千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第三章 調査任務

40.見物に行く器用貧乏

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 魔人との戦闘から五日。

 俺は今、銀の魔女亭に間借りしている寝室のベッドの上で横になっていた。帰ってきてからというもの、一日の大半をこうやって過ごしている。

 他に有意義な時間の使い方があるだろうと思うかもしれないが、事実としてやることが一切ない。

 というのも、現在王都の外に出ることが禁止されてしまっているのだ。
 魔人の出現に対する緊急宣言なので仕方がないんだろうが、定職に就いていない俺は、こうやってごろごろと寝ることしかやることがない。

 結局、調査任務の成否も曖昧なままだし、冒険者の資格は得られなかった。今はただ、事態が収束するのを待つことしかできない。

「お兄さん! 騎士団が帰ってきたよ、すぐそこを通るんだって! 勢揃いしているところなんてめったに見れないからいっしょに見に行こうよ!」

 バタンとドアを勢いよく開いて、カナが俺の部屋へと飛び込んできた。
 気配は感じていたので驚きはしなかったが、まさかノックのひとつもしないとは……従業員としてどうなんだ?

 まあ、ここ数日暇そうにしていた俺に対する気遣いの面が大きいだろうし、怒ることでもないか。話題を提供してくれるのはありがたいことだ。

「……ああ、行こうかな」

 魔人出現の報告を受けた国王が出した命令は、対象地域の再調査だ。その任務に動員された戦力は、二つの騎士団を総動員するという、万全を期したものだった。
 それが今日、任務を終え帰ってきたようだ。

 重傷を負った団員は別だろうが、もちろんアニエスやおっさんもそこに含まれる。帰ってきてすぐまた同じ場所に駆り出されるとは、なかなかにハードな職場だな。
 まあ、知らない仲でもないし、労いを兼ねて少し顔を見に行ってやるか。

「決まりだね! 行こっ、お兄さん!」

 俺が体勢を整えベッドから腰を浮かせた途端、カナは俺の手を引きながら部屋を出て、階段を駆け下りていく。

「お父さん、ちょっとお兄さんと外行ってくるね!」

 そして、厨房にいるパグラムへと声をかけ、返事を聞かぬまま宿の外へと飛び出した。

「おいおい、そんなに急がなくてもいいんじゃないか?」
「ダメダメ、騎士団には熱心なファンがたくさんいるんだからね! みんな見に来るだろうから、いい場所を確保しなきゃ!」

 ファン……ね。まあ、王都を守る英雄みたいなものだから、そういうのに憧れる者がいても不思議ではないか。
 そして、興奮しながらそう言うカナも熱心なファンの一人なのだろう。もしかしたら俺が連れ出されたのは、パグラムに外出を納得させるためのだしに使われたのかもな。

 銀の魔女亭がある住宅街を抜け、大きな通りに出た瞬間、いつもに増して大勢の人間で通りが埋め尽くされていた。どうやら一足遅かったようだな。

「うーん、これじゃ見えないよー」

 カナは人だかりの最後尾からぴょんぴょんと跳ねて、なんとか騎士団を見ようとするが、せいぜい俺の目線程度までしか跳躍できておらず、高さがまったく足りていない。
 かといって前に進もうとしても、もはやカナのような小さな子供でさえ間を縫って前に進むこともできないような人の密度だ。

「あーあ、見れないかー。ここのお家の人はいいなー、二階からならバッチリ見えるんだろうな」

 カナはそう言いながら、隣に立っていた家屋を見上げていた。いつも太陽のように輝いているその表情には、わずかばかりの陰りが読み取れた。

「……じゃあ、ちょっとばかり屋根を借りようか」
「……え?」
「ちょっと失礼」

 俺は困惑するカナの華奢な身体をひょいと抱き上げ、建物の壁を蹴り、三角飛びの要領で上へと角度をつけて飛んだ。
 それをすぐ向かい側の建物でも同様に行い、これを繰り返す。するとあら不思議、あっという間に屋根へと到着だ。

「わぁっ! お兄さんすごーい……」
「ここからならよく見えるだろ?」
「あっ、本当だ! よく見えるよ!」

 予想通り、屋根からなら大通りがよく見渡せる。
 そして、運のいいことに騎士団の連中がすぐ近くを通っている、いいタイミングだ。

 ……だが、本来なら華やかであろうその行軍に、強烈な違和感を覚えるのだった。

 
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