千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第四章 魔人襲撃

53.驚く器用貧乏

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「……さすがに一筋縄ではいかないか」

 俺は服に付着した砂埃を払いながら、上空に佇む魔人を見上げ、そう呟いた。
 一目見たときから感じていたが、やはりこの魔人は他と一線を画す実力者のようだ。

 【深淵領域】を用いた不意打ちを躱され、更には魔人の攻撃によって、スキルの効果を打ち消されてしまった。
 ……これは同じ手は通用しないと考えたほうがいいな。

「それに、あの技はなかなか厄介だ」

 奴がさっき使った広範囲を無差別に攻撃する技、あれは危険だ。
 さっきのように、俺個人へ向けられたのであればにそこまで強力なものではない。当たりそうな魔力球を捌けばいいだけだからな。
 だが、面制圧に優れたその技が軍隊や拠点へ向けられた場合、無類の強さを発揮することだろう。もとより逃がすつもりはないが、矛先が王都へ向く前に必ず倒さなければならない相手だ。

「お前……デモンズスキルを使っているな? いったい何者なのだ」

 ふと、上空の魔人から問いかけられる。

 何が目的だろう。時間稼ぎか?
 
「人間だよ。ただ器用貧乏なだけの、普通の人間だ」
「嘘を言うな。ただの人間がデモンズスキルを使えるわけがなかろう」
「嘘か本当か……そんな問答をするつもりはない。俺とあんたは敵同士だ、それならやるべきことは世間話なんかじゃないだろう?」
「フッ……それもそうか。これから死にゆく者の素性など、どうでもよかったな」

 そう言いながら魔人は高度を下げ、大地へと降り立った。
 そして、奴の身体を覆う魔力が爆発的に膨れ上がる。

「オォォォォォォッ!!」

 魔人が雄叫びを上げるとともに全身の筋肉が膨張し、身体が二回りは大きくなった。
 以前戦った魔人も同じような形態に変化していたが、そのときとは比べものにならないほどのプレッシャーを感じる。
 まあ、素の状態で前の魔人よりも強いのはわかっていたので、当然と言えば当然だが。

「これで終わりだと思うなよ? 五百年前の我では辿り着けなかった境地……見せてやろう」

 そう言った魔人の身体を覆っていた膨大な魔力が、どす黒いものへと変質する。
 通常の魔力は淡く光る半透明なオーラのように見えるのだが、あれはその真反対だ。
 粘っこく、光をも通さない。あれに触れただけで、すべてが腐食してしまうような、そんな危険性を感じ取った。

「どうだ……これぞ我ら魔人の中でも限られた者にしか使えない秘技、【魔神化】だ」
「魔神化……?」
「我にこの秘技を使わせたこと、誇りに思うがいい。さあ、ゆくぞ……!」

 魔人がそう宣言し、俺が剣を構えたその瞬間だった。
 十メートルは離れていたであろう距離が一瞬にして詰められ、魔人の顔が眼前に迫っていた。

「――っ!」

 魔人は俺の喉元へと手刀を振る。
 俺は身体を後ろに反らすことで、かろうじて躱すことに成功した。そして、魔人は逆の手を使い、同じく俺の喉元を目掛け手刀を振るう。

 相手の身体や足の位置は変わっていない。同じような攻撃なら避けるまでもないかと思ったが、次に来る手刀の先端には、さっきのどす黒い魔力が刃のようにして形成されていた。

 その長さは指一本ぶん程度と、注視していないと気付かないレベルの些細な変化だった。だが、同じ動作で俺の身体へと届くことを考えた、絶妙な長さだ。

「――ちぃっ!」

 正確に喉笛を掻っ切らんとする横一閃の手刀を、さらに身体を反らすことで回避する。
 余計な思考が入ったため、回避の際にややバランスを崩し、無理な体勢になってしまったので、ここはあえて背中から倒れるようにして身体を沈める。

 もちろん、そのまま地面へ倒れたらそこで大きな隙をさらすことになる。
 なので、俺は風魔法を背中側に発生させ、無理やりに身体を跳ね上げた。

「はぁっ!」

 起き上がりざまに剣で横一文字に斬りつけるが、切っ先が完全に見切られており、紙一重のところで回避されてしまった。
 そして、魔人は何かに納得したような表情で、三メートルほど後退した。

 この魔人、やはり強いな……そして、うまい。
 速度は今まで俺が戦った相手の中でも、間違いなく最速。無論、パワーも最高峰だ。
 そして、その優れた身体能力に驕ることなく磨き上げられた技のキレ。どれをとっても一流の戦士と言っていいだろう。
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