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第三章 調査任務
EX6.小さな希望
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「魔人からの言葉をそのままお伝えします。
『我々魔人が人間に復讐するときが来た。まずは王都アニマを滅ぼす。一ヶ月の猶予をやるので、抗ってみせよ』
……とのことです」
セインの発言に、アムダルシア王とマリーネは同時に息を飲む。
「こ、ここへ攻めてくるのか……」
アムダルシア王は狼狽しながらも、思考を止めなかった。
魔人が一ヶ月という猶予を与えたのはなぜか?
わざわざ攻める場所を伝えたのはなぜか?
少し考え、とあるシンプルな結論に行き着く。
「……どれだけ対策をしようが、正面から打ち破ってやるという自信の現れ。もしくは、負けを認めて大人しく国を明け渡せ……といったところか」
「はい。憶測でしかありませんが、おそらくそういうことかと……」
アムダルシア王に突き付けられたのは、究極の二択だった。
どちらの選択がよいか、アムダルシア王は目を閉じながら思考を巡らせる。
もし戦うのなら……一ヶ月あれば国内の戦力を集結させることは可能だろう。国内のみならず、援軍も要請した方がいい。隣国ならば、援軍要請も間に合う可能性が高い。
だが、それでも勝算は低いだろう。負けた場合、多くの人の命が失われることになる。
逃げる場合……国の人口の半分を抱える王都アニマの住民の受け入れ先の問題や、魔物の活発化による道中の危険性を考慮せねばならない。そのため、全員を安全に移動させるためには一ヶ月では時間不足だ。
そもそも、王都を明け渡した時点でアムダルシア王国は終わりだ。避難民の住居はどうする。食料はどうする。解決すべき問題が山積みだ。
「ふむ……避難は現実的ではない、か。なれば、戦うしかあるまい。……余の決定に反対の者はおるか?」
消去法のような形になったが、アムダルシア王は魔人と戦う決意をした。
そして、この場にいる全員に目配せをし、意見を仰ぐ。
「「「…………」」」
しばしの静寂が部屋の中を包んだ。
王の決定に異議を唱える者はいないようだ。
「……決まりだな。では、白翼騎士団、黒牙騎士団、宮廷魔術師団、並びに国内における全兵力をもって魔人との戦いに尽力することを、アムダルシア王の名においてここに宣言する」
各団長は立ち上がり、敬礼をもって王の決定に誓いを立てる。
「よろしい。そうと決まれば時間が惜しい、対抗策を練るとしよう。全員席に着け」
王の言葉に従い、三人の団長は自らの席に戻る。
「……してアリューゼよ、この戦い、お主は勝てると思うか?」
アムダルシア王はここまで無言だった黒牙騎士団の団長、アリューゼへと問うた。
何故彼にそう聞いたかというと、アリューゼはこの国一番の武人だと称されているからだ。実際に魔人と対面した彼がどう考えているかを聞く必要がある。
「まず最低条件として、魔人を各個撃破できるよう分散させるのが必須かと」
左目を眼帯で隠した屈強な肉体を持つ大男、アリューゼが重々しい口調でそう答えた。
「……その理由は?」
「魔人の最大の武器はデモンズスキル。そのスキルの性能を判明させない限り、勝利はあり得ないでしょう。
そして、仮にデモンズスキルがどんなものか把握できたとしても、魔人が複数集まった状態では同時に対処することは不可能に近い。なので、可能な限り分散させる必要があるかと」
「なるほどな……だが、裏を返せば魔人を分散させられれば、勝てる可能性はあるということか」
わずかながら光明が見えてきたことに、アムダルシア王は強く拳を握りしめる。
「わざわざ宣戦布告するくらいだし、魔人は私たちを甘く見ている節があるわ。
その隙をうまくつけば分散させられるかもしれないわね……そうね、私のスキルを使えばなんとかなるかも」
マリーネが持つスキル【儀式魔法】は、
複数名の魔術師の協力が必須となるが、通常よりも遥かに強大な魔法の行使が可能になるスキルだ。
彼女の言う通り、地形さえ変動させられることが可能な【儀式魔法】であれば、魔人を分散させることができるだろう。
「しかし、そうなると魔術師団は【儀式魔法】にかかりっきりになる。援護は望めそうにないな」
「ふっ……セインよ、まさか援護がなければ魔人を倒せないと言うのではないだろうな?」
「馬鹿を言うなアリューゼ。うちの団員は優秀なんだ、そう簡単に遅れは取らないよ」
「ふん、そこで『自分は』と言わないのが貴様の甘いところよ」
アリューゼの言葉に、セインはひきつった笑みを見せる。
ひとつのスキルを極めようとする黒牙騎士団に対し、白翼騎士団が重んじるのは、あらゆる状況を打破できる対応力である。
相容れぬ思想を持つ二人は、実力を認めあっているにも関わらず、事あるごとに対立しがちだった。
「はっはっは! 頼もしい限りだ!」
そんないつも通りの光景を見て、アムダルシア王は頼もしさを覚える。
自慢の騎士団ならば、魔人にも勝てるのではないかと。
『我々魔人が人間に復讐するときが来た。まずは王都アニマを滅ぼす。一ヶ月の猶予をやるので、抗ってみせよ』
……とのことです」
セインの発言に、アムダルシア王とマリーネは同時に息を飲む。
「こ、ここへ攻めてくるのか……」
アムダルシア王は狼狽しながらも、思考を止めなかった。
魔人が一ヶ月という猶予を与えたのはなぜか?
わざわざ攻める場所を伝えたのはなぜか?
少し考え、とあるシンプルな結論に行き着く。
「……どれだけ対策をしようが、正面から打ち破ってやるという自信の現れ。もしくは、負けを認めて大人しく国を明け渡せ……といったところか」
「はい。憶測でしかありませんが、おそらくそういうことかと……」
アムダルシア王に突き付けられたのは、究極の二択だった。
どちらの選択がよいか、アムダルシア王は目を閉じながら思考を巡らせる。
もし戦うのなら……一ヶ月あれば国内の戦力を集結させることは可能だろう。国内のみならず、援軍も要請した方がいい。隣国ならば、援軍要請も間に合う可能性が高い。
だが、それでも勝算は低いだろう。負けた場合、多くの人の命が失われることになる。
逃げる場合……国の人口の半分を抱える王都アニマの住民の受け入れ先の問題や、魔物の活発化による道中の危険性を考慮せねばならない。そのため、全員を安全に移動させるためには一ヶ月では時間不足だ。
そもそも、王都を明け渡した時点でアムダルシア王国は終わりだ。避難民の住居はどうする。食料はどうする。解決すべき問題が山積みだ。
「ふむ……避難は現実的ではない、か。なれば、戦うしかあるまい。……余の決定に反対の者はおるか?」
消去法のような形になったが、アムダルシア王は魔人と戦う決意をした。
そして、この場にいる全員に目配せをし、意見を仰ぐ。
「「「…………」」」
しばしの静寂が部屋の中を包んだ。
王の決定に異議を唱える者はいないようだ。
「……決まりだな。では、白翼騎士団、黒牙騎士団、宮廷魔術師団、並びに国内における全兵力をもって魔人との戦いに尽力することを、アムダルシア王の名においてここに宣言する」
各団長は立ち上がり、敬礼をもって王の決定に誓いを立てる。
「よろしい。そうと決まれば時間が惜しい、対抗策を練るとしよう。全員席に着け」
王の言葉に従い、三人の団長は自らの席に戻る。
「……してアリューゼよ、この戦い、お主は勝てると思うか?」
アムダルシア王はここまで無言だった黒牙騎士団の団長、アリューゼへと問うた。
何故彼にそう聞いたかというと、アリューゼはこの国一番の武人だと称されているからだ。実際に魔人と対面した彼がどう考えているかを聞く必要がある。
「まず最低条件として、魔人を各個撃破できるよう分散させるのが必須かと」
左目を眼帯で隠した屈強な肉体を持つ大男、アリューゼが重々しい口調でそう答えた。
「……その理由は?」
「魔人の最大の武器はデモンズスキル。そのスキルの性能を判明させない限り、勝利はあり得ないでしょう。
そして、仮にデモンズスキルがどんなものか把握できたとしても、魔人が複数集まった状態では同時に対処することは不可能に近い。なので、可能な限り分散させる必要があるかと」
「なるほどな……だが、裏を返せば魔人を分散させられれば、勝てる可能性はあるということか」
わずかながら光明が見えてきたことに、アムダルシア王は強く拳を握りしめる。
「わざわざ宣戦布告するくらいだし、魔人は私たちを甘く見ている節があるわ。
その隙をうまくつけば分散させられるかもしれないわね……そうね、私のスキルを使えばなんとかなるかも」
マリーネが持つスキル【儀式魔法】は、
複数名の魔術師の協力が必須となるが、通常よりも遥かに強大な魔法の行使が可能になるスキルだ。
彼女の言う通り、地形さえ変動させられることが可能な【儀式魔法】であれば、魔人を分散させることができるだろう。
「しかし、そうなると魔術師団は【儀式魔法】にかかりっきりになる。援護は望めそうにないな」
「ふっ……セインよ、まさか援護がなければ魔人を倒せないと言うのではないだろうな?」
「馬鹿を言うなアリューゼ。うちの団員は優秀なんだ、そう簡単に遅れは取らないよ」
「ふん、そこで『自分は』と言わないのが貴様の甘いところよ」
アリューゼの言葉に、セインはひきつった笑みを見せる。
ひとつのスキルを極めようとする黒牙騎士団に対し、白翼騎士団が重んじるのは、あらゆる状況を打破できる対応力である。
相容れぬ思想を持つ二人は、実力を認めあっているにも関わらず、事あるごとに対立しがちだった。
「はっはっは! 頼もしい限りだ!」
そんないつも通りの光景を見て、アムダルシア王は頼もしさを覚える。
自慢の騎士団ならば、魔人にも勝てるのではないかと。
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