがっ!」
怒りに任せたその突進はあまりに直線的すぎる。いかに速く、いかに強力であろうとも、それだけであるならば捌くのは容易い。
「死ねェェェっ!」
突進中、片手直剣程度の長さまで魔人の爪が伸び、どす黒い魔力を纏う。
俺を縦に両断することを狙っているようで、爪を振り上げ、俺へと真っ直ぐ振り下ろした。
フェイントも何もない直線的な攻撃を余裕をもって躱すと同時に、すれ違いざまに胴を斬りつける。
だが、返ってきた感触はいまひとつだった。
巨岩でもなぞったかのようなガリガリとした感触だ。
「……なるほど、魔力障壁か」
ゆっくりと振り返る魔人の胸元、さっき俺が斬りつけた箇所にわずかな魔力の揺らぎが残っている。
俺の剣は奴の身体に届かずに、魔力の壁によって阻まれてしまったようだ。
しかも高密度の魔力に触れたせいで、剣に付与していた魔法が剥がれてしまっていた。
更に不幸なことに、魔法剣や魔法障壁との衝突など、多大な負荷がかかってしまったため、刀身にヒビが入ってしまっていた。
これではあと一度打ち合えるかどうか、といったところだろう。
……まあ、所謂大量生産の鉄の剣だ。魔法剣を使った時点でこうなることは予想していたが、思った以上に消耗が早いな。これは障壁を見抜けなかった俺の落ち度だ。
「ケヒャヒャ……よく避けたね。どうやらそこそこできる剣士のようだけど、残念だったね? そんな状態の剣じゃ、もう剣士としては終わりだよ」
「……だろうな」
奴の言う通り、【剣術】スキルは剣を握っているときにしか効力を発揮しない。戦闘中に剣が折れたりすれば、スキルの恩恵を受けられなくなり、戦闘能力が著しく低下してしまうだろう。
「ありがとうな」
俺はここまで戦ってくれた相棒に一言礼を言い、地面に深く突き刺した。
魔人はそんな俺の様子を見て、戦いを諦めたのだと思ったのだろう。口角を大きく上げて、歪な笑みを浮かべる。
俺が剣を置いたのを見た魔人は、自分が優位に立ったと思い、完全に余裕を取り戻した様子だ。
「ケヒヒヒヒッ! 潔く諦めたみたいだね! それじゃ……じわじわとなぶり殺しにしてあげるよ!」
魔人はそう叫びながら、再び俺へと突進してきた。
冷静になった影響か、今度は直線的な動きだけではなく、左右の動きが加わっている。
「……誰が諦めたって?」
確かに、俺が剣だけを振り続け、普通の剣士になっていたのであれば、剣を失った時点で諦めていたかもしれない。
でも、今は剣だけが俺の全てじゃない。
――――さあ、見せてやろうじゃないか。器用貧乏の戦いってやつを。
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