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第五話 誘い -2
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「まぁ、南方司令部がどうであれ、ここには三人しかいませんからね。そのくせ竜の数は国内でも多い方だから休みはほとんどありません。だから、飲みに行くのは無理です」
「じゃあ、食事とか……」
「夕方の給餌があるんで」
代替案をすぐさま断ると、シグルドはその整った眉を下げた。
その困ったような表情を見て、そんな顔をするくらいなら誘わなければいいのに、とルインは思う。
これだけ断っているのだから、よほどの馬鹿でなければ気づくはずだ。
――ルインはシグルドのことが好きではない。
出来るだけ距離を取りたいし、必要最低限の会話しかしたくない。
そう思って、態度にも出しているのだから、いい加減構ってくるのをやめて欲しい。
そんな思いを込めて睨むように見上げるのに、シグルドは気にしていない様子で柔らかく微笑んだ。
――ひょっとしたら、よっぽどの馬鹿で、気づいていないのかもしれない。
その笑顔を見てルインは少しだけそう思った。
それともなんだ。どこに行っても人気者のシグルドは、自分が嫌われているだなんて思いもしないのか。まぁ、ル インのこの感情は嫌いとは少し違うけれども。
人気者の思考回路が理解出来なくて、ルインは歯噛みした。けれど、やはり目の前の竜騎士はそんなルインの態度を気にした様子もなかった。
「じゃあ、一緒に遠乗りするのはどうだ?」
「……は?」
「ルインならアーベントも乗せてくれると思うんだ」
――この男、今何と言った?
酒宴や食事の誘いをつれなく断った相手に、シグルドは今度は遠乗りを提案してきた。
一瞬、その言葉が信じられなくて、ルインは瞬いた。
そして、おもわず頷いてしまう。それはもう、自分でも悔しくなるくらいあっさりとルインは頷いた。関わりたく ないと頑なだった態度からは考えられないくらいのあっさり具合だった。
だって仕方がないだろう。シグルドはあのカタストローフェ種に乗せてくれると言っているのだ。
竜師として竜の世話をしていても、竜自体に乗ることは滅多にない。調教中の竜に、人を覚えさせるために乗ることはあるが、それを繰り返すことはしないのが竜師だった。
気高く人に慣れない竜を無理やり調教し、騎竜とする。竜は賢いため、ある程度はそれで言うことを聞くようにな る。けれどもやはり、自らが認めた相手だけに追従し、たったひとりだけをその背中に乗せた。だからこそ、竜は美 しく人々の憧憬を集めるのだ。
竜が好きで、竜に憧れて竜師となったルインからすれば、シグルドの誘いは垂涎ものだった。
「レオン」と同じ魂を持つシグルドと関わりたくないという気持ちよりも、希少なカタストローフェ種アーベントに 乗ってみたいと言う好奇心が勝ってしまった。
ルインがほとんど反射のように頷くと、シグルドはそれを見て嬉しそうに笑った。
青い瞳が細められて、眦に少しだけ皺が寄る。人好きがしそうなその笑みに、ルインは眉を寄せた。シグルドが浮かべた笑みが「レオン」と似ている気がして、何となく嫌だと思ったからだった。
「じゃあ、食事とか……」
「夕方の給餌があるんで」
代替案をすぐさま断ると、シグルドはその整った眉を下げた。
その困ったような表情を見て、そんな顔をするくらいなら誘わなければいいのに、とルインは思う。
これだけ断っているのだから、よほどの馬鹿でなければ気づくはずだ。
――ルインはシグルドのことが好きではない。
出来るだけ距離を取りたいし、必要最低限の会話しかしたくない。
そう思って、態度にも出しているのだから、いい加減構ってくるのをやめて欲しい。
そんな思いを込めて睨むように見上げるのに、シグルドは気にしていない様子で柔らかく微笑んだ。
――ひょっとしたら、よっぽどの馬鹿で、気づいていないのかもしれない。
その笑顔を見てルインは少しだけそう思った。
それともなんだ。どこに行っても人気者のシグルドは、自分が嫌われているだなんて思いもしないのか。まぁ、ル インのこの感情は嫌いとは少し違うけれども。
人気者の思考回路が理解出来なくて、ルインは歯噛みした。けれど、やはり目の前の竜騎士はそんなルインの態度を気にした様子もなかった。
「じゃあ、一緒に遠乗りするのはどうだ?」
「……は?」
「ルインならアーベントも乗せてくれると思うんだ」
――この男、今何と言った?
酒宴や食事の誘いをつれなく断った相手に、シグルドは今度は遠乗りを提案してきた。
一瞬、その言葉が信じられなくて、ルインは瞬いた。
そして、おもわず頷いてしまう。それはもう、自分でも悔しくなるくらいあっさりとルインは頷いた。関わりたく ないと頑なだった態度からは考えられないくらいのあっさり具合だった。
だって仕方がないだろう。シグルドはあのカタストローフェ種に乗せてくれると言っているのだ。
竜師として竜の世話をしていても、竜自体に乗ることは滅多にない。調教中の竜に、人を覚えさせるために乗ることはあるが、それを繰り返すことはしないのが竜師だった。
気高く人に慣れない竜を無理やり調教し、騎竜とする。竜は賢いため、ある程度はそれで言うことを聞くようにな る。けれどもやはり、自らが認めた相手だけに追従し、たったひとりだけをその背中に乗せた。だからこそ、竜は美 しく人々の憧憬を集めるのだ。
竜が好きで、竜に憧れて竜師となったルインからすれば、シグルドの誘いは垂涎ものだった。
「レオン」と同じ魂を持つシグルドと関わりたくないという気持ちよりも、希少なカタストローフェ種アーベントに 乗ってみたいと言う好奇心が勝ってしまった。
ルインがほとんど反射のように頷くと、シグルドはそれを見て嬉しそうに笑った。
青い瞳が細められて、眦に少しだけ皺が寄る。人好きがしそうなその笑みに、ルインは眉を寄せた。シグルドが浮かべた笑みが「レオン」と似ている気がして、何となく嫌だと思ったからだった。
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