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認定魔験
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風は若干冷たいが、その分、日差しの暖かさが心を緩めてくれる。
一日以上も眠っていたとはいえ、早く起き過ぎたのがいけなかったのか、眠気との闘いにあっさりと屈服してしまった。
馬車の心地好い振動と、隣に座っているケモの匂い。
……たとえ、売られていく羊のような気分だったとしても、今だけは心安らかに過ごしたい。
「おや、起きたのかい?」
「はい。朝早くから来てくれたのに、馭者まで任せてしまった。申し訳ない」
「はは、構わないよ。今はまだ、マホマール様の部署は忙しくないから。炎竜祭のあと、グリングロウ国が魔法を国是としたら、人を増やさないといけないくらい大童になりそうだけど」
初老の男は、マホマールの補佐の一人だ。
マホマールの命令で「名誉審査官」である僕を、竜地である暗黒竜まで運んでくれている。
この先のことを考えると、わずかでも情報が欲しいので男に話し掛ける。
「失礼な言い方になるかもしれないがーー。ダニステイルらしくない」
「残念ながら、私には魔法の才能がなくてね。魔法を諦めた頃、大失恋までしてしまって。ーー三周期。休眠期の竜のようになってたら、先代の纏め役が一冊の本を置いていった。それはね、魔法の歴史ーー魔法史に関する著書だったんだ。それから三十周期以上、『魔史の番人』と呼ばれるくらい魔庫に入り浸ってたら、ーーマホマール様の苦労がわかるようになってた、というわけだね」
「もしかして、先代の纏め役とは『暗黒大魔公』ーー『暗公』なのか?」
「おやおや、『暗公』様を知ってるのかい?」
仕舞った。
男の顔が、半分ほどダニステイルの色に染まってしまった。
先程の語り口から、意外に口数が多いことがわかる。
このままだと、「暗公」の素晴らしさを暗黒竜に着くまで延々と聞かされる破目になる。
「暗黒竜が、見えてきた」
「竜地に被害が出るかもしれないから、認定魔験は外でやるんだよ。もう会場に着くから、使い魔を起こしてあげな」
「わかった。ケモ」
「……ケモ? ケモ……っ」
幸いにも、「暗公賛歌」は聞かずに済んだようだ。
耳元で声を掛けたのが悪かったのか、ケモは擽ったそうに両手で耳を倒した。
ケモの横には背負い袋。
昨日、僕は寝っ放しだったので、ホーエルと皆が一緒に、それだけでなくケモも手伝って作ったようだ。
まだ「ケモ箱」とワーシュが作ったお菓子しか入っていないが、荷物は少しずつ増えていくだろう。
微笑ましく僕たちを見ていた男だったがーー。
「ーー気を、強く持つんだよ」
馬車が停止すると。
男の、切実さを孕んだ、助言。
売られていく羊を見る目。
「ケモ?」
大丈夫。
ケモが一緒に居てくれれば、僕は大丈夫。
男の助言に、一つ頷いてから、僕とケモは馬車から降りた。
ーー前途多難。
竜も逃げ出すくらい、大丈夫ではないことを僕は悟ったのだった。
「我らっ、『五天魔官』っっ!!」
「正義は退けっ、悪は退けっ、ただただ魔の鉄槌こそが真実っっ!!」
「『名誉審査官』たる貴公を歓迎っ、大歓迎っっ!!」
「使い魔一緒に恙なくっ、我らと共に大審査っ!!」
「今宵の魔酒はっ、我らの門出っ、祝いの酒ぞっっ!!」
脳が現実を拒否しそうになったが、僕はここまで遣って来た理由を頭から引き摺り出して、ケモに伝える。
「……ケモ。お願い」
「ケモ!」
恐らく、ダニステイルの重鎮。
最も濃い部分の、五人の審査官ーー「五天魔官」。
彼らの惨状、ではなく参上の文句は、精神衛生上、耳を素通りさせる。
僕は、彼らの謎舞踊を見て、予測。
ケモに伝えた上で、「五天魔官」と時機を合わせる。
「轟誕っっ!!」
「ケモっっ!!」
ケモと一緒に決めポーズ。
ケモは凄い。
ちょうど僕と、鏡映しになったようにポーズを決めていた。
「五天魔官」が仰天する。
決めポーズだけでなく、決め台詞まで「五天魔官」と同一だったからだ。
ミャンのことを考えながら何となくやってみたのだが、上手くいってしまった。
成功して、嬉しくないけど、嬉しい。
「まさかまさかっ、ダニステイルの救世主がっ、轟誕っっ!!」
「今日は晴れるや晴れるかな晴れるともっ、ハレルヤっっ!!」
「『ダニステイルの婿』という噂はっ、まことなりっっ!!」
「天地は紡ぎしっ、遥かな星霜っ、我らの絆っ!!」
「未来は輝く光となりてっ、暗黒竜の夢となるっっ!!」
……キツイ。
ミャンや三人娘が遣る分には、まだ微笑ましく見ていられたが、老人たちまでイキイキと遣られると、キツイ上にイタイ……キツイタイ。
「ケモっ、ケモっ」
ケモが喜んでいることだけが救いだ。
そのお陰で、僕の精神も現実に留まっていられる。
「ところで。練達の魔法使いである皆さんが審査をする。それは星の光のように降り注ぐ祝福でもあると思う。であるなら、『五天魔官』より『五星魔光』のほうが適っていると思う」
あえて間違ったことを言って、彼らに窘められる。
そうやって彼らを上に、上機嫌にさせることで、物事が上手く運ぶようにしたのだが。
「なん……だとっっ!!」
「まさ……しくっっ!!」
「てき……かくっっ!!」
「かん……ぺきっ!! ……くっ!」
四人目の老人が突然、膝を突いた。
桎梏に揺れるその表情は、絶望に喘いでいた。
「……不甲斐ないことじゃ。魂に衰えはなくも、この体が付いて来んのじゃ。これ以上、皆の足を引っ張るわけにはいかん。ーー今回でわしは、『五星魔光』を引退するのじゃ」
僕は、こんなにも綺麗な涙を見たのは、初めてだったかもしれない。
そんなこと口にしたら、またおかしな誤解を受けることになるかもしれないので、黙って「五星魔光」の引退劇を観覧した。
他の四人から、またぞろミャンを彷彿とさせる「聖語」が垂れ流されているが、なるべく頭で認識しないようにする。
確かに、四人目の老人は、他の人に比べて少しだけ勢いがなかった。
彼らなりの美学というか、そういうものがあって。
ある意味、それだけ真剣に向き合っていることの証左なのだろう。
「ケモ?」
「うん、僕は大丈夫。心配してくれてありがとう、ケモ」
「ケモっ、ケモっ」
ケモが居てくれて、本当に良かった。
ケモと手を繋いで、肉球の感触に集中しているとーー。
「どうしたのじゃ?」
周囲には、引退老審査官しか居なかった。
僕がケモの肉球で楽しんでいる内に、それぞれの審査場所に向かったようだ。
「いえ、何でもありません」
「ケモ~」
出鼻を挫かれた、というか、竜に踏み潰された、という感じだが、獣が居るので回復、と馬鹿なことを考えている場合ではない。
呼吸一つで切り替える。
冊子の地図で見たよりも竜の都と竜地の距離は近いので、遠目に都の姿。
前方には暗黒竜。
竜の都と反対側には森が広がっている。
手付かずの森といった印象で、僕たちはその前にーー入り口に居た。
恐らく、ここが第一の審査場所なのだろう。
「おっと、仕舞った。椅子が一つ、足りなかったのじゃ」
「それは大丈夫、かな?」
「ケモ……、ケモ!」
以前より深く繋がっているので、特に意識せず聞いてみると、力強くケモが答えてくれる。
僕が椅子に座ると、そんなに慌てなくてもいいのに、膝の上にぴょんっと飛び乗った。
ケモが抱えていた背負い袋を、横長の机の上に置いてあげる。
「それで、僕とケモは『名誉審査官』ということだが、何をすればいいのか教えて欲しい」
「ケモ、ケモ?」
マホマールからお願いされて暗黒竜まで遣って来たが、それ以外には何も知らされていない。
ミャンと、それからリャナの合格を、「雷爪の傷痕」から祈るーーはずだったのだが、まさか本拠地に乗り込む破目になるとは。
マホマールがリシェ並みに厄介な存在なら、きっと僕は、暗黒竜に足を踏み入れることになるかもしれない。
「おっと、自己紹介がまだじゃったな、アーシュ君に、ケモ。わしは長老のヴァンじゃ。長老というのは、纏め役とは違う、派閥の代表者のようなものじゃ」
「リャナとミャンが言っていた。『正統派』や『自然派』?」
「ケモ、ケモ、ケモノ?」
「先程の五人は皆、長老で、『長老衆』ということじゃなーーと、『名誉審査官』の説明をせねばの」
ヴァンは立派な顎髭を扱きながら、説明を始めた。
「ふむ。『名誉審査官』というのは、昔にあった制度なのじゃ。南に篭もってからは、無くなっていたのじゃがな。外側からでなければ、わからぬこともある。アーシュ君とケモには、ダニステイルに相応しくない者、を見極めて欲しいのじゃ」
「相応しくない?」
「そこは堅苦しく考えなくて良いのじゃ。『あ、こ奴は駄目じゃ』と思ったら、✕。『問題なしじゃな』だったら、〇。それで良い」
「ーーもしかして、僕かケモが✕を付けたら、試験の得点がどれだけ良くても、合格しない?」
「ケモ、ケモっ」
「ふぉっふぉっふぉっ、理解が早くて助かるのじゃ」
これはまた、とんでもない役目を押し付けられた。
ダニステイルにとって、「魔法使い」の称号を得ることは、掛け値なしに重要なことだろう。
それこそ、人生を左右し兼ねないほどに。
ミャンの真っ直ぐな眼差しを見ていればわかる。
リャナの苦闘を見てきたからわかる。
なるほど。
マホマールは、部外者には何も呉れてやる気はないらしい。
そういう意味では、リシェは甘い。
リシェとマホマールーーどちらも善意。
ようやく理解する。
僕にとっては、リシェのほうが厄介だが、マホマールのほうは怖い。
理解出来てしまう分だけ、マホマールの怖さがわかってしまう。
「これが今回の認定魔験の名簿じゃ」
「あ、はい」
ヴァンが紙を差し出してきたので、反射的に受け取った。
ケモの前に持っていって、紙に記された名前を一緒に見るとーー。
「ケモ~」
「ケモ。審査は厳正にね」
「ケモ、ケモ」
ケモと喜びを共有して、緊張して硬くなっていた体が解れる。
「さて。一人目が来たのじゃ」
「ケモ、ケモ~」
ケモが教えてくれる。
ほんのわずかな違和感。
ケモが教えてくれなければ、「隠蔽」を使っていることに気付けなかっただろう。
一人目ーーマーコ・シュリエという女性は、ワーシュと同等かそれ以上の実力者ということだ。
「水の壁?」
「ケモ」
ケモが言うには、普通の「水壁」らしい。
「隠蔽」と「水壁」の併行魔法だが、どちらも問題なく使い熟している。
「隠蔽」を解法したのか、横回転するシュリエは背中から「水壁」を通り抜けた。
そして。
杖を抱き締めて、片手を腰にーー魅惑のポーズ。
「水壁」を通り抜けたので、服はビショビショ。
薄手の白い服を着ていたので、透けてしまっている。
腰まで届く金髪と、肉感的な容姿。
ケモの目の前に手を持っていって隠そうかと思ったが、シュリエは重要な部分は厚手の布で隠していた。
「ケモ?」
そうだった。
ケモは獣だった。
人間の裸を見ても、何も感じないだろう。
周期が下の女性が好みなので、シュリエには惹かれないが、彼女が魅力的なのはわかる。
特段、美人というわけではないが、彼女の健やかな内面がシュリエを飾り立てている。
ヴァンが紙に書き込んでいたので見てみると。
+5、と書かれていた。
「名誉ある一人目の魔験者っ、『踊り魔子』とはこの私っっ!!」
シュエリは踊りながら「聖語」を描いていく。
「踊り魔子」というのは自称なのだろうか。
いまいち、などと失礼なことを考えていたら、-2、とヴァンは厳しい審査。
加点されたと勘違いしたらしいシュリエは、更に調子を上げて「参上」の口上を述べながら魔法を行使した。
「水壁」が弾け飛ぶと、水が氷に。
その氷が弾けると、純白の背景がシュリエを艶やかに彩る。
+3。
魔法の難度としては高くないのか案外、辛めの採点だった。
更に、+3。
「ケモ~、ケモ~」
ケモが大喜びで両手を振ると、シュリエは笑顔で手を振り返した。
作り笑いではなく、裏表のない、本物の笑顔。
僕は、マーコ・シュリエの名を、〇で囲った。
「ケモ、ケモ」
ケモは心得顔で頷いていたし、ヴァンも好好爺の笑みを浮かべていたので、これでいいようだ。
「他の四箇所とは違い、ここではアピールが許されているのじゃ。魔法だけが、『魔法使い』を輝かせるわけではないからの。あとは装備品などの相性を見るのじゃ」
「私は魔力量には自信があるのよ。だからここでも魔法をたくさん使っているわ」
ヴァンが説明してくれると、初めての魔験ではないのか、慣れた様子でシュリエが教えてくれる。
先程の、最後の+3は、魔力量への評価らしい。
シュリエが杖を振ると、白だった服が黒に。
どこから取り出したのか、外套を纏って三角帽子を被る。
正しく「魔法使い」になるシュリエ。
アピールが終わって、ここからが本番ということだろう。
「杖を」
「はい」
ヴァンの要請に、シュリエは魔力を以て応える。
杖に注がれる魔力。
+6。
僕にはわからないが、シュリエと杖の相性は抜群らしい。
「ケモ、ケモ?」
「え? 杖の中に杖?」
僕がケモの疑問を口にすると、驚く二人。
ヴァンが頷くと、シュリエは口を開いた。
「ケモちゃん、凄いわ。この杖の中には、子供の頃に使っていた杖が入っているのよ。半分の大きさに削って、外側から新しい杖で覆う。この『魔子ちゃん』はそれを二回繰り返しているわ」
「それは特殊な事例のように思える。『強化』を目的としているのではなく、止むを得ずそうしたような、ーー新しい杖と馴染まなかった?」
「ーー恐れ入ったわ、『名誉審査官』殿。さすが纏め役の推薦だけのことはあるわね。外部の人間と、侮っていたことの非礼をお詫び致します」
仕舞った。
好奇心から、また余計なことを言ってしまった。
僕が褒められて嬉しいのか、膝上のケモはにっこり。
後悔獣も笑うーーと造語を作ったので、色々と諦めることにした。
「発達段階で、通常は二度、杖を持ち替えるのよ。でも、私は、どうしても、どうやっても新しい杖とは馴染めなかった。これは賭けだったわ。いずれ新しい杖と出逢えるかもしれない。『魔子ちゃん』を使い続ければ、これ以上の進歩はないけど、魔法は使える。『魔子ちゃん』を媒介にして失敗すれば、魔法を使うことすら難しくなるーー」
シュリエは杖を握り締めて、嘗て決断した熱情を詳らかにした。
「それでもっ、私は『魔法使い』になることをっ、自分の夢から目を背けることなんて出来なかったのよっっ!!」
+1。
本当は、付けてはいけない加点。
それでも、ヴァンの手は動いてしまった。
動かしたのは、シュリエ。
「シュリエよ。魔に誓い、魔に囁き、魔に唄うべく、『聖語』にて祝福をーー」
「ここに誓う。魔の道を窮めるべく、私の魂と魔力に誘いを」
「聖語」、一文字。
恐らく、決意の、誓いの「聖語」。
魔力の余韻を散らして、シュリエは森にーー新たな試練に立ち向かっていく。
「……ケモ」
ケモは祈った。
シュリエが合格することではなく、彼女が全力を出せることを。
僕もケモと同じだ。
審査官だから、誰かを贔屓することなんて出来ない。
ケモと一緒に、彼女の道行き幸あれ、と祈る。
「ららららららららっ、ライルさん!? ななっ、な何でここにっ?!」
「ケモ~」
「ギィ~っ」
二番目の魔験者は、リャナ。
先程、名簿を見て僕とケモが喜んだのは、そこにリャナの名が記されていたからだ。
ケモとギル様が和やかに挨拶を交わすのを尻目に、リャナは三角帽子を掴んでしゃがんでしまった。
「いーやーっ! いーやーっ!」
「ギィー」
頭をブンブンと振って、拒絶するリャナ。
ギル様は慣れた様子で、三角帽子の上で転がっていた。
リャナの「いやんいやん」。
これまで何度も見てきた光景だが、魔験会場でやるのは上手くない。
-1。
消極的な姿勢が影響を与えてしまったようだ。
これは、もしかしなくても、僕の所為なのだろうか。
リャナの為にーーいや、これは僕の偽善だ。
ここのところ、彼女に冷淡に接してきたから、嫌われてしまったのかもしれない。
不意にーー痛みが。
皆とーー仲間とも違う、この感覚。
「ああ、そうか。これが『特別』というものなのかもしれない」
「ケモ、ケモ~」
ケモに続いて、二つ目の「特別」。
「大切」とは若干異なる、背中を押されているような、不思議な心地。
「ギィ~~っっ!!」
突如、耳障りなギル様の大きな叫び声。
どうやら、しゃがんだまま動かなくなっていたリャナに発破を掛けたらしい。
「っ……」
リャナは、シュリエと同じく「魔法使い」の恰好をしていた。
普通の三角帽子に、地味な服装。
外套も暗色で。
服装が違うだけで、いつもより幼く見えてしまうから不思議だ。
「ギィ~~っっ!!」
「……っ」
覚悟が決まったのか、リャナから温かな波動。
彼女の魔力は強い。
優しく、僕に触れてくる。
「魔触」を使いたい衝動に駆られる。
掻き毟りたくなるような想いに耐えていると、ーー僕に背を向けていたリャナの外套が鮮やかな若草色に変化した。
外套の端には、みーの外套と同じく、草のような、風のような文様。
リャナは小指と薬指、中指と人差し指をくっ付けて。
親指を含めた三つの指先で「聖語」を描いていた。
「ーーほう、いきなり『三指』とはの。しかも速く丁寧、且つ正確無比ときた。『正統派』の『至魔』の名は伊達ではないようじゃ」
ヴァンの言い様からすると、彼は「自然派」のようだ。
採点に影響がーーと思ったが、これはヴァンに失礼だ。
魔に誓って、彼は手心など加えない。
「ケモ~、ケモ~」
「ギギィ~っ!」
こちらは「名誉審査官」であることも忘れて、リャナを応援するケモ。
三角帽子にくっ付いたギル様は、液体を噴射しつつ、帽子ごとリャナから離脱した。
元気爆裂、という感じて跳び上がったリャナは、クルクルと三回転してから地面に着地。
ばさぁ、と外套を腕で振り払うと、満面の笑顔で両手を空にーー。
「ふぁーう、りゃーちゃんっ、きょーはまけんうけにきたんだぞーっ!」
ギル様の液体と関係があるのか、リャナの背景は虹色だった。
虹のスクリーンに、映える肌色。
外套よりも濃い緑色。
両手を目一杯、上げているので、バッチリ見えてしまっている。
胸と腰に、踊り子が着るような薄手の布。
それを隠すような、ヒラヒラ。
それから。
自身の銀髪に合わせたのか、銀色の角。
角の位置は、みーではなくヴァレイスナを真似たようだ。
「ケモ~、ケモ~っ!」
「ギィ~~っっ!!」
惜しみない称賛を送るケモとギル様。
みーが着ていると、可愛らしい感じだったが、胸が膨らんでいる少女が着ると少々、煽情的だった。
周囲の景色が意味を失って。
吸い込まれるように、リャナに。
一人の少女の存在が、重たいようで軽く、心に響いてーー。
「ケモ、ケモ!」
「良い脚だ。とケモが言っている」
「いーやーっ! いーやーっ!」
リャナの空色の瞳が潤んだかと思ったら、限界突破。
ギル様から三角帽子を奪い取って、しゃがみ込んだ瞬間に、爆発するように立ち上がって全力で逃走を開始するリャナ。
引き締まった、見た目通りの脚から生じる瞬発力。
+8。
+10。
-1。
ヴァンの手が迷いなく動いて、採点。
8点は、魔法に対する評価。
10点は、「物真似なみー」で、1点減点されたのは、最後まで遣り切らなかったからだろう。
ここでもまた、僕が足を引っ張ってしまう。
僕が居なければ、羞恥心を覚えつつも、リャナは最後まで遣り切ったはず。
「ふむ。では、戻ってくるまでに、使い魔から始めるかの」
「ギ…ギィー」
「ケモ、ケモ」
使い魔ではないが、我が盟友の為に一時の恥辱を受け容れてやろう。
ギル様の言葉を、ケモが伝えてくれる。
リャナが戻ってくるまでに、もう少し掛かるようなのでヴァンに尋ねる。
「ダニステイルでも使い魔を従える者は居ないと聞いたが、そうなのか?」
「幾つかあるの。先ず、使い魔との意思疎通の問題じゃ。言葉が通じないだけでなく、価値観も異なるのだから、人にとっては重荷となるのじゃ。他に厄介なのが、生存本能とも言うべき、抵抗力。人は理性を持つ所為かの、根本的なところで使い魔の意力に敵わんのじゃ。使い魔にしようとし、逆に乗っ取られ、廃人となった者もおる」
「リャナとギル様は問題ない?」
「ふぉっふぉっふぉっ、問題ないともさ。何せ、ギル様は、リャナ・シィリの使い魔ではないからの」
「ギィー」
「ケモー」
バレてたか、と落胆する一獣と一毛玉。
「それどころか、状態としては、シィリのほうがケモ様の使い魔となっているようじゃ」
「ギ…ィ?」
「ケ…モ?」
驚愕するケモとギル様の前で、ヴァンは笑みを深める。
「ふぉっふぉっふぉっ、あまり『ダニステイル』を嘗めぬことじゃ。ギル様は、使い魔であるシィリを、魔力で手助けしようと考えていたかもしれんが、逆効果じゃ」
「ーー一時的に魔力が増したとしても、それを扱えなければ意味はない。特に、繊細な魔力操作が肝となるリャナには、乱れ、の要因ともなり兼ねない」
「さすが婿殿。仰る通りじゃ」
婿、の上にせめて「ダニステイル」を付けて欲しい。
既成事実を作られているような危機感と、近日中に竜の国を出国する罪悪感とが同居する。
-1。
-1。
深刻な葛藤を乗り越えたのか、「魔法使い」の恰好のリャナがやっとこ戻ってくる。
リャナは、チラチラと僕を見てくるので、彼女のやる気の為にも伝えておくことにする。
「見惚れてしまった。リャナは綺麗だという印象だが、先程のリャナは可愛いと同時に、魅力的でもあった」
「っ……」
おかしい。
本心を吐露したら、何故かリャナが持病を発症してしまった。
ギル様が三角帽子の前に乗って、帽子を傾けてリャナの表情を隠す。
「ギィー」
「ケモー」
場所を弁えろ、とケモとギル様が言ってきた。
+1。
何故か、孫の成長を見守るような顔で加点するヴァン。
「杖を」
「はい」
獣にも毛玉にも、ここからが本番。
ヴァンの要請に、リャナは魔力を以て応える。
杖に注がれる魔力。
ーーシュリエのときは、ここで、+6、となったが、ヴァンの手は動かない。
「その杖は、ユミファナトラ様から戴いたという『地竜の杖』じゃな?」
「はい。……『地竜の杖』です」
「地竜の杖」は、リャナと三人娘の、四本ある。
固有名詞としなかったからなのか、リャナが答えに窮したからなのか、-1。
それから、+9。
ユミファナトラも認めたように、「地竜の杖」との相性は格別だったようだ。
「シィリよ。魔に誓い、魔に囁き、魔に唄うべく、『聖語』にて祝福をーー」
「ここに誓います。新たなる魔を窮めるべく、あたしの魂と魔力に導きを」
「聖語」、一文字。
シュリエとは異なる、決別の、予兆の「聖語」。
リャナの背中。
遠ざかっていくことに耐え切れず、ケモと手を繋ぐ。
「ケモ、ケモ」
「うん、リャナなら大丈夫」
森に消えるまで、僕はリャナから目を離すことが出来なかった。
一日以上も眠っていたとはいえ、早く起き過ぎたのがいけなかったのか、眠気との闘いにあっさりと屈服してしまった。
馬車の心地好い振動と、隣に座っているケモの匂い。
……たとえ、売られていく羊のような気分だったとしても、今だけは心安らかに過ごしたい。
「おや、起きたのかい?」
「はい。朝早くから来てくれたのに、馭者まで任せてしまった。申し訳ない」
「はは、構わないよ。今はまだ、マホマール様の部署は忙しくないから。炎竜祭のあと、グリングロウ国が魔法を国是としたら、人を増やさないといけないくらい大童になりそうだけど」
初老の男は、マホマールの補佐の一人だ。
マホマールの命令で「名誉審査官」である僕を、竜地である暗黒竜まで運んでくれている。
この先のことを考えると、わずかでも情報が欲しいので男に話し掛ける。
「失礼な言い方になるかもしれないがーー。ダニステイルらしくない」
「残念ながら、私には魔法の才能がなくてね。魔法を諦めた頃、大失恋までしてしまって。ーー三周期。休眠期の竜のようになってたら、先代の纏め役が一冊の本を置いていった。それはね、魔法の歴史ーー魔法史に関する著書だったんだ。それから三十周期以上、『魔史の番人』と呼ばれるくらい魔庫に入り浸ってたら、ーーマホマール様の苦労がわかるようになってた、というわけだね」
「もしかして、先代の纏め役とは『暗黒大魔公』ーー『暗公』なのか?」
「おやおや、『暗公』様を知ってるのかい?」
仕舞った。
男の顔が、半分ほどダニステイルの色に染まってしまった。
先程の語り口から、意外に口数が多いことがわかる。
このままだと、「暗公」の素晴らしさを暗黒竜に着くまで延々と聞かされる破目になる。
「暗黒竜が、見えてきた」
「竜地に被害が出るかもしれないから、認定魔験は外でやるんだよ。もう会場に着くから、使い魔を起こしてあげな」
「わかった。ケモ」
「……ケモ? ケモ……っ」
幸いにも、「暗公賛歌」は聞かずに済んだようだ。
耳元で声を掛けたのが悪かったのか、ケモは擽ったそうに両手で耳を倒した。
ケモの横には背負い袋。
昨日、僕は寝っ放しだったので、ホーエルと皆が一緒に、それだけでなくケモも手伝って作ったようだ。
まだ「ケモ箱」とワーシュが作ったお菓子しか入っていないが、荷物は少しずつ増えていくだろう。
微笑ましく僕たちを見ていた男だったがーー。
「ーー気を、強く持つんだよ」
馬車が停止すると。
男の、切実さを孕んだ、助言。
売られていく羊を見る目。
「ケモ?」
大丈夫。
ケモが一緒に居てくれれば、僕は大丈夫。
男の助言に、一つ頷いてから、僕とケモは馬車から降りた。
ーー前途多難。
竜も逃げ出すくらい、大丈夫ではないことを僕は悟ったのだった。
「我らっ、『五天魔官』っっ!!」
「正義は退けっ、悪は退けっ、ただただ魔の鉄槌こそが真実っっ!!」
「『名誉審査官』たる貴公を歓迎っ、大歓迎っっ!!」
「使い魔一緒に恙なくっ、我らと共に大審査っ!!」
「今宵の魔酒はっ、我らの門出っ、祝いの酒ぞっっ!!」
脳が現実を拒否しそうになったが、僕はここまで遣って来た理由を頭から引き摺り出して、ケモに伝える。
「……ケモ。お願い」
「ケモ!」
恐らく、ダニステイルの重鎮。
最も濃い部分の、五人の審査官ーー「五天魔官」。
彼らの惨状、ではなく参上の文句は、精神衛生上、耳を素通りさせる。
僕は、彼らの謎舞踊を見て、予測。
ケモに伝えた上で、「五天魔官」と時機を合わせる。
「轟誕っっ!!」
「ケモっっ!!」
ケモと一緒に決めポーズ。
ケモは凄い。
ちょうど僕と、鏡映しになったようにポーズを決めていた。
「五天魔官」が仰天する。
決めポーズだけでなく、決め台詞まで「五天魔官」と同一だったからだ。
ミャンのことを考えながら何となくやってみたのだが、上手くいってしまった。
成功して、嬉しくないけど、嬉しい。
「まさかまさかっ、ダニステイルの救世主がっ、轟誕っっ!!」
「今日は晴れるや晴れるかな晴れるともっ、ハレルヤっっ!!」
「『ダニステイルの婿』という噂はっ、まことなりっっ!!」
「天地は紡ぎしっ、遥かな星霜っ、我らの絆っ!!」
「未来は輝く光となりてっ、暗黒竜の夢となるっっ!!」
……キツイ。
ミャンや三人娘が遣る分には、まだ微笑ましく見ていられたが、老人たちまでイキイキと遣られると、キツイ上にイタイ……キツイタイ。
「ケモっ、ケモっ」
ケモが喜んでいることだけが救いだ。
そのお陰で、僕の精神も現実に留まっていられる。
「ところで。練達の魔法使いである皆さんが審査をする。それは星の光のように降り注ぐ祝福でもあると思う。であるなら、『五天魔官』より『五星魔光』のほうが適っていると思う」
あえて間違ったことを言って、彼らに窘められる。
そうやって彼らを上に、上機嫌にさせることで、物事が上手く運ぶようにしたのだが。
「なん……だとっっ!!」
「まさ……しくっっ!!」
「てき……かくっっ!!」
「かん……ぺきっ!! ……くっ!」
四人目の老人が突然、膝を突いた。
桎梏に揺れるその表情は、絶望に喘いでいた。
「……不甲斐ないことじゃ。魂に衰えはなくも、この体が付いて来んのじゃ。これ以上、皆の足を引っ張るわけにはいかん。ーー今回でわしは、『五星魔光』を引退するのじゃ」
僕は、こんなにも綺麗な涙を見たのは、初めてだったかもしれない。
そんなこと口にしたら、またおかしな誤解を受けることになるかもしれないので、黙って「五星魔光」の引退劇を観覧した。
他の四人から、またぞろミャンを彷彿とさせる「聖語」が垂れ流されているが、なるべく頭で認識しないようにする。
確かに、四人目の老人は、他の人に比べて少しだけ勢いがなかった。
彼らなりの美学というか、そういうものがあって。
ある意味、それだけ真剣に向き合っていることの証左なのだろう。
「ケモ?」
「うん、僕は大丈夫。心配してくれてありがとう、ケモ」
「ケモっ、ケモっ」
ケモが居てくれて、本当に良かった。
ケモと手を繋いで、肉球の感触に集中しているとーー。
「どうしたのじゃ?」
周囲には、引退老審査官しか居なかった。
僕がケモの肉球で楽しんでいる内に、それぞれの審査場所に向かったようだ。
「いえ、何でもありません」
「ケモ~」
出鼻を挫かれた、というか、竜に踏み潰された、という感じだが、獣が居るので回復、と馬鹿なことを考えている場合ではない。
呼吸一つで切り替える。
冊子の地図で見たよりも竜の都と竜地の距離は近いので、遠目に都の姿。
前方には暗黒竜。
竜の都と反対側には森が広がっている。
手付かずの森といった印象で、僕たちはその前にーー入り口に居た。
恐らく、ここが第一の審査場所なのだろう。
「おっと、仕舞った。椅子が一つ、足りなかったのじゃ」
「それは大丈夫、かな?」
「ケモ……、ケモ!」
以前より深く繋がっているので、特に意識せず聞いてみると、力強くケモが答えてくれる。
僕が椅子に座ると、そんなに慌てなくてもいいのに、膝の上にぴょんっと飛び乗った。
ケモが抱えていた背負い袋を、横長の机の上に置いてあげる。
「それで、僕とケモは『名誉審査官』ということだが、何をすればいいのか教えて欲しい」
「ケモ、ケモ?」
マホマールからお願いされて暗黒竜まで遣って来たが、それ以外には何も知らされていない。
ミャンと、それからリャナの合格を、「雷爪の傷痕」から祈るーーはずだったのだが、まさか本拠地に乗り込む破目になるとは。
マホマールがリシェ並みに厄介な存在なら、きっと僕は、暗黒竜に足を踏み入れることになるかもしれない。
「おっと、自己紹介がまだじゃったな、アーシュ君に、ケモ。わしは長老のヴァンじゃ。長老というのは、纏め役とは違う、派閥の代表者のようなものじゃ」
「リャナとミャンが言っていた。『正統派』や『自然派』?」
「ケモ、ケモ、ケモノ?」
「先程の五人は皆、長老で、『長老衆』ということじゃなーーと、『名誉審査官』の説明をせねばの」
ヴァンは立派な顎髭を扱きながら、説明を始めた。
「ふむ。『名誉審査官』というのは、昔にあった制度なのじゃ。南に篭もってからは、無くなっていたのじゃがな。外側からでなければ、わからぬこともある。アーシュ君とケモには、ダニステイルに相応しくない者、を見極めて欲しいのじゃ」
「相応しくない?」
「そこは堅苦しく考えなくて良いのじゃ。『あ、こ奴は駄目じゃ』と思ったら、✕。『問題なしじゃな』だったら、〇。それで良い」
「ーーもしかして、僕かケモが✕を付けたら、試験の得点がどれだけ良くても、合格しない?」
「ケモ、ケモっ」
「ふぉっふぉっふぉっ、理解が早くて助かるのじゃ」
これはまた、とんでもない役目を押し付けられた。
ダニステイルにとって、「魔法使い」の称号を得ることは、掛け値なしに重要なことだろう。
それこそ、人生を左右し兼ねないほどに。
ミャンの真っ直ぐな眼差しを見ていればわかる。
リャナの苦闘を見てきたからわかる。
なるほど。
マホマールは、部外者には何も呉れてやる気はないらしい。
そういう意味では、リシェは甘い。
リシェとマホマールーーどちらも善意。
ようやく理解する。
僕にとっては、リシェのほうが厄介だが、マホマールのほうは怖い。
理解出来てしまう分だけ、マホマールの怖さがわかってしまう。
「これが今回の認定魔験の名簿じゃ」
「あ、はい」
ヴァンが紙を差し出してきたので、反射的に受け取った。
ケモの前に持っていって、紙に記された名前を一緒に見るとーー。
「ケモ~」
「ケモ。審査は厳正にね」
「ケモ、ケモ」
ケモと喜びを共有して、緊張して硬くなっていた体が解れる。
「さて。一人目が来たのじゃ」
「ケモ、ケモ~」
ケモが教えてくれる。
ほんのわずかな違和感。
ケモが教えてくれなければ、「隠蔽」を使っていることに気付けなかっただろう。
一人目ーーマーコ・シュリエという女性は、ワーシュと同等かそれ以上の実力者ということだ。
「水の壁?」
「ケモ」
ケモが言うには、普通の「水壁」らしい。
「隠蔽」と「水壁」の併行魔法だが、どちらも問題なく使い熟している。
「隠蔽」を解法したのか、横回転するシュリエは背中から「水壁」を通り抜けた。
そして。
杖を抱き締めて、片手を腰にーー魅惑のポーズ。
「水壁」を通り抜けたので、服はビショビショ。
薄手の白い服を着ていたので、透けてしまっている。
腰まで届く金髪と、肉感的な容姿。
ケモの目の前に手を持っていって隠そうかと思ったが、シュリエは重要な部分は厚手の布で隠していた。
「ケモ?」
そうだった。
ケモは獣だった。
人間の裸を見ても、何も感じないだろう。
周期が下の女性が好みなので、シュリエには惹かれないが、彼女が魅力的なのはわかる。
特段、美人というわけではないが、彼女の健やかな内面がシュリエを飾り立てている。
ヴァンが紙に書き込んでいたので見てみると。
+5、と書かれていた。
「名誉ある一人目の魔験者っ、『踊り魔子』とはこの私っっ!!」
シュエリは踊りながら「聖語」を描いていく。
「踊り魔子」というのは自称なのだろうか。
いまいち、などと失礼なことを考えていたら、-2、とヴァンは厳しい審査。
加点されたと勘違いしたらしいシュリエは、更に調子を上げて「参上」の口上を述べながら魔法を行使した。
「水壁」が弾け飛ぶと、水が氷に。
その氷が弾けると、純白の背景がシュリエを艶やかに彩る。
+3。
魔法の難度としては高くないのか案外、辛めの採点だった。
更に、+3。
「ケモ~、ケモ~」
ケモが大喜びで両手を振ると、シュリエは笑顔で手を振り返した。
作り笑いではなく、裏表のない、本物の笑顔。
僕は、マーコ・シュリエの名を、〇で囲った。
「ケモ、ケモ」
ケモは心得顔で頷いていたし、ヴァンも好好爺の笑みを浮かべていたので、これでいいようだ。
「他の四箇所とは違い、ここではアピールが許されているのじゃ。魔法だけが、『魔法使い』を輝かせるわけではないからの。あとは装備品などの相性を見るのじゃ」
「私は魔力量には自信があるのよ。だからここでも魔法をたくさん使っているわ」
ヴァンが説明してくれると、初めての魔験ではないのか、慣れた様子でシュリエが教えてくれる。
先程の、最後の+3は、魔力量への評価らしい。
シュリエが杖を振ると、白だった服が黒に。
どこから取り出したのか、外套を纏って三角帽子を被る。
正しく「魔法使い」になるシュリエ。
アピールが終わって、ここからが本番ということだろう。
「杖を」
「はい」
ヴァンの要請に、シュリエは魔力を以て応える。
杖に注がれる魔力。
+6。
僕にはわからないが、シュリエと杖の相性は抜群らしい。
「ケモ、ケモ?」
「え? 杖の中に杖?」
僕がケモの疑問を口にすると、驚く二人。
ヴァンが頷くと、シュリエは口を開いた。
「ケモちゃん、凄いわ。この杖の中には、子供の頃に使っていた杖が入っているのよ。半分の大きさに削って、外側から新しい杖で覆う。この『魔子ちゃん』はそれを二回繰り返しているわ」
「それは特殊な事例のように思える。『強化』を目的としているのではなく、止むを得ずそうしたような、ーー新しい杖と馴染まなかった?」
「ーー恐れ入ったわ、『名誉審査官』殿。さすが纏め役の推薦だけのことはあるわね。外部の人間と、侮っていたことの非礼をお詫び致します」
仕舞った。
好奇心から、また余計なことを言ってしまった。
僕が褒められて嬉しいのか、膝上のケモはにっこり。
後悔獣も笑うーーと造語を作ったので、色々と諦めることにした。
「発達段階で、通常は二度、杖を持ち替えるのよ。でも、私は、どうしても、どうやっても新しい杖とは馴染めなかった。これは賭けだったわ。いずれ新しい杖と出逢えるかもしれない。『魔子ちゃん』を使い続ければ、これ以上の進歩はないけど、魔法は使える。『魔子ちゃん』を媒介にして失敗すれば、魔法を使うことすら難しくなるーー」
シュリエは杖を握り締めて、嘗て決断した熱情を詳らかにした。
「それでもっ、私は『魔法使い』になることをっ、自分の夢から目を背けることなんて出来なかったのよっっ!!」
+1。
本当は、付けてはいけない加点。
それでも、ヴァンの手は動いてしまった。
動かしたのは、シュリエ。
「シュリエよ。魔に誓い、魔に囁き、魔に唄うべく、『聖語』にて祝福をーー」
「ここに誓う。魔の道を窮めるべく、私の魂と魔力に誘いを」
「聖語」、一文字。
恐らく、決意の、誓いの「聖語」。
魔力の余韻を散らして、シュリエは森にーー新たな試練に立ち向かっていく。
「……ケモ」
ケモは祈った。
シュリエが合格することではなく、彼女が全力を出せることを。
僕もケモと同じだ。
審査官だから、誰かを贔屓することなんて出来ない。
ケモと一緒に、彼女の道行き幸あれ、と祈る。
「ららららららららっ、ライルさん!? ななっ、な何でここにっ?!」
「ケモ~」
「ギィ~っ」
二番目の魔験者は、リャナ。
先程、名簿を見て僕とケモが喜んだのは、そこにリャナの名が記されていたからだ。
ケモとギル様が和やかに挨拶を交わすのを尻目に、リャナは三角帽子を掴んでしゃがんでしまった。
「いーやーっ! いーやーっ!」
「ギィー」
頭をブンブンと振って、拒絶するリャナ。
ギル様は慣れた様子で、三角帽子の上で転がっていた。
リャナの「いやんいやん」。
これまで何度も見てきた光景だが、魔験会場でやるのは上手くない。
-1。
消極的な姿勢が影響を与えてしまったようだ。
これは、もしかしなくても、僕の所為なのだろうか。
リャナの為にーーいや、これは僕の偽善だ。
ここのところ、彼女に冷淡に接してきたから、嫌われてしまったのかもしれない。
不意にーー痛みが。
皆とーー仲間とも違う、この感覚。
「ああ、そうか。これが『特別』というものなのかもしれない」
「ケモ、ケモ~」
ケモに続いて、二つ目の「特別」。
「大切」とは若干異なる、背中を押されているような、不思議な心地。
「ギィ~~っっ!!」
突如、耳障りなギル様の大きな叫び声。
どうやら、しゃがんだまま動かなくなっていたリャナに発破を掛けたらしい。
「っ……」
リャナは、シュリエと同じく「魔法使い」の恰好をしていた。
普通の三角帽子に、地味な服装。
外套も暗色で。
服装が違うだけで、いつもより幼く見えてしまうから不思議だ。
「ギィ~~っっ!!」
「……っ」
覚悟が決まったのか、リャナから温かな波動。
彼女の魔力は強い。
優しく、僕に触れてくる。
「魔触」を使いたい衝動に駆られる。
掻き毟りたくなるような想いに耐えていると、ーー僕に背を向けていたリャナの外套が鮮やかな若草色に変化した。
外套の端には、みーの外套と同じく、草のような、風のような文様。
リャナは小指と薬指、中指と人差し指をくっ付けて。
親指を含めた三つの指先で「聖語」を描いていた。
「ーーほう、いきなり『三指』とはの。しかも速く丁寧、且つ正確無比ときた。『正統派』の『至魔』の名は伊達ではないようじゃ」
ヴァンの言い様からすると、彼は「自然派」のようだ。
採点に影響がーーと思ったが、これはヴァンに失礼だ。
魔に誓って、彼は手心など加えない。
「ケモ~、ケモ~」
「ギギィ~っ!」
こちらは「名誉審査官」であることも忘れて、リャナを応援するケモ。
三角帽子にくっ付いたギル様は、液体を噴射しつつ、帽子ごとリャナから離脱した。
元気爆裂、という感じて跳び上がったリャナは、クルクルと三回転してから地面に着地。
ばさぁ、と外套を腕で振り払うと、満面の笑顔で両手を空にーー。
「ふぁーう、りゃーちゃんっ、きょーはまけんうけにきたんだぞーっ!」
ギル様の液体と関係があるのか、リャナの背景は虹色だった。
虹のスクリーンに、映える肌色。
外套よりも濃い緑色。
両手を目一杯、上げているので、バッチリ見えてしまっている。
胸と腰に、踊り子が着るような薄手の布。
それを隠すような、ヒラヒラ。
それから。
自身の銀髪に合わせたのか、銀色の角。
角の位置は、みーではなくヴァレイスナを真似たようだ。
「ケモ~、ケモ~っ!」
「ギィ~~っっ!!」
惜しみない称賛を送るケモとギル様。
みーが着ていると、可愛らしい感じだったが、胸が膨らんでいる少女が着ると少々、煽情的だった。
周囲の景色が意味を失って。
吸い込まれるように、リャナに。
一人の少女の存在が、重たいようで軽く、心に響いてーー。
「ケモ、ケモ!」
「良い脚だ。とケモが言っている」
「いーやーっ! いーやーっ!」
リャナの空色の瞳が潤んだかと思ったら、限界突破。
ギル様から三角帽子を奪い取って、しゃがみ込んだ瞬間に、爆発するように立ち上がって全力で逃走を開始するリャナ。
引き締まった、見た目通りの脚から生じる瞬発力。
+8。
+10。
-1。
ヴァンの手が迷いなく動いて、採点。
8点は、魔法に対する評価。
10点は、「物真似なみー」で、1点減点されたのは、最後まで遣り切らなかったからだろう。
ここでもまた、僕が足を引っ張ってしまう。
僕が居なければ、羞恥心を覚えつつも、リャナは最後まで遣り切ったはず。
「ふむ。では、戻ってくるまでに、使い魔から始めるかの」
「ギ…ギィー」
「ケモ、ケモ」
使い魔ではないが、我が盟友の為に一時の恥辱を受け容れてやろう。
ギル様の言葉を、ケモが伝えてくれる。
リャナが戻ってくるまでに、もう少し掛かるようなのでヴァンに尋ねる。
「ダニステイルでも使い魔を従える者は居ないと聞いたが、そうなのか?」
「幾つかあるの。先ず、使い魔との意思疎通の問題じゃ。言葉が通じないだけでなく、価値観も異なるのだから、人にとっては重荷となるのじゃ。他に厄介なのが、生存本能とも言うべき、抵抗力。人は理性を持つ所為かの、根本的なところで使い魔の意力に敵わんのじゃ。使い魔にしようとし、逆に乗っ取られ、廃人となった者もおる」
「リャナとギル様は問題ない?」
「ふぉっふぉっふぉっ、問題ないともさ。何せ、ギル様は、リャナ・シィリの使い魔ではないからの」
「ギィー」
「ケモー」
バレてたか、と落胆する一獣と一毛玉。
「それどころか、状態としては、シィリのほうがケモ様の使い魔となっているようじゃ」
「ギ…ィ?」
「ケ…モ?」
驚愕するケモとギル様の前で、ヴァンは笑みを深める。
「ふぉっふぉっふぉっ、あまり『ダニステイル』を嘗めぬことじゃ。ギル様は、使い魔であるシィリを、魔力で手助けしようと考えていたかもしれんが、逆効果じゃ」
「ーー一時的に魔力が増したとしても、それを扱えなければ意味はない。特に、繊細な魔力操作が肝となるリャナには、乱れ、の要因ともなり兼ねない」
「さすが婿殿。仰る通りじゃ」
婿、の上にせめて「ダニステイル」を付けて欲しい。
既成事実を作られているような危機感と、近日中に竜の国を出国する罪悪感とが同居する。
-1。
-1。
深刻な葛藤を乗り越えたのか、「魔法使い」の恰好のリャナがやっとこ戻ってくる。
リャナは、チラチラと僕を見てくるので、彼女のやる気の為にも伝えておくことにする。
「見惚れてしまった。リャナは綺麗だという印象だが、先程のリャナは可愛いと同時に、魅力的でもあった」
「っ……」
おかしい。
本心を吐露したら、何故かリャナが持病を発症してしまった。
ギル様が三角帽子の前に乗って、帽子を傾けてリャナの表情を隠す。
「ギィー」
「ケモー」
場所を弁えろ、とケモとギル様が言ってきた。
+1。
何故か、孫の成長を見守るような顔で加点するヴァン。
「杖を」
「はい」
獣にも毛玉にも、ここからが本番。
ヴァンの要請に、リャナは魔力を以て応える。
杖に注がれる魔力。
ーーシュリエのときは、ここで、+6、となったが、ヴァンの手は動かない。
「その杖は、ユミファナトラ様から戴いたという『地竜の杖』じゃな?」
「はい。……『地竜の杖』です」
「地竜の杖」は、リャナと三人娘の、四本ある。
固有名詞としなかったからなのか、リャナが答えに窮したからなのか、-1。
それから、+9。
ユミファナトラも認めたように、「地竜の杖」との相性は格別だったようだ。
「シィリよ。魔に誓い、魔に囁き、魔に唄うべく、『聖語』にて祝福をーー」
「ここに誓います。新たなる魔を窮めるべく、あたしの魂と魔力に導きを」
「聖語」、一文字。
シュリエとは異なる、決別の、予兆の「聖語」。
リャナの背中。
遠ざかっていくことに耐え切れず、ケモと手を繋ぐ。
「ケモ、ケモ」
「うん、リャナなら大丈夫」
森に消えるまで、僕はリャナから目を離すことが出来なかった。
0
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