めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

幻魔大公

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「ぴょ~~んっ!!」
 兎の上り坂を超えた、兎の大跳躍。
 そのまま飛び込まれると、怪我をするので、長椅子から立ち上がる。
 テーブルの前まで。
 下がりながら、ネーラを抱き留め、勢いを殺すために回転。
 ぐるんぐるんと二回転してから、元通り、アルの隣に座る。
 人猫ボルネア犬人オルタンスは、若干驚いているが、毎度のことなのか、絶雄は平然としている。
「ぴぃよぉ~~ん、ぴぃよぉ~~ん」
 ご無沙汰だった所為か、撫でてもいないのに、ネーラは、気持ちよさそうに声を上げる。
 全精神力を注ぎ込み、勝手に動き出そうとする腕を止める。
「ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、撫でたいのならね、素直に撫でればいいんだよ~?」
 撫でたい。
 撫で回したい。
 もふもふに埋まりたい。
 本音が出たが、両手がプルプルしているが、そんなわけにはいかない。
 勝手に団を抜けておきながら、育ての親に甘えるなど、男の矜持が許さない。
「幼年期の兎族をこますなんて、さすが『幼女殺しあいされもの』ね」
「犯罪。不謹慎。不潔」
 二人の言葉を聞いた、その瞬間、ネーラは、半回転した。
 理性が、やばい。
 真ん丸の、真っ白白な尻尾が、目の前にーー。
「なにもかくさないっ!」
 跳び上がり、どばんっ、と手足を広げる兎人メソルチーナ
 俺の腿の上に着地すると、場所が不安定な所為か、いつものポーズではなく、左手は腰に、左の人差し指は天を指し示し、得意満面のポーズを決める。
「ネーラだよ?」
 うっかり、ネーラの策略に嵌まってしまう。
 足を滑らせた、もふもふを、後ろから抱き留め、お腹に手を回してしまった。
「んっふっふ~、あのねっ、あのねっ、ラクンちゃんの初恋はね、ネーラなんだよ~」
 尻尾の感触に、魂が喜んでしまったため、反応が遅れてしまった。
 これ見よがしに。
 アルの後ろに立っている、二人が、俺を指差し、ひそひそ話をしている。
 こういう場合、否定すれば否定するだけ、深みに嵌まってしまうものだ。
 何より、ネーラの言ったことは、事実なので、ネーラのお嫁さんになるーーなどの、過去の恥辱しつげんが赤裸々に語られてしまう前に。
 扉から、最後に入ってきた男に、ネーラの関心を向けさせることにする。
「ボルネア、オルタンス、勘違いするな。ネーラは、俺の育ての親のようなもので、幼年期どころか青年期、もうすぐ壮年期の兎人だ」
「そうっ、そうっ、そうなんだよ~。壮年期になったらね、ぼんっ、きゅっ、ぼ~んっ、の悩殺兎になるんだよ~。ウーリちゃんをね、誘惑しまくるんだよ~」
 ーー姿形すがたかたちはそのままに、見た目だけ老ける。
 夢や希望を抱いている、大切なあねでもあるネーラに、現実を突きつけるのは、あまりにむごいので、言葉にするのは控えておく。
 兎人が、人兎サンのように成長することは、殆どない。
 それから、なるべく視界に入れないようにする。
 ネーラの、懸想している相手であり、俺の親父である、ウーリ・ノウ名誉伯。
「若っ!」
 と、副団長の、アンリさんが 俺に気づき、声を上げる。
 興行主に挨拶に行くときには、この三人と、相場が決まっている。
 ネーラは、こう見えても事務方のトップで、実際に有能なのだから兎族は侮れない。
 ーー時間の問題ね。
 勘違いしていた。
 ルススさんが言っていたのは、幻想団のーー三人のことだったのだ。
 こうして、鉢合わせしてしまうのだから、彼女おねえさんは、やっぱり途轍もないやばい
「ウーリよ。先に、そちらの問題を、済ませてしまうが良い」
「カステル様。それでは、失礼いたします」
 団員の前だからか、王様然とした絶雄と、こちらも普段とは異なり、かしこまった親父。
 一礼した、親父がーー俺と血がつながっているとは思えないくらい、ガタイの良い、男臭い髭面が、ーー俺の前を素通りする。
「幻想団の団長、ウーリ・ノウです。不肖の息子が迷惑を掛けたようで、申し訳ない」
「ファリア家の嫡子で、ラクル・アル・ファリアーー子爵になります。迷惑などと、とんでもない。旅の間、とても楽しませてもらいました」
「ファリア家ーーというと、あの?」
「八年も前のことですから、お気遣い無用です。祖父の力で、すでに失地は回復しております。『見聞を広めよ』との祖父の勧めで、自由にさせてもらっています」
 堅苦しい遣り取りが終わると、こちらを見ずに、親父が言う。
「帰るぞ、馬鹿息子。そこは、お前のような、半端者が座れるような場所ではない。身を弁えろ」
「ーーっ!」
 一瞬で、滾った。
 何一つ、変わっていない、親父。
 何者でもなかった、空白の、ーー終ぞ、届かなかった、衝動が溢れ出しそうにーー。
 ーーアルが、見ている。
 たった、それだけで。
 ーーそれでは、駄目なのだ。
 ただ、反発するだけでは、これまでと変わらない。
 同じなら。
 団を飛び出してから、これまで、何もなかったということになってしまう。
 あの、日々を、無駄にしてしまうことになる。
「親父。報告もせず、団を飛び出したことは、謝る。だが、俺は、、団に戻るつもりはない」
「半端者に、いつまでも、席があるとでも思っているのか」
「席がないのなら、自分で作る。ーーあのまま、団に留まっていれば、それは敵わない。親父の言うように、俺は、半端者だ。それは、旅をしたところで、変わらない。それでも、俺は今、やっと、生きている、という実感を持つことができている。望んだ、この道を歩くことが、俺自身のためになると、ーー信じている」
 初めてーー。
 正面から、親父と向き合ったのかもしれない。
 ーー母さんのことを知ってから、拗らせてしまった、俺のーー。
「がっはっはっはっ、ウーリよ、お主の負けだ。大人しく、座るが良い」
「カステル様……」
 反論せず、親父は、一人掛けソファに、仏頂面で座る。
 視線で促された、アンリさんが、反対側の席に座る。
 絶雄の右腕である、熊人ドッソラのティソが扉を閉め、絶雄にはべる。
 どうやら、見透かされているようだ。
 俺たちが、戻ってきた理由。
 切り出そうとしたところで、絶雄に、先手を打たれる。
「ウーリ。そちらの、アルだが。ーー如何に見る?」
「過大にも、『魔雄の再来』などと称えられていますが、その二つ名は、彼にこそ相応しいものであると、確信いたしました。ファリア殿の前に立ったとき、ーー初めてカステル様と相対したときと、同様の戦慄が走りました」
 こればかりは、認めないといけない。
 俺がアルと逢ったとき、そこまでのものは、感じなかった。
 幻想側むこうがわであることは、わかっていたが、アルの正体を知るまで、本質を見抜くことは敵わなかった。
「さすがは、ウーリだ。アルは、魔力を失っているというのに、そこまで見抜くとはな」
 応接室に入ってから、すぐに三人がやってきたので、まだアルのことは話していなかったのだが、絶雄なら気づいて当然。
 そのことで、絶雄から嫌味を言われるくらいのことは、覚悟していたが、俺はまだ、絶雄という男のことを、甘く見ていたようだ。
 魔法を、魔力を失ったくらいで、アルが、変わるわけがない。
 ーー絶対の信頼。
 揺るがない意思が、絶雄を絶雄たらしめている。
「そこのアルは、何を隠そうーー」
「ふゆんっ、ふゆんっ、ふゆんっ、ふゆ~んっ」
 ーー仕舞った。
 見ると、限界を迎えていた、俺の手が、無意識のうちに、ネーラを撫でていた。
 態とではない、と言っても、信じてもらえないだろう。
 絶雄の、ジト目。
 血はつながっていなくても、やはり親子なのか、ボルネアとオルタンスの眼差しに、そっくりだ。
 思い切り、絶雄の、打ち明け話の腰を折ってしまった。
「ラクンはな、ウーリと違い、煮込みツヴィングリ極めつけカルヴァンを完食しよったぞ」
「さすがは若! 一口で腹を壊した団長とは、物が違います!」
 腹癒せに、懐かしい話を暴露する、大人げない絶雄おうさま
 呼応し、こちらも暴露話を披露する副団長。
 どういうわけか、アンリさんは、俺を大いに買い被っているので、彼のことは、少しだけ、苦手だ。
 好い人、というか、好い人すぎるのだが、彼は、あのルススおねえさんの夫だ。
 彼女の、愛、を受け止められる男なのだから、用心するに如くはない。
「ふゆゆんっ、ふゆゆんっ、ふゆゆんっゆ~んっ」
 止まらない、止められない、俺の手。
 ご機嫌な、ネーラ。
 視線を逸らす、親父。
「ラクンちゃんがね、魔雄様だったんだよ~?」
「違うぞ、ネーラ。確かに、ツヴィングリを完食したのは、俺だが、俺は『偽魔雄』だ。本物の『魔雄様』は、こっちだ」
 絶雄の楽しみを奪ってやる。
 もう、グダグダだから、さっさと種明かしをする。
「実はねっ、実はねっ、あたしは、アルちゃんがね、ちょっとだけ怖いんだよ~」
「珍しいな。ネーラが誰かを怖がるなんて」
 ネーラは、「なにもかくさない」ので、嫌いな者は、嫌い、とはっきり言う。
 楽観的なようで、実は豪胆でもある、彼女の口から、怖い、という言葉が出てきたことに、驚きを禁じ得ない。
 兎族は、気配に敏感だと言われているから、魔雄アルの底知れない、何かを、感じ取っているのかもしれない。
「はは、懐かしいですね。兎族の、保護国を造っているときも、可愛い兎さんたちから、微妙に距離を置かれてしまいました」
「がっかっかっかっ、アルが撫でられる兎族は、サッソだけだったからな」
「サッソの、娘さんに拒まれたときに、色々と諦めがつきました」
 絶雄と魔雄、二人の会話で、半信半疑だった、ネーラとアンリさんも、納得の表情を見せる。
「あのねっ、あのねっ、聞きたいことがあったんだよ~。サッソ様はね、カステル様と魔雄様が造ってくれた、兎国の話に出てこないんだよ~。兎国の王様はね、違う人だったし、お爺ちゃんお父さんもね、知らないみたいだったんだよ~」
 俺に背中を預け、ばっさばっさと短い両手を振る。
 言われてみれば、そうだ。
 兎国の話なのに、兎族の英雄であるはずの、爆雄が係わっていないのは、不自然。
 ネーラの疑問に、絶雄とアルが顔を見合わせると、魔雄アルは、にたり、と笑った。
 絶雄が、びくっと体を震わせる。
 今回は、俺とは関係ないようなので、観客として楽しませてもらうことにする。
「カステル。これから、四英雄みんなの話をしようと思います。そして、その後に、カステルが凹む話をします。千三百年、生きてきた、カステルが、最も凹むことになるかもしれませんが、ーー聞きますか?」
 話をするのは、確定のようだ。
 絶雄の答えがわかっていて尚、聞くのだから、本当にアルは、意地悪だ。
「……皆のことだ。聞かない、などということを、わしが選べるはずもなかろう」
 アルの言い様から、隠された世界の秘密、といった類のものではないようだ。
 だが、絶雄にとっては、それに匹敵する話なのだろう。
 ーー魔雄ハビヒ・ツブルクが、墓場まで持っていった、話。
 不謹慎だが、他人事なので、少しだけ楽しみにしていると。
「その前に。ーーカステル。ラクンさんの称号は、何にしますか?」
 油断していた、俺は、話についていくことができなかった。
 意地悪アルの本質を、見誤っていたことを、俺はい、平和の神ロノに祈った。
「そうだな。『幻魔公』が良いと思うが、どうだ?」
「素晴らしい!」
 アンリさんが、賛同するも、ネーラが異論を唱える。
「む~ん? ちょっとね、語呂が悪い感じがするんだよ~。心象イメージがし難いからね、『幻魔大公』がいいんだよ~」
「……何の、話だ?」
 まだ頭が混乱し、話の全容がわかっていないが、このまま流してしまうと、あとで、きっと、酷いことになる。
「何、と言われましても。カステルが勝手に贈る、称号の話です。ウーリさんの、名誉伯、と同じものです。心配せずとも、カステルが勝手に言っているだけのことですから、あって、ないようなものです。『幻魔大公』を僕は推しますが、二人はどうしますか?」
 アルに振られた、二人が答える。
「『幻嗅げんきゅう公』を、推しますわ」
「『幻滅公』が、ラクンに、お似合い」
 それはそれで、嫌だ。
 どちらにせよ、勝手に贈る、で済む話ではない。
 絶雄の影響力は、大陸ルツェルンーーどころか、世界に及ぶ。
「ぐっ……」
  対抗策が思いつかない内に、更に話が進んでしまう。
「ラクンと行動するのは、アルだからな。ここは、アルの意見を尊重しよう」
「そっ、そんな!」
 アンリさんは、身を乗り出し、絶雄に翻意を迫る。
 頼れる者はいないかと、見回すと。
 諦めましょう、とばかりに、ティソが毛むくじゃらの頭を左右に振った。
 絶体絶命。
 ネーラを撫でる手も、止まってしまった、そんな、末期的な状況に、光が差した。
「カステル様。ーーさすがに、冗談が過ぎます」
 生まれて初めて親父を応援した。
 子供の頃の、憧れていた、親父の背中を幻視しそうになるが、再び、もふもふを堪能。
 ネーラの感触で吹き飛ばす。
「ふゆっ、ふゆっ、ふゆっ、ふゆ~っ」
 緊迫した場面に、ネーラの気の抜けた、やわらかな声が室内に響き渡るが、背景音楽のように、誰も気にしなくなってしまった。
「そのように、怖い顔をするでない。ラクンの称号は、ここだけの話だ。それを使うかどうかは、ラクン次第。それに、意味もなく、称号を贈るのではない。ラクンは、人種アオスタを、すべてのアオスタを救ったのだ。ウーリよ、お主も、命を救われた者の、一人だ」
 どうしよう。
 絶雄が、「魔雄の遺産」の経緯を知っていたことに、驚いている場合ではない。
 今は、「嘘は言わない」の状況だ。
 そのまま「すべてを言わない」のままにしてしまうと、後々、取り返しのつかない事態に発展するかもしれない。
 だが、アルの悪事せんたく加担してかかわってしまった手前、積極的には、否定しづらい。
「あっ、もしかしてね、『魔雄の遺産』のことなんだよ~?」
「ネーラまで、知っているのか?」
 と、そこで思い出した。
 ーー可愛い、兎さん。
 ベルニナが、俺に向けた、言葉。
 「魔雄の遺産」のことまで聞き出していたとなると、思った以上に、深く係わっていたのかもしれない。
「綺麗なね、貴族のお嬢さんと、お近づきになったんだよ~」
「……綺麗?」
 思い返してみると。
 確かに、顔の造形は、美人の範疇にあったと思う。
 薄汚れておらず、臭いもせず、髪も通常の状態なら、ーーベルニナの容姿に囚われ、彼女の内面ほのおの輝きを見逃していたかもしれない。
 色々と、釈明というか訂正をしたいところだが、今は、諦める。
 ベルニナのことを思い出し、悠長に話している時間などないと、絶雄をせっつこうとしたら、いったいどこまで知っているのか、またもや先手を打たれてしまった。
「外交特権で、良いか?」
かしこまりました。すぐに準備いたしましょう」
 絶雄とティソの間で、不穏な会話が交わされる。
 ーー頼られるのが好き。
 アルが、そう言っていたが、これはもう、権力の私物化だ。
「アル。頼む」
 ーー絶雄様がやりすぎないように、アルが止めてくれ。
 事前に頼んでいた通り、アルにお願いしたが、ーー俺は、全力で間違えたかもしれない。
 こんな、面白おかしな状況。
 便乗すること、請け合い。
「カステル。他に、顧問なんて、どうでしょう」
「ふむ。それは名案だ。わしの戦略顧問として、雇い入れるとしよう。さすれば、『千眼』などという誤った評価を、正せるやもしれん」
 ーー二人は、俺を苛めて楽しんでいるだけだ。
 そう信じたいところだが、絶雄と魔雄の目が、本気以外の何物でもない。
「……ネーラ。助けてくれ」
 畢竟するに、最後に縋れるのは、ネーラだけだった。
 嘘ではない。
 だが、そこまで期待してのことではないので、駄目元で頼んでみる。
 俺の手から逃れると、ネーラは、すちゃっと立ち上がり、二人を叱った。
「カステル! ハビヒ!」
「ひぃっ!」
「はいっ!」
 絶雄は、頭を抱え、アルは、背筋を伸ばした。
「ラクンちゃんを苛めると! 兎さんは許しませんよ!!」
 両手を腰に、えっへん、なネーラ。
「…………」
「…………」
 固まってしまった、四英雄さいきょうの、二人。
 鼻息荒く、大威張りの、兎人。
 恐らく、爆雄を彷彿とさせるような言行を、ネーラが取ったのだろうが、何とも異質な光景だ。
 これ以上、ネーラが暴走しない内に、絶雄に尋ねることにする。
「ところで、絶雄様は、何でそこまで怯えているんだ?」
「……怯えてなどおらん」
 子供のように強がる、最強存在ぜつゆう
「実は、後で話すと言っていた、カステルが凹む話は、そこにつながっているんです」
 アルは、ネーラを気にしながら、低姿勢で話す。
「アル。爆雄とネーラは、似ているのか?」
 以前も、似たようなことを考えたことがあったので、試みに聞いてみる。
「いえ、まったく。ただ、可愛い兎さんに叱られると、体が勝手に反応してしまうというか、条件反射のようなものです」
 あとで四英雄について話すようだし、これ以上は突っ込まないほうが良いだろう。
「ラクンちゃんはね、ネーラを褒めまくるんだよ~」
 それは、次に逢ったときに取っておくとして、今は、「撫師ナデストロ」の本領発揮。
「使者、じゃなくて、親書、でもやりすぎかーー」
「助力を仰げる程度の、カステル様の手紙を用意いたしましょう」
 限られた時間の中で、ベルニナを捜すためには、絶雄を恃む以外に、思いつかない。
 俺たちの事情を勘案した上での、適切な提案に、俺は、二つの意味で、頭を下げた。
「すまない。ティソさん、頼む」
 俺の我が儘で、手間を掛けさせてしまうのが、一つ。
 もう一つは、アルの話。
 四英雄の、就中、絶雄の話が聞けなくなってしまうことを、心から謝罪する。
「心得ました。では、用意して参ります」
 絶雄を慕っている、熊人は、残念さをおくびにも出さず、扉から出て行ったのだった。
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