千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

37.接近戦をする器用貧乏

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「いくぞ」

 魔人が近付くタイミングを見計らって、俺は【次元魔法】スキルを使い、次元の狭間から新たな武器を取り出した。
 この次元収納には、実験で使うために師匠から貰った様々な武器や、【鍛冶】スキル強化のために製作した武具などが収納されている。

 いくつもある武器種から選択した得物は、衝撃力に優れる戦槌だ。剣と比べ頑丈でもあるし、こいつで魔法障壁を砕けるかどうか試してみよう。

「ふっ!」

 間合いに入ったタイミングに合わせて、戦槌を振り抜く。
 新たな武器の出現に驚いたのか、はたまた剣ではないので避ける必要はないと考えたのか。戦槌による一撃は、容易に魔法障壁へと直撃する。

「っ!?」

 剣での攻撃は軽く防がれてしまったが、今回の攻撃は筋力増強の【支援魔法】の重ねがけ、そして【重力魔法】によって重さを増した渾身の一撃だ。
 障壁こそ破れなかったものの、魔人の身体を数メートル先まで弾き返すことに成功した。

 スキルによるサポートを受けた戦槌の威力は、先程の剣による攻撃の比ではない。
 魔人は信じられないといったような顔をして、目を見開いている。

「そんな……どこから武器を出したんだ……!? それよりも、剣よりも強力な攻撃だった……お前、剣士じゃなかったのか!?」
「その質問に答えてやる義理はない」

 狼狽える魔人へとすかさず距離を詰め、戦槌を振り下ろす。

 ガチンッ!

 これも魔法障壁によって防がれるが、障壁にわずかな亀裂が生じたのを見逃さなかった。俺の攻撃が通用している証拠だ。

「く、ふざけるなっ!」

 魔人の反撃を最小限の動きで回避し、再び戦槌を振るう。当然、狙うのは一手前の攻撃で綻んだ箇所だ。

「……む」

 攻撃は命中。だが、ピシッと破砕音を立てたのは俺の戦槌の方だった。

 【魔法剣】スキルによる魔法の付与はしていないが、強化された腕力、そして重力操作による負荷は大きい。その状況で堅固な壁を思い切り叩いたのだ。戦槌が剣よりも頑丈だとはいえ、壊れるのも当然だ。

「ケヒ……ケヒャ! 残念だったね! その武器が切り札だったんだろうけど、結局壊れちゃったみたいだね!」
「こいつが切り札だと、誰が言った」

 俺は壊れかけの戦槌を魔人に向かって投擲する。
 そして、投擲した戦槌が魔人の視界を遮っているその隙に、次元収納から槍を取り出す。

「はあっ!」
「――っ!?」

 武器が変われば戦法も変わる。
 魔人は再度変化した俺の動きや間合い対応できずに、またもやこちらの攻撃がクリーンヒットした。

 今度は貫通力に特化した槍での突きを、先程戦槌による連撃で綻んだ部分へと、寸分違わず叩き込む。
 もちろん、重力操作などで高レベルのスキルを再現した渾身の突きだ。

 結果、槍の先端部分数センチのみだが、魔法障壁を貫通した。魔人の身体に届かせるにはあと一歩足りなかったが、これで障壁の一部に完全に穴が空いたことになる。

「なっ……!?」

 まさか障壁が破られるとは思ってもいなかったのだろう。魔人の瞳の奥に焦りと恐怖の色がわずかに浮かんだ。

「お、オオオオッ!!」

 魔人は魔力を爆発的に放出し、全周囲に衝撃波を放ちながら無理矢理に俺の攻撃範囲から離れると、突っ込んできたときと同じぐらい全速力で退いていった。

 脇目も振らず、およそ十メートルの距離を飛んだ後に、もつれながら着地する。

「ハッ、ハァッ……! ぶ、無様に逃げたのか? この僕が、たったひとりの人間ごときに……!?」

 体力的には問題ないはずだが、奴の挙動に変化が起こった。
 呼吸の間隔が短くなり、足を震わせ、目の焦点がぶれている。今、奴の身を支配している感情は『恐怖』だろう。

 ……俺にも覚えがある。何度も何度も、師匠との実験で味わってきた感情だ。

 それはとても恐ろしく、加減を知らず心臓を締めつけてくる。
 恐怖に膝を折ったことは一度だけじゃない。だが、心まで折ってはならない。恐怖を感じたときにこそ、心を奮い立たせることができなければ、死ぬのは自分だ。

 だが、目の前の魔人はどうだ。
 あれだけの力を見せながらも、子供のように怯えている。

 ……いや、本当に子供なのかもしれない。身体能力に任せた単調な攻撃、障壁頼りの杜撰ずさんな防御。戦闘技術は素人同然だ。

 デモンズスキルに加え、基礎能力が圧倒的だったため、大抵の外敵は相手にもならなかったのだろう。能力の高さ故の経験不足ってところだ。

 ……だから初めてなのだろう、こうやって追い詰められ、自身の死を感じたことが。

「なんだ……命を懸けた戦いは初めてか? だとしたらお前は俺には勝てない。なんせ、俺はこの程度の死線なら何百と越えてきているからな」
「ぐ……! デタラメをっ……!!」

 魔人は信じていないようだが、今の話は誇張でもなんでもない。
 事実、俺は師匠との実験で毎日のように格上と戦わされ、その度に死にかけていたからな。

「……ああ、わかったよ認めるよ。近接戦闘ならお前の方が上だ」

 距離を取ったことで平静を取り戻したのか、穏やかな口調へと戻っていた。
 また怒って突進してくるかと思ったが、さすがにそこまで間抜けじゃなかったか。

「でも、これならどうかな?」

 そう言うと魔人は瞬時に上空へと飛翔した。
 十メートル程は上昇しており、普通ならば人間は近付くことすらできない。相手より優位な領域で戦うという、ごく当たり前の戦法だ。

「さあ、ここからは一方的な虐殺だ!」

 魔人は腕をこちらへと突き出し、魔力を練っている。遠距離から魔法で攻撃する算段のようだ。
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