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炎の凪唄
魔雄の一撃
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「……太陽さん、おはようございます」
夜は、雨が降ったが、アルの「結界」のお陰で濡れなかった。
ーー疲れた。
顔を上げると、日付を跨いで鍛錬から戻った、アルが残していった「光球」が、陽の光を浴びて消滅したところだった。
二人が嫌がったから、ここからは見えない灌木の向こうで、三人は寝ている。
ーー夜もすがら。
最善は尽くしたと思う。
徹夜は、二日までなら大丈夫だ。
今は、物凄く眠いが、ここを越えれば、普段と変わらないように行動できる。
「……うー」
ーー兎さんが、一匹。
ーー兎さんが、二匹。
ーー兎人が、ぱりん。
「……ぱりん?」
顔を下げると、「課題」として渡された、硝子玉のような透明な球体が、破片を散らしながら光に解けていくところだった。
両手に、感触が残っている。
ほんのり、温かい。
ーーもう一度。
失われない内に、ネーラを撫でる。
手が、覚えている。
あの優しさを、転がるような心地を、忘れていない。
「やっぱり……」
両手が、じんわりと熱を宿す。
どうやら、この熱が、球体を割ったようだ。
「ネーラには、絶対に言えないな」
この歳で、母親代わりの兎人に、甘えている妄想をしないといけないとは。
とはいえ、今は、この熱を手放してはならない。
「ぴぃよぉ~~ん、ぴぃよぉ~~ん」
一通り撫で、総仕上げに首の後ろを強めに撫でると、ネーラは、気持ちよさそうな声を上げながら体を擦りつけてくる。
まだ頭が寝惚け、羞恥心が風の女神と遊んでいる内に、確実に物にしてしまわないと。
二度もやってしまうと、灌木からアルが、にょきっと顔を出してくる予感がする。
「ーーよし」
幻影のネーラを撫でれば、消えない熱が心に浮かび上がり、ーーそして、アルの気配も感じられない。
「そういえば、近くに泉があったんだっけか。眠気覚ましに、顔でも洗うか」
ーー飲めるくらいに、綺麗にしておきました。
まずは、二人に魔法を仕込むことを優先する、とアルは言っていた。
「結界」に「浄化」に、恐らくは、他にも併行して魔法が使われているのだろう。
あまりの便利さに、一団に一人、欲しいくらいだ。
だが、実際には、一国に一魔雄でも、一世界に一魔雄でも、持て余しそうだ。
「……ふわぁ~」
止めようとしたが、無駄な足掻きで、欠伸が出てしまう。
アルが寝坊するとは思えないが、まだ寝ているのなら、朝飯は俺が作ろう。
終ぞ幻想団の料理人である、猪人からは、合格点をもらえなかった。
「人種の料理は兎も角、獣種の料理は、味見できないからなぁ」
アルの料理を、ボルネアとオルタンスは、美味しそうに食べていた。
魔雄の記憶なのか、魔力で味見のようなことをしているのか、機会があったら聞いてみよう。
ちゃぷ、という魚が跳ねたような音が聞こえ、俺は、朝日を蓄え輝く、光の泉にーー心を奪われなかった。
何故なら、俺の目は、二つのものに釘付けだったからだ。
「…………」
俺は、まだ、夢の中にいるのだろう。
猫人、というか、獣人の多くは、全身が毛で覆われているが、人獣ーー人猫は、その限りではない。
水が滴り落ちる、優美な曲線。
朝日が飾り立てる、肌が、白さを際立たせる。
片腕では、隠し切れない双丘が、やわらか過ぎるのか、歪に形を変えている。
芸術品めいた美しさを醸すと同時に、現実的な、生々しさに溢れている。
「ーーーー」
俺は、まだ、夢の中にいたいのだろう。
全身を、水に濡らした犬人は、くっきりと、体の形を露わにしている。
人獣に近い獣人なので、四肢とお腹に、肌が露出した箇所が幾つか散見できる。
なまめかしい、湿った毛が、逆に、掻き立てる。
しなやかで、刃のような美しさがあるというのに、目に優しく映えている。
「ーーっ?!」
「っっ!!」
俺は、今すぐに、夢から覚めないといけない。
でないと、死ぬ。
ーー無理だ。
何故なら、これは現実だから、もう、目覚めることなんてできない。
夢に逃避なんてしたら、きっと、死ぬ。
「……ネ…ラ」
最期の言葉が、母親代わりだったことに、少しだけ凹んだ。
何となく、わかる。
もう、生きるか、死ぬか、の二択しかない。
ボルネアとオルタンスが驚いたのは、沐浴中に俺が現れたことが原因だが、同時に、俺の後ろに世界が生まれたからだ。
もちろん、比喩だ。
俺の頭が、正しく理解、認識できるはずがない。
途轍もないものが、空前絶後に絶体絶命の艱難辛苦が、俺の運命と退廃的な舞踊の真っ最中。
これ以上、ないくらいに跳ねた心臓が、ーー止まった。
どうしよう、胸の辺りから、鼓動が感じられない。
心臓が、剥ぎ取られたのかと思ったが、違った。
首が、胴から切り離された。
衝撃、などという生温いものではない、黒い何かが、俺の後頭部辺りの空間を、絶望で染め上げたのだった。
ネ「なにもかくさないっ!」
ラ「いきなりどうした?」
ネ「ネーラだよ?」
ラ「……ネーラの名前は、ドッレ・ネーラで、本当はファーストネームで呼んで欲しいんだが、ファミリーネームの『ネーラ』のほうが気に入っているから、『?』がついている」
ネ「ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、風結の外道はね、ここまでしか書いてないんだよ~」
ラ「そう言ってやるな。異世界では、病が流行っているらしく、風結の勤め先も、今、やばいらしい」
ネ「お休みできるどころかね、仕事が倍になっちゃってるんだよ~」
ラ「一年前には、隣が潰れて、働き過ぎで、二か月ダウンしたからな」
ネ「あのねっ、あのねっ、そういうわけでね、風結は、ネーラの出番をね、しこたま寄越すんだよ~!」
ラ「心配するな。ネーラの出番は、まだ、あるから。……一回だけだが」
ネ「ぴょ~~んっ!!」
ラ「って、こら、暴れるな! そういうわけでっ、投稿のペースは遅くなるかもしれないが、読んでくれたら嬉しい!!」
ネ「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
夜は、雨が降ったが、アルの「結界」のお陰で濡れなかった。
ーー疲れた。
顔を上げると、日付を跨いで鍛錬から戻った、アルが残していった「光球」が、陽の光を浴びて消滅したところだった。
二人が嫌がったから、ここからは見えない灌木の向こうで、三人は寝ている。
ーー夜もすがら。
最善は尽くしたと思う。
徹夜は、二日までなら大丈夫だ。
今は、物凄く眠いが、ここを越えれば、普段と変わらないように行動できる。
「……うー」
ーー兎さんが、一匹。
ーー兎さんが、二匹。
ーー兎人が、ぱりん。
「……ぱりん?」
顔を下げると、「課題」として渡された、硝子玉のような透明な球体が、破片を散らしながら光に解けていくところだった。
両手に、感触が残っている。
ほんのり、温かい。
ーーもう一度。
失われない内に、ネーラを撫でる。
手が、覚えている。
あの優しさを、転がるような心地を、忘れていない。
「やっぱり……」
両手が、じんわりと熱を宿す。
どうやら、この熱が、球体を割ったようだ。
「ネーラには、絶対に言えないな」
この歳で、母親代わりの兎人に、甘えている妄想をしないといけないとは。
とはいえ、今は、この熱を手放してはならない。
「ぴぃよぉ~~ん、ぴぃよぉ~~ん」
一通り撫で、総仕上げに首の後ろを強めに撫でると、ネーラは、気持ちよさそうな声を上げながら体を擦りつけてくる。
まだ頭が寝惚け、羞恥心が風の女神と遊んでいる内に、確実に物にしてしまわないと。
二度もやってしまうと、灌木からアルが、にょきっと顔を出してくる予感がする。
「ーーよし」
幻影のネーラを撫でれば、消えない熱が心に浮かび上がり、ーーそして、アルの気配も感じられない。
「そういえば、近くに泉があったんだっけか。眠気覚ましに、顔でも洗うか」
ーー飲めるくらいに、綺麗にしておきました。
まずは、二人に魔法を仕込むことを優先する、とアルは言っていた。
「結界」に「浄化」に、恐らくは、他にも併行して魔法が使われているのだろう。
あまりの便利さに、一団に一人、欲しいくらいだ。
だが、実際には、一国に一魔雄でも、一世界に一魔雄でも、持て余しそうだ。
「……ふわぁ~」
止めようとしたが、無駄な足掻きで、欠伸が出てしまう。
アルが寝坊するとは思えないが、まだ寝ているのなら、朝飯は俺が作ろう。
終ぞ幻想団の料理人である、猪人からは、合格点をもらえなかった。
「人種の料理は兎も角、獣種の料理は、味見できないからなぁ」
アルの料理を、ボルネアとオルタンスは、美味しそうに食べていた。
魔雄の記憶なのか、魔力で味見のようなことをしているのか、機会があったら聞いてみよう。
ちゃぷ、という魚が跳ねたような音が聞こえ、俺は、朝日を蓄え輝く、光の泉にーー心を奪われなかった。
何故なら、俺の目は、二つのものに釘付けだったからだ。
「…………」
俺は、まだ、夢の中にいるのだろう。
猫人、というか、獣人の多くは、全身が毛で覆われているが、人獣ーー人猫は、その限りではない。
水が滴り落ちる、優美な曲線。
朝日が飾り立てる、肌が、白さを際立たせる。
片腕では、隠し切れない双丘が、やわらか過ぎるのか、歪に形を変えている。
芸術品めいた美しさを醸すと同時に、現実的な、生々しさに溢れている。
「ーーーー」
俺は、まだ、夢の中にいたいのだろう。
全身を、水に濡らした犬人は、くっきりと、体の形を露わにしている。
人獣に近い獣人なので、四肢とお腹に、肌が露出した箇所が幾つか散見できる。
なまめかしい、湿った毛が、逆に、掻き立てる。
しなやかで、刃のような美しさがあるというのに、目に優しく映えている。
「ーーっ?!」
「っっ!!」
俺は、今すぐに、夢から覚めないといけない。
でないと、死ぬ。
ーー無理だ。
何故なら、これは現実だから、もう、目覚めることなんてできない。
夢に逃避なんてしたら、きっと、死ぬ。
「……ネ…ラ」
最期の言葉が、母親代わりだったことに、少しだけ凹んだ。
何となく、わかる。
もう、生きるか、死ぬか、の二択しかない。
ボルネアとオルタンスが驚いたのは、沐浴中に俺が現れたことが原因だが、同時に、俺の後ろに世界が生まれたからだ。
もちろん、比喩だ。
俺の頭が、正しく理解、認識できるはずがない。
途轍もないものが、空前絶後に絶体絶命の艱難辛苦が、俺の運命と退廃的な舞踊の真っ最中。
これ以上、ないくらいに跳ねた心臓が、ーー止まった。
どうしよう、胸の辺りから、鼓動が感じられない。
心臓が、剥ぎ取られたのかと思ったが、違った。
首が、胴から切り離された。
衝撃、などという生温いものではない、黒い何かが、俺の後頭部辺りの空間を、絶望で染め上げたのだった。
ネ「なにもかくさないっ!」
ラ「いきなりどうした?」
ネ「ネーラだよ?」
ラ「……ネーラの名前は、ドッレ・ネーラで、本当はファーストネームで呼んで欲しいんだが、ファミリーネームの『ネーラ』のほうが気に入っているから、『?』がついている」
ネ「ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、風結の外道はね、ここまでしか書いてないんだよ~」
ラ「そう言ってやるな。異世界では、病が流行っているらしく、風結の勤め先も、今、やばいらしい」
ネ「お休みできるどころかね、仕事が倍になっちゃってるんだよ~」
ラ「一年前には、隣が潰れて、働き過ぎで、二か月ダウンしたからな」
ネ「あのねっ、あのねっ、そういうわけでね、風結は、ネーラの出番をね、しこたま寄越すんだよ~!」
ラ「心配するな。ネーラの出番は、まだ、あるから。……一回だけだが」
ネ「ぴょ~~んっ!!」
ラ「って、こら、暴れるな! そういうわけでっ、投稿のペースは遅くなるかもしれないが、読んでくれたら嬉しい!!」
ネ「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
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