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第三章 調査任務
EX7.具申
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「……ねえ、水を差すようで悪いのだけど、本当にあんたたち騎士団だけで八体もの魔人を倒せるわけ? 戦力は足りてるのかしら?」
マリーネのぼやくように放たれた言葉は、少しばかり和らいだ空気を再び引き締めるには充分な効果があった。
実際、魔人を分断させたとして、必ず勝てるという保証はない。それは、騎士団の両団長もよくわかっていた。
「そうだな……魔人を相手にするには部隊長レベルの実力が必須だ。それ以外は足手まといになる。黒牙はガリオットが欠けてしまっているし、せいぜい二体受け持つのが精々といったところか」
「悔しいですけれど、白翼の方も同じようなものですね」
「ちょっと……それじゃあ、残りの四体がフリーになっちゃうじゃない。分断させたところで好き勝手に行動させちゃ意味ないわ。どうするつもりなの?」
マリーネの問いに答える者はいなかった。
王国の戦力は何も騎士団や魔術師団だけではない。王都に在籍する兵士はおおよそ四千。国中から兵を召集すれば、一万はくだらない。
だが、一般兵の実力ではいくら数を揃えようとも、魔人に致命傷を与えることは叶わないだろう。魔人を相手にさせるということは、囮になって死ねと言うのと同義だ。
多数の命との引き換えが、いくばくかの時間を稼ぐことにしかならない。だが、その戦術をとらなければ勝ち目はない。
それがわかっているから、誰もそのことを口にしなかった。
「……もちろん冒険者にも協力要請をする。どれだけの人員が集まるかは未知数だが、我が国を愛する者は多いと聞く。必ずや力になってくれるだろう」
アムダルシア王が曖昧な言い方をしたのには理由がある。それは、冒険者という戦力が不安定なものであるからだ。
冒険者ギルドというのは、国が運営するものではなく、規模が全世界に及ぶ、世界最大の民間企業である。
なので、いくらアムダルシア王国に居を構えていようとも、国からの命令を聞くかはあくまで任意。遵守する義務はないのだ。
「冒険者か……この王都アニマにも魔人と戦えそうな奴が何人かいるな。特に、ギルドマスターである『閃剣』のエヴァン。今でこそ一線は退いているが、奴はかなりの実力者だ」
「そうね。それに、残念ながらウチの国にはいないけど、もしかしたらSランク冒険者を派遣してくれる可能性だってあるわ」
――Sランク冒険者。
全世界の腕自慢が集まる冒険者ギルドの中においてなお、飛び抜けた実力者にのみ与えられる称号だ。彼らは時代が時代なら『勇者』と称されていても過言ではない。
そんな者の協力が得られれば、勝利の可能性は、ぐんと高まるだろう。
「うむ、余もエヴァン君とは面識がある。彼ならばきっと協力要請を受けてくれるだろう」
「では、大まかな方針はこれで決まりですわね、陛下」
「そうだな。まずは国内各地から兵の召集、冒険者ギルドへの協力要請、物資の確保……その他諸々、やることは山積みだ。そう考えると一ヶ月は長いようで短い、すぐに動き始めるとしよう」
そう言って立ち上がったアムダルシア王の気勢をそぐかのように、セインがおずおずと挙手をした。
「……陛下、恐縮ですが、最後にひとつご相談がございます」
「――む、どうしたのだセイン」
「はっ、例の魔人を討伐したという証言についてです」
話が長くなりそうな気配を感じたアムダルシア王は、再び席に着く。
「ふむ……その件か。確かに失念していたな。しかし、魔人の討伐に関しては何の証拠もなかったのだろう?」
魔人からの宣戦布告のインパクトが強すぎたため、魔人を討伐したという報告については、アムダルシア王の頭から抜けてしまっていた。
「はい……ですが、その報告をしてきたのは私の優秀な部下のひとりです。彼女が虚言を吐くとは思えません。
そして、その彼女がこの場での具申を申し出ています。どうか彼女の話を聞いてはいただけませんでしょうか? もしかしたら今回の戦いの一助になるやもしれません」
「ふむ……お主がそこまで言うのであれば、余はかまわぬが……」
アムダルシア王は、ちらりとアリューゼとマリーネに目線を飛ばす。
一刻を争う状況であるため、反対意見があるのならば、いくらセインの頼みといえども後回しにする他ない。
「私は構わないわ。確かにその辺りのことは気になってたし」
「俺も構わん……が、もし戯れ言の類いで時間を無駄にした場合、貴様の部下であろうとも俺の手で斬り伏せるからな」
「……わかった、それでいい」
この場の全員の承諾を得られたのを確認した後、セインは手を鳴らした。
マリーネのぼやくように放たれた言葉は、少しばかり和らいだ空気を再び引き締めるには充分な効果があった。
実際、魔人を分断させたとして、必ず勝てるという保証はない。それは、騎士団の両団長もよくわかっていた。
「そうだな……魔人を相手にするには部隊長レベルの実力が必須だ。それ以外は足手まといになる。黒牙はガリオットが欠けてしまっているし、せいぜい二体受け持つのが精々といったところか」
「悔しいですけれど、白翼の方も同じようなものですね」
「ちょっと……それじゃあ、残りの四体がフリーになっちゃうじゃない。分断させたところで好き勝手に行動させちゃ意味ないわ。どうするつもりなの?」
マリーネの問いに答える者はいなかった。
王国の戦力は何も騎士団や魔術師団だけではない。王都に在籍する兵士はおおよそ四千。国中から兵を召集すれば、一万はくだらない。
だが、一般兵の実力ではいくら数を揃えようとも、魔人に致命傷を与えることは叶わないだろう。魔人を相手にさせるということは、囮になって死ねと言うのと同義だ。
多数の命との引き換えが、いくばくかの時間を稼ぐことにしかならない。だが、その戦術をとらなければ勝ち目はない。
それがわかっているから、誰もそのことを口にしなかった。
「……もちろん冒険者にも協力要請をする。どれだけの人員が集まるかは未知数だが、我が国を愛する者は多いと聞く。必ずや力になってくれるだろう」
アムダルシア王が曖昧な言い方をしたのには理由がある。それは、冒険者という戦力が不安定なものであるからだ。
冒険者ギルドというのは、国が運営するものではなく、規模が全世界に及ぶ、世界最大の民間企業である。
なので、いくらアムダルシア王国に居を構えていようとも、国からの命令を聞くかはあくまで任意。遵守する義務はないのだ。
「冒険者か……この王都アニマにも魔人と戦えそうな奴が何人かいるな。特に、ギルドマスターである『閃剣』のエヴァン。今でこそ一線は退いているが、奴はかなりの実力者だ」
「そうね。それに、残念ながらウチの国にはいないけど、もしかしたらSランク冒険者を派遣してくれる可能性だってあるわ」
――Sランク冒険者。
全世界の腕自慢が集まる冒険者ギルドの中においてなお、飛び抜けた実力者にのみ与えられる称号だ。彼らは時代が時代なら『勇者』と称されていても過言ではない。
そんな者の協力が得られれば、勝利の可能性は、ぐんと高まるだろう。
「うむ、余もエヴァン君とは面識がある。彼ならばきっと協力要請を受けてくれるだろう」
「では、大まかな方針はこれで決まりですわね、陛下」
「そうだな。まずは国内各地から兵の召集、冒険者ギルドへの協力要請、物資の確保……その他諸々、やることは山積みだ。そう考えると一ヶ月は長いようで短い、すぐに動き始めるとしよう」
そう言って立ち上がったアムダルシア王の気勢をそぐかのように、セインがおずおずと挙手をした。
「……陛下、恐縮ですが、最後にひとつご相談がございます」
「――む、どうしたのだセイン」
「はっ、例の魔人を討伐したという証言についてです」
話が長くなりそうな気配を感じたアムダルシア王は、再び席に着く。
「ふむ……その件か。確かに失念していたな。しかし、魔人の討伐に関しては何の証拠もなかったのだろう?」
魔人からの宣戦布告のインパクトが強すぎたため、魔人を討伐したという報告については、アムダルシア王の頭から抜けてしまっていた。
「はい……ですが、その報告をしてきたのは私の優秀な部下のひとりです。彼女が虚言を吐くとは思えません。
そして、その彼女がこの場での具申を申し出ています。どうか彼女の話を聞いてはいただけませんでしょうか? もしかしたら今回の戦いの一助になるやもしれません」
「ふむ……お主がそこまで言うのであれば、余はかまわぬが……」
アムダルシア王は、ちらりとアリューゼとマリーネに目線を飛ばす。
一刻を争う状況であるため、反対意見があるのならば、いくらセインの頼みといえども後回しにする他ない。
「私は構わないわ。確かにその辺りのことは気になってたし」
「俺も構わん……が、もし戯れ言の類いで時間を無駄にした場合、貴様の部下であろうとも俺の手で斬り伏せるからな」
「……わかった、それでいい」
この場の全員の承諾を得られたのを確認した後、セインは手を鳴らした。
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